[FT]中国台頭、米の責任ではない 再浮上は必然

[FT]中国台頭、米の責任ではない 再浮上は必然
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『読者はこんなニュースは何度も見聞きしているだろう。大切な人を失った人物が、その命を奪った病気か犯罪、公共の危険に対して大儀を掲げて戦いに乗り出す。するとキャンペーンが立ち上がり、寄付金が集まる――。

中国の台頭はその歴史からみれば驚くべきことではないという(1974年11月、北京でキッシンジャー米国務長官㊧と会談する鄧小平副首相)=AP

彼らを突き動かすのは、ほかの人が同じ悲しみを味わうことのないようにという純粋な願いだ。だがその根底には、自らが物事を決める力を取り戻したいという心理的要求もある。人のことなど知らん顔という世界でも、何かされた人にとっては自分から行動を起こすことは短時間であってもその人の傷を癒やすことにつながる。

国家にも自らが抱えた傷を癒やすプロセスが必要だ。米国は1990年代は世界で唯一の覇権国だった。中国が今後、米国を追い抜くかどうかはともかく、米国は90年代当時の地位は既に失った。そのトラウマを癒やそうと米国は、一体何をどうすればよかったのかとくよくよと考え続けている。

20年前の12月に中国の世界貿易機関(WTO)加盟を承認していなかったら違っていたのではないか。米国の歴代政権が中国政府を相手にかくも甘い考えでいなければ違っていたのではないか。多くの失敗を重ねてきたが、1949年(編集注、蔣介石が国民政府を率いて台湾に撤退した)にまで遡り、あの時、手を打っておくべきだったのではないかとまで考えている。実際、米共和党員の中には今でも中国を共産主義に「奪われた」と思っている者がいる。

中国台頭阻止に失敗したと考えるのは「逃げ」

こうした自責の念は表向きは勇気ある率直な反省にみえる。だが、失敗したのはどこだったかと模索するのは「逃げ」ともいえる。現状を自分たちが過ちを犯した結果だと捉えるのでなければ、米国よりはるかに巨大で長い歴史を持つ中国が1970年代に鄧小平の下で開放を進め始めた以上、世界で(再び)台頭するのは必然だったと認めることになるからだ。

欧米はある程度、犠牲を払えば中国台頭を遅らせられたかもしれないが、その台頭は必然だった。西側が阻止することなどもとより不可能だったのだ。

己の無力を認めることは、罪を認めるよりもつらい。米国以外の西側諸国も、中国台頭を阻止できないと認めるのは米国と同様にできていない。「欧米はいかに簡単に中国の台頭を許したか」という見出しが米フォックスニュースで躍っても驚かないが、英BBCのサイトに10日、似たタイトルの記事が載った。これらの見出しには、自分たちの無力さを認めたがらない欧米のメンタリティーが反映されており、2つの前提が含まれているように思える。

第一は、中国の2001年のWTO加盟は阻止できたはずだという考えだ。だがそれは当時、市場開放に向け改革を進めていた世界人口の5分の1を占める中国人を世界経済から排除することを意味する。そんなことをしていいと思っているのか。第二は加盟を阻止していれば、西側諸国は不利益を被ることもなく中国の発展を阻めたはずだという考えだ。あれだけ多くの西側企業が中国の安い労働力をてこに大きく成長した事実を忘れているのか、と思う。

米歴代政権が中国台頭を招いたとする問題点

こうした考え方は学術的には問題だが、学術上の問題にすぎないのなら気にする必要はない。だが問題視すべきは、米歴代政権の失敗が中国台頭を招いたとする思い込みが政治上、深刻な問題を招いていることだ。トランプ大統領の登場を実現させた世論の一つは、米エリートは米国民に対する責任を果たさなかったばかりか、中国台頭に加担さえしたというものだ。

クリントン氏、ブッシュ氏(第43代)、オバマ氏は大統領時代、産業大国の米国を他国に売り渡したと今も批判されている(だが彼らが推進した中国との貿易のおかげで、米家庭が安価な消費財を享受できた点は評価されていない)。中国の台頭はその長い栄枯盛衰の歴史からみれば驚くべきことではない。今の中国台頭を異常現象のように捉えること自体が時代錯誤だ。だが、こんな見方が米国のポピュリズムを支えている。

進歩的左派も彼らならではの自己中心的な世界観がある。イエメンの内戦が終わらないのは、彼らに欧米が武器を売っているせいだし、アフリカの貧困はワシントン・コンセンサスの責任だ。アフガニスタン崩壊はあろうことか我々が見捨てたからだ、と考えている。リベラル派や中道派さえ、ロシアが独裁制を維持できているのは、同政府が自らに近い有力者にロンドンの一等地を購入することを認めているからだと理解している。

世界をこうみる人には、世界中の悪いことは全て欧米に問題の根があるということになる。これは国際的視野があるかに思えるが、極めて上から目線の見方ではないか。米国が多くの問題を引き起こしているという謙虚さをみせるふりをしているだけで、実は米国は万能だという空想にも近いものの見方と言わざるを得ない。

欧米が過酷な「真実(自分たちがいかに罪深いか)」と延々と向き合っているのは、より厳しい真実(もはや世界の中心的存在ではない)から目をそらすためだ。米国は、世界総生産のかなりの部分を担い、遠く離れた海外の情勢にも介入していた1949年当時でさえ、各国が自国のことを自ら決めたいという心と意思を持っているとは想像もできなかった。今世紀に入って依然そんな考えを持ち続けているのは、自画自賛の妄想の中で生きているようなものだ。

中国の底力理解している人が本物のタカ派

米国がこれだけ衰退しているにもかかわらず、まだ覇権国と自負していることが米政府の中国への矛盾した対応につながっている。対中強硬派は、過去数十年にわたる米政権が中国の台頭を許したと非難する。ポンペオ氏は国務長官在任中、ニクソン大統領が72年に「赤い」中国を国として承認したことさえ甘かったとみていたようだ。

こうした薄っぺらな強硬姿勢の問題は、そもそも中国には自力で繁栄する力はないと言いたげな点だ。中国に力がないのなら、なぜかくも中国に強硬姿勢を取るのか。なぜ米国はそこまで警戒心を募らせて軍備増強に走るのか。

中国が100年前から超大国となることを目指していたというなら、自由貿易主義者らの思慮の足りなさで誤って誕生させた産物などであるはずがない。

中国がWTOへ加盟しようがしまいが、長期にわたり封じ込めてはおけないほど巨大で野心的な国だということを認識している人ほど、中国を深刻に捉えている。その中国の底力を理解している人こそが本物のタカ派なのだ。

By Janan Ganesh

(2021年12月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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