習政権、もろ刃の「共同富裕」〈岐路2022〉

習政権、もろ刃の「共同富裕」〈岐路2022〉
秋の中国共産党大会で3期目へ 格差是正、成長下押しも
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM249G60U1A121C2000000/

『2022年がスタートした。岸田文雄首相にとって政権運営の実績が評価される参院選があり、米国は連邦議会の中間選挙、中国では共産党大会が控える。新型コロナウイルスとの闘い、正常化へ向けた金融政策、デジタルトランスフォーメーション(DX)の担い手となる人材育成……。岐路に立つ国内外の動きを展望する。

中国共産党は2022年秋、5年に一度の党大会を開く。習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)は異例の3期目入りを視野に入れる。習氏が次の5年に向けて重視するのが、スローガンとして掲げてきた「共同富裕(共に豊かになる)」の具体化だ。目玉の1つとして不動産税の試験導入を目指すが、行き過ぎた格差是正の動きは経済の下押し要因になるリスクもはらむ。

党大会では、習氏を新たに支える次期指導部が決まる。李克強(リー・クォーチャン)首相は交代の公算が大きい。習氏の側近である上海市トップの李強・上海市共産党委員会書記と広東省トップの李希・広東省党委員会書記、汪洋(ワン・ヤン)全国政治協商会議主席が次期首相候補として取り沙汰されている。

1978年に始まった改革開放政策をテコに、中国は世界第2位の経済大国に成長した。2020年までに名目国内総生産(GDP)は276倍、貿易総額は220倍に拡大した。その陰で格差問題が深刻になった。新たな指導部の経済政策は、社会主義の色彩が強まりそうだ。

クレディ・スイスによると中国富裕層の上位1%による富の占有率は00年に20.9%だったが、15年に31.5%まで高まった。20年は30.6%になったが、過去20年間の上昇幅は日米欧やインド、ロシア、ブラジルよりも大きい。

習指導部が発足した12年時点で2.9倍の開きがあった都市と農村の1人当たり可処分所得の差は2.6倍に縮まった。一方で、都市の住民の間では開きが目立つ。世帯ごとの1人当たり可処分所得をみると、上位20%の世帯の平均は20年、下位20%の平均の6.2倍だった。12年は5.0倍だった。

習指導部はこれまでに小康社会(ややゆとりのある社会)と脱貧困の達成を宣言した。国内の所得格差を縮める共同富裕の推進に重点を置く。

不動産税を導入

関心を集めるのが、日本の固定資産税にあたる不動産税の試験導入だ。国有である土地の使用権と建物にかかる所有税を指す。大都市で年収の数十倍もするマンションは都市内格差の象徴で、所有税を設けて投機を防ぎ、中古市場に売り出す物件を増やして価格を抑える狙いがある。

不動産税の試験導入でマンション価格高騰の抑制を狙う(2021年9月、中国恒大集団が手掛ける建設中の物件、湖北省)=共同

中国の家計資産の6割は住宅だ。複数物件を所有する人の2軒目以降が課税対象となりそうだ。試験期間は5年。習指導部はモデル都市での実験を踏まえ、全国展開を視野に入れる。ただ、障害は多い。試験都市の候補には広東省深圳市などが挙がるが、北京市は外れる公算が大きい。党高官やその親族が所有する物件が多く、政治的な反発が強いためだとされる。

政府の不動産金融への規制強化などでマンション市場が冷え込んだことも逆風だ。不動産開発投資は21年9月から前年同月比で減少が続く。主要70都市の新築マンション価格も単純平均でみると、21年9月に6年5カ月ぶりの下落に転じた。地元政府が不動産会社や銀行を集めた会議などでは、新税導入の先送りを求める声もあがる。コストの増加が不動産の購買意欲を一段とそぎかねない、との懸念が関係者の頭をよぎる。

税制を通じた格差是正策は不動産税だけではない。習氏は21年8月の党中央財経委員会で、税制改革による分配の拡充に言及した。配当や資産譲渡益など資本所得への徴税を強化するとした。ぜいたく品や嗜好品に課す消費税の対象も広げる。この会議の後に、IT(情報技術)企業の創業者らがこぞって寄付を申し出たが、高所得者や成功を納めた企業からの寄付は税制優遇を通じて促す方針だ。

習指導部が分配を重視する背景には、成長率の鈍化もある。中国人民銀行(中央銀行)の試算では、21年に5.7%の潜在成長率は22年に5.5%となり、25年には5.1%まで下がる。中国経済の成熟で機械の導入など資本投資による成長の押し上げ効果が小さくなるとともに、長年の産児制限による働き手の減少が成長の足かせになる。

高齢化も問題

高齢化は大きな問題だ。20年の国勢調査によると、男性の法定退職年齢である60歳以上の人口は10年から5割近く増えた。22年からは大量退職が本格化する。多数の餓死者を出した大躍進政策後に生まれたベビーブーム世代の男性が60歳に達するからだ。

サラリーマンや自営業者が加入する公的年金は14年から年金支給が保険料収入を上回っている。社会保障制度の見直しを含め、急速な少子高齢化への対応は喫緊の課題だ。中国政府は、25年までの5カ年計画の主要課題に法定退職年齢の引き上げを盛り込んだ。定年延長で働き手を増やし、年金の支給開始年齢も先に延ばす方針だ。

外交面では、米国との覇権争いは今後も続きそうだ。1月1日に発効した東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)をテコに、地域経済への影響力拡大を狙う。

21年9月に加盟申請した環太平洋経済連携協定(TPP)も早期の交渉入りを目指す。ただ、国有企業の優遇や政府調達における内外企業の差別、データ統制の強化はTPP加盟国が問題視する。習氏は同年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)関連会合で「法に基づき国内外の企業に同等の待遇を与える」と強調した。TPPの要求を意識したとみられ、今後は具体的な制度設計で実効性をどう示すかが問われている。

(北京=川手伊織、羽田野主)

〈Think!〉TPP加盟交渉 慎重に 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 青山瑠妙氏

習近平(シー・ジンピン)国家主席にとって2022年は正念場の一年となりそうだ。習氏はこれまでの1期目、2期目は権力基盤固めに注力してきた。21年11月の第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)を終え権力を強固なものにし、ようやく取り組みたい政策課題に力を振り向けられるようになるはずだ。

内政の課題は山積している。高騰する不動産価格の抑制、広がり続ける教育機会の格差是正など、これまでの政権が残した課題に取り組む方向性は評価できる。中国では市場経済導入後、経済格差の拡大が社会階層の固定化につながってしまったからだ。

しかし、習氏の掲げる「共同富裕」のスローガンは貧富の格差解消と「健全な社会」の構築の両方を目指すものだ。党が考えるマッチョな青少年の育成など「正しい恋愛観」や「正しい思想」を植え付ける政策は若者が強く反発している。また、不動産価格の急落で混乱を発生させてもいけない。住宅や教育の社会問題の改革推進は急務だが、市場経済の現実を無視した強権的な手法ではいびつな結果を生むことになるだろう。

内政の改革推進には非常に慎重なかじ取りが求められる。もし失敗すれば、体制を揺るがす震源地にもなりかねず、習氏は当面国内の政策課題に注力せざるを得ない。

外交も内政の課題にリンクした優先順位で進められる。60年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現は、途上国への温暖化対策支援の「グリーン一帯一路」と連動している。同様に、中国のデジタル技術を輸出する「デジタル一帯一路」も進むだろう。

中国は環太平洋経済連携協定(TPP)加盟に向けて、さまざまな理由をつけてルール適用の例外を求める可能性がある。日本をはじめとする加盟国は、ルールをゆがめることなく、交渉するスタンスを取ることが重要だ。

あおやま・るみ 慶大大学院博士課程修了(法学)。米スタンフォード大学客員研究員、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て2018年から早稲田大学現代中国研究所所長。専門は国際関係論、現代中国外交。

〈キーワード〉中国共産党大会

中華人民共和国を統治している共産党の最高意思決定機関。5年に一度開催し、重要な政策課題を協議する。中国全土や軍などから2000人を超える代表が参加し、指導幹部で約200人の中央委員を選出するほか、党規約の改正などを決める。それまでの5年間を総括し、その後の政策の方向性なども決定する。

次回は2022年秋に予定されている。前回の17年の党大会では習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)が演説で、21世紀半ばまでに経済、軍事、文化など幅広い分野で世界の頂を目指し、米国と並ぶ強国となる長期構想を表明した。習氏の名前を冠した政治思想を党規約に加え、権威を強化した。

中央委員のうち、最高指導部と呼ぶ政治局常務委員の人事も焦点だ。現行は総書記の習氏を筆頭に7人体制で、政権基盤の安定を目指し習氏に近い人物がどのように選出されるかが注目される。

〈キーワード〉異例の「3期目」

中国共産党のトップである総書記には明示された任期はない。それでも3期目が異例といわれるのは、胡錦濤(フー・ジンタオ)前総書記や江沢民(ジアン・ズォーミン)元総書記が原則10年でポストを譲ってきたためだ。

総書記が兼ねる国家主席の任期が2期10年だったため、それに合わせる形で総書記も交代してきた。

習近平(シー・ジンピン)総書記は2018年に憲法を改正し、国家主席の任期をなくした。これに伴い、総書記の任期の慣習が崩れ、3期目入りが可能になったとの指摘がある。

中国の事実上の最高権力者との見方もある中国人民解放軍のトップ、中央軍事委員会主席はもともと任期がない。

習氏は22年秋の共産党大会で、総書記、国家主席、中央軍事委員会主席のポストを兼務する形で続投するとの見方が多い。いずれも任期がなく、「終身の独裁制」を懸念する声も出ている。

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