EU、貿易×環境で途上国に圧力

EU、貿易×環境で途上国に圧力 4.5億人市場が武器
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR06CRV0W1A201C2000000/

『欧州連合(EU)が貿易と環境を組み合わせて途上国に圧力をかけ始めた。約4億5千万人の巨大市場へアクセスする条件として十分な気候変動対策をとるよう迫る。世界の地球温暖化対策を推し進めるとともに、EUの国際社会での存在感を高める狙いがある。

11月半ば、EUの欧州委員会は森林破壊に関与する形で生産された大豆や木材、パーム油、コーヒーなどの輸入を停止できる規制案を公表した。

企業に製品がどこで生産されたか申告を義務付け、加盟各国が衛星写真や書類で森林破壊・劣化が起きた地域で生産されていないかを確認する。確認できなければEU側の輸入を認めないとの提案だった。

大気中の二酸化炭素を吸収する森林の減少に歯止めをかけるためで、各国に森林保護策を促す。ブラジルや東南アジアの一部が念頭にある。

ブラジルは「消費者のためにならない」と批判するが、EUではボルソナロ政権が違法伐採などに十分な対策を講じていないとの不信感がある。2021年7月までの年間森林(熱帯雨林)減少率は前年同期比22%と過去15年で最大だった。

19年6月に政治合意したEUと、ブラジルなど南米南部共同市場(メルコスル)との自由貿易協定(FTA)は、ブラジルの森林保護への対応が不十分として批准手続きは止まっている。

9月には欧州委は途上国に付与する特恵関税の改革案を公表した。より幅広い製品で関税ゼロが適用される恩恵を受けるには、途上国は従来の人権や労働に関する条約に加え、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を批准しなければならない。条約違反の場合は関税ゼロの適用を停止する手続きも新たに設ける。

EUが立て続けに厳しい対応を打ち出した理由を探ると、通常の国家ではないEUが国際社会でどう存在感を高めるか工夫をこらした跡が透ける。それをひもとくのは2月に公表された政策文書にある。

「EUの利益を最大にする具体策をとる」。欧州委のドムブロフスキス上級副委員長(通商政策担当)は力説した。EUの貿易政策を説明する際に「開かれた」「持続可能な」という従来の修飾語に「主張する(assertive)」を加えたのだ。加盟国から移譲され、EUの裁量が大きい通商分野での権限をフル活用する戦略だ。

極め付きは7月に制度案が公表された「国境炭素税」と呼ばれる国境炭素調整措置だ。環境対策が不十分な国からの輸入品に事実上の関税をかける構想で、EU並みの環境対策を求める。

軍事力に乏しいEUにとって、他国と対峙する際の最も有効な手段は高所得の約4億5千万人の市場を抱える経済力にほかならない。基準に沿わない製品の輸入を認めなければ、域外企業は製品を輸出できなくなり、従わざるを得ない。

ましてやその名目は環境対策だ。「保護主義的」「一方的」との批判は出るものの、「地球環境を守るため」と言えば反論しにくい。だが狙いは他国に気候変動対策を促すことだけではない。

一つは域内外の競争環境を公平にすることだ。EUは高い目標を達成するために厳しい環境規制を敷いており、企業の負担が大きい。緩い規制のもとではコストは小さくなり、同じ製品をつくるのでも企業の価格競争力に差が出てしまう。

もう一つは米中に並ぶグローバルなプレーヤーに躍り出ることだ。EUは世界に先駆けて先進的な規制を導入し、世界標準にするルール形成で存在感を発揮してきた。今回はその半歩先に踏み出す。EU高官は「我々の武器は貿易だ」と明かす。

さらにEU内にはこの考え方を環境だけでなく、他分野にも広げる計画がある。例えば、EUに敵対的な行動をとれば、貿易や投資、知的財産権などを制限して事実上の制裁を加える案だ。

EUの外交政策は全会一致が原則だが、通商政策は欧州委が主導できる。加盟国からの反発も予想され、実現は容易ではない。それでも確固たる指導力を示そうと、着々と歩を進めている。

(ブリュッセル=竹内康雄)』