欧州に原発回帰の動き 脱炭素・エネ安保で

欧州に原発回帰の動き 脱炭素・エネ安保で、日本は停滞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR180F40Y1A211C2000000/

『欧州で再び原子力発電所を活用する動きが活発になっている。フランスや英国が主導する。電力の安定供給を保ちつつ気候変動対策を進める。欧州連合(EU)域外からの天然資源に依存しない、エネルギー安全保障の観点からも重視している。東日本大震災から10年を迎えた日本では原発に関する真正面の議論を避け、原発の位置づけは定まらないままだ。

EUのフォンデアライエン委員長は10月に「我々には安定的なエネルギー源である原子力が必要だ」と述べた。EUは経済活動が環境に配慮しているか判断する基準「EUタクソノミー」で原発を「グリーン電源」に位置づけるか、加盟国間で激しい議論が続く。

マクロン仏大統領は11月、国内で原発の建設を再開すると表明し、英国も大型炉の建設を進める。両国は次世代の小型炉の開発にも力を入れる。オランダは12月半ば、総額50億ユーロ(約6500億円)を投じる、原発2基の新設計画をまとめた。

原発回帰の最大の理由は気候変動対策だ。EUは2030年の排出削減目標を1990年比40%減から55%減に積み増した。原発は稼働中の二酸化炭素(CO2)の排出がほとんどない。風力や太陽光と異なり、天候に左右されない。EUは19年時点で総発電量の26%を原発が占める。

11年の日本の原発事故を受け、EUは原発の安全規制を強化してきた。17年には原発を安全に運用するには50年までに最大7700億ユーロの投資が必要との文書を作成。認可基準の擦り合わせや、原子炉の設計標準化などの対応を求めている。

ドイツは他の加盟国と一線を画し、メルケル前政権が22年末までの「脱原発」を掲げる。新政権もこの方針を堅持するものの、ロシアへの天然ガス依存やガス価格高騰で脱原発方針を延期するよう求める声もある。

日本は原発活用に向けた議論が停滞している。エネルギー基本計画では、30年度に電源に占める原発比率は20~22%を目標とする。ただ、達成には再稼働済みの10基に加えて再稼働をめざす17基を動かす必要がある。日本は長期の戦略を欠く。

9月の自民党総裁選では次世代原発の小型炉などの新増設を進めるべきだとの意見も出たが、政策の変更も含めて活用の是非の議論すら封じる流れは変わっていない。

日本では事故を受けて国民の反発も根強く、政府はより丁寧な説明が求められる。事故処理や放射性廃棄物の最終処分場も決まっていない。

日本は再生可能エネルギーの導入でも周回遅れだ。政治が責任を持って議論を主導せずに先送りを続ければ、脱炭素の取り組みは遅れるばかりだ。(ブリュッセル=竹内康雄、気候変動エディター 塙和也)

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竹内純子
国際環境経済研究所 理事・主席研究員
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ひとこと解説

メディアが報じてきた「世界は脱原発」はあまりに単純化した論調でした。

西洋諸国において原子力の新設が停滞したのは、自由化した場合、同じ発電事業なら、より楽というかリスクの少ない再エネあるいは(気候変動問題がこんなに盛り上がる前であれば)石炭の開発の方が資金がつきやすかったから。

震災前国産化率99%と言われていた日本の原子力技術はこの10年で弱体化してしまいましたが、中国は2010年以降39基が送電開始、ロシア11、韓国6、インド4(原産協会)。

再エネポテンシャルに乏しいわが国では少なくとも、脱炭素と脱原発の二兎は追えません。安全性効率性を高めてうまく使う方法を考える必要があります。

2021年12月28日 10:00

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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別の視点

フランスや英国で原子力発電を推進する動きが出やすい背景には、これらの国は地震が少ないという事情もある。

日本のお隣の韓国も半島部分は地震が少ない国であり、原発積極論が出やすい。

これに対し、日本の場合、地震が多い国である上に、東日本大震災という惨禍を経験しており、国民感情として原発には一定の抵抗感があるとも言えるだろう。

気候変動対応として原発をどこまで活用するかを議論する際は、他国で積極活用の動きがあるという点にとどまらず、多面的な思考を経て国民の合意形成を図る必要がある。

2021年12月28日 7:38

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福井健策
骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
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分析・考察

上野さんのご意見に尽きるでしょう。日本では、「欧米ではこうなっている」というだけで、あたかも「そうすべき」理由になるような倒錯がよく起きます。

が、他国の事情は参考情報として活用すべきであって、それ自体は本来何らの行動決定の理由にもなりませんね。

なお、欧州に学ぶのであれば、2030年までに32.5%ものエネルギー消費の削減目標を打ち出し、「エネルギー消費の効率化(energy efficiency)こそ、最大のエネルギー源であり競争力強化策」と明言したEUの「エネルギー効率化指令」など、もっと注目されても良いと思います。

2021年12月28日 7:56 (2021年12月28日 8:54更新)

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

欧州は一方で原発事故のリスクに対する根強い反原発の動きがあるのに対し、気候変動やエネルギー安全保障の観点から積極的に原発を推進する勢力もあり、完全に二分している。

しかし、近年、気候変動への関心が高まったことと、ロシアへの天然ガスの依存への懸念が高まったことで、原発推進勢力が優勢になりつつある。

これが最終的に積極的な原発活用という流れになるかどうかはこれから次第だが、少なくとも、原発を選択肢として議論が進んでいることは間違いない。

2021年12月28日 2:56 』