米中間選挙、バイデン氏背水〈岐路2022〉

米中間選挙、バイデン氏背水〈岐路2022〉
民主、過半数割れの危機 反発と失望、支持率落ち込む
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN234Q70T21C21A1000000/

『2022年がスタートした。岸田文雄首相にとって政権運営の実績が評価される参院選があり、米国は連邦議会の中間選挙、中国では共産党大会が控える。新型コロナウイルスとの闘い、正常化へ向けた金融政策、デジタルトランスフォーメーション(DX)の担い手となる人材育成……。岐路に立つ国内外の動きを展望する。

2022年の米国政治はバイデン大統領への審判となる11月に控える連邦議会の中間選挙を軸に展開される。上院の3分の1と下院の全議席が改選となる両院で与党・民主党が過半数を維持できるかが焦点になる。トランプ前大統領がなお影響力を維持する野党・共和党は対決姿勢を強める構えで、与野党の攻防は国内の分断をあおりかねない。

「米国を再建するための青写真であり、誰も取り残さないためのものだ」。21年11月17日、バイデン氏は中西部ミシガン州の米ゼネラル・モーターズ(GM)の工場を訪れ、同15日に署名した総額1兆ドル(約110兆円)のインフラ投資法の意義を強調した。

同じ場では成立が危ぶまれる歳出・歳入法にも言及した。「Build Back Better(より良き再建)計画も同様で、我々の人々のためのものだ」と理解を求めた。子育て支援や気候変動対策に10年で1.75兆ドル(200兆円)規模を投じる看板政策にもかかわらず、民主党内で財政規律を重視する中道派と歳出拡大を求める急進左派の対立が影を落とす。

20年の選挙では大統領と上下院の多数派をいずれも民主党が占め、政策を進めやすくなる「トリプルブルー」を勝ち取った。現在の議席数は上下院とも民主党が過半数を維持するものの数は拮抗する。

上下院とも拮抗

上院(定数100)では与党民主党と野党共和党の議席が50ずつだ。法案採決などで賛否が同数の場合はハリス副大統領(民主党)が票を投じるため、民主党は上院でかろうじて主導権を握っているにすぎない。下院(定数435)も民主党と共和党の議席数の差は8しかない。

民主党は金融・財政政策や気候変動対策など主張が異なる議員が同じ党にいる寄り合い所帯だ。一方に配慮すればもう一方が反発し、なかなか党がまとまれない。

バイデン政権に勢いがあれば党の結束を維持できるが、支持率低迷が響く。ワシントン・ポスト紙と米ABCテレビが21年11月に発表した世論調査によると、バイデン氏の支持率は41%となり、同調査として最低を更新した。

ガソリン高を抑えようと11月に決めた戦略石油備蓄の放出を巡っても対応が後手に回った。バイデン政権の高官は「インフレは一時的だ」と繰り返したが、物価は落ち着かない。ガソリンだけでなく、食品や医療など幅広いモノやサービスが値上がりして米国民の家計に打撃を与えた。

21年11月の消費者物価指数(CPI、1982~84年=100)は前年同月比の上昇率は6.8%。39年ぶりの高水準に勢いを強め、7カ月連続で5%以上伸びた。庶民の懐を直撃するインフレは政権批判につながりやすい。

バイデン政権の支持率が低迷するため、22年の中間選挙では全議席が改選となる下院だけでなく、3分の1だけが改選となる上院でも共和党が非改選と合わせて過半数を奪回するとの見方が広がる。米CNNは「22年以降は共和党が上院の過半数を占める可能性が高い」と報じた。

共和党も波乗れず

オバマ政権だった10年の中間選挙では共和党が下院で過半数を制し、14年の同選挙で上下両院とも共和党が過半数を押さえた。オバマ元大統領は任期2期目の残り2年間は、共和党にことごとく法案に反対されて政策が滞った。

今なお尾を引く当時の政策のひとつに環太平洋経済連携協定(TPP)がある。16年2月に日米を含む12カ国で署名したにもかかわらず、オバマ政権で議会承認ができず、トランプ前大統領が脱退を表明。バイデン政権も復帰に慎重姿勢を崩していない。米中間選挙の行方は日本の政策運営にも大きな影響を与える。

22年の中間選挙で共和党が議会で多数派となれば、上下両院で過半数を持つ現在ですら法案成立にこぎ着けることに苦戦しているバイデン政権の政策実行力が一段と鈍るのは想像に難くない。省庁幹部の任免を左右する権限がある上院まで多数を失えば人事までフリーハンドを奪われる。

一方、バイデン政権の支持率低迷で勢いづくはずの共和党もまとまりきれずにいる。党指導部には「親トランプ路線」と距離を置く向きもあるが、有権者に根強い支持があるトランプ氏との対立を避けたいとの議員心理が働く。トランプ氏は自身と対立する共和党内の「反トランプ派」らを厳しく批判し、選挙区には「刺客」を立てた。

21年11月にあったバージニア州知事選では事前の予想に反して勝利した共和党候補は「トランプ色」を最小限に抑え、教育問題や経済対策を地道に訴えた。「トランプ隠し」が党派対立に嫌気がさしている浮動票の掘り起こしにつながったとの分析もある。中間選挙ではトランプ氏を前面に押し出して戦いに臨むのか難しい判断になる。

国際社会では既存の国際秩序への挑戦を隠さない中国が存在感を高める。「選挙イヤー」を迎える米国が世論を意識して対中摩擦を深める強硬姿勢をとれば、日本など同盟国を巻き込んで世界の不安定さは一段と増す。(ワシントン=坂口幸裕)

<Think!>ねじれ議会なら政策停滞 丸紅執行役員経済研究所長 今村卓氏

バイデン政権への逆風が強まっている。新型コロナウイルス対応は保守層の反発を招き、コロナ禍による供給制約やエネルギー高騰が招いたインフレは中間所得層の不満につながった。子育て支援や気候変動対策を盛った歳出・歳入法案も、財政規模が10年間で1.75兆ドル(約200兆円)と当初案から半減し、民主党支持者らが失望した。

中間選挙の運動が本格化する2022年夏には供給制約が緩んで物価上昇率が落ち着くとみる。コロナ禍前の4%以下まで失業率が下がれば、賃金に上昇圧力がかかり、中間層に恩恵となる。それでも民主党が上下両院ともに少数派になるシナリオは現実味があるとみておくべきだ。

政権与党と議会多数派の政党が異なる「ねじれ」が生じると政策が停滞するリスクが高まる。民主党と共和党の意見の隔たりが大きい経済政策では、実質的に何もできなくなる恐れがある。共和党が主導した法案が議会を通過しても、バイデン氏が拒否権を行使するためだ。気候変動関連では議会の協力を得られず、バイデン氏が大統領令を連発する状況もありうる。

バイデン政権は環太平洋経済連携協定(TPP)への熱意を失ったようにみえるが、雇用環境が好転すれば前提は変わる。中国に対抗するためTPP復帰論が米国で盛り上がる展開はあるとみる。

外交政策では大きな方針転換はなさそうだ。中国への厳しい視線は党派を超えて共有されている。米中のデカップリング(分断)は緩やかに進行し続けるだろう。

中間選挙の結果は24年の大統領選にも影響する。ねじれ議会で政策を実現できなければバイデン氏の求心力はさらに下がる。共和党ではトランプ前大統領への支持が依然強く、トランプ氏の出馬論が消えない。「バイデン氏で勝てるのか」という意見が民主党内で台頭すれば、バイデン政権は1期目でレームダック(死に体)に陥りかねない。

いまむら・たかし 丸紅経済研究所チーフエコノミストなどを経て2008年から17年まで丸紅ワシントン事務所長。19年から現職。専門は米国政治・経済。

<キーワード>中間選挙

4年に1度ある米大統領選の中間の年に実施する米連邦議会選挙。現職大統領の2年間を評価する「信任投票」の側面が強い。
任期6年の上院は定数100議席の約3分の1、任期2年の下院は全435議席がそれぞれ改選の対象となる。11月の第1月曜日の次の火曜日になる。
米国勢調査局によると2014年の中間選挙の投票率は41.9%で統計開始の1978年以降で最低だったが、前回18年の投票率は53.4%と過去最高を記録。18~29歳の若年層が大幅に伸びた。

中間選挙は大統領が所属する与党に不利というのが定説だ。オバマ政権の民主党は10年、14年に上下院とも議席を減らした。

<キーワード>スイングステート

米大統領選のたびに勝利政党が変わりやすい激戦州を指す。民主党、共和党それぞれが伝統的に強い州が多い中、振り子のように揺れることから名付けられた。これらの州が選挙の勝敗を左右する。

南部フロリダや中西部オハイオ、東部ペンシルベニアなど10~15程度の州があてはまる。これらの州に人員や資金などを重点的に投入して選挙運動を展開する。

民主党が地盤とする北東部や西海岸はそのシンボルカラーからブルーステート(青い州)と呼ばれる。共和党が強い中西部や南部はレッドステート(赤い州)だ。スイングステートは青と赤を混ぜたパープルステート(紫の州)ともいわれる。』