ロシア、LNGに賭ける 北極海航路で8割アジアへ

ロシア、LNGに賭ける 北極海航路で8割アジアへ 
ソ連崩壊30年 産業盛衰(上)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR15E850V11C21A2000000/

『【モスクワ=石川陽平】1991年12月のソ連崩壊から30年、ロシアの経済構造は資源依存型をまだ脱せず、世界経済をけん引する民間のハイテク分野でも後れを取る。地球温暖化への対策が叫ばれるなか、ロシアは資源大国の地位にこだわり、液化天然ガス(LNG)の輸出拡大に活路を求める。

極寒のガス田開発

11月末、北極圏にあるロシア北西部ムルマンスク郊外の巨大な工場群を訪れた。あたり一面、雪と氷に覆われ、午後1時の外気気温はセ氏マイナス約20度。高台から見下ろすと、バレンツ海の入り江に面したドックに、縦152メートル、横330メートル、高さ100メートルもの巨大な建造物が白く浮かぶように見えた。

この建造物は、プーチン政権に近い天然ガス会社ノバテクが進める資源開発プロジェクト「アークティックLNG2」の生産施設だ。

ドックからプロジェクトの現場までは直線距離で約1500キロメートル。作業がしやすいドックでLNG生産施設を前もって建造したうえで、ガス田がある現場の半島沿岸までえい航する。こうした手法は世界初の試みという。土台も含む総重量は64万トン。自らの重さで浅い海底に固定される「重力式」だ。

総投資額2.4兆円

このプロジェクトは3系列の生産施設からなり、合計で年産約2000万トンの国内最大級のLNG基地になる。総投資額は213億ドル(約2兆4千億円)で、仏トタルが10%、中国企業が20%、三井物産と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)も10%を投資する。第1系列の稼働は23年、完工は25年末を予定している。

ノバテクが照準を合わせる市場は、需要が高まるアジアだ。同社の海外販売の責任者、ユーリー・エロシェン氏は日本経済新聞社の質問に答え、「8割をアジア太平洋市場に供給する計画だ」と明らかにした。日本や韓国に加えて、インドや中国の市場拡大が見込めると指摘した。
アークティックLNG2の天然ガス採掘現場(ウトレンネエ・ガス田)

旧ソ連とその継承国ロシアは石油や天然ガスなどが豊富な資源大国で、資源価格の変動が国運を左右してきた。1980年代後半には原油価格が1バレル10ドル台に低下し、91年のソ連崩壊の一因となった。2000年代の油価高騰はプーチン政権の政治基盤を強化し、大国復活に道を開いた。

「30~35年間は競争力」

そして今度は温暖化がロシアを揺さぶる。主な資源輸出先の米欧は「脱炭素社会」にかじを切り、政治的に対立するロシアからの調達削減に動く可能性がある。資源エネルギー部門が連邦予算の歳入の4割前後を占める資源依存型のロシア経済はいずれ大きな試練に直面する恐れがある。

だが、したたかなプーチン政権は温暖化も好機の一つととらえた。石炭などに比べて二酸化炭素(CO2)排出量が少ない天然ガスの需要が高まり、「ロシアの天然ガスは今後30~35年間は競争力がある」(エネルギー省)と予想する。ロシアが特に期待するのは、同じく温暖化で恩恵を受けるようになった北極圏航路によるLNG輸出だ。
プーチン大統領は温暖化を好機ととらえた=AP

日本海に面した韓国南部のコジェにある造船所。ノバテクの発注を受け、商船三井の支援で大宇造船海洋が大型のLNG積み替え施設の建造を急いでいる。LNG積み替え基地はユーラシア大陸の東西を結ぶ北極海航路の東方にあるカムチャツカ半島と西方に位置するムルマンスクの2カ所に設置する計画だ。

温暖化で海氷減る

近年の温暖化で氷の面積が後退し、北極海航路の利用可能な期間が延び、通年輸送も可能になる見通しだ。商船三井はアークティックLNG2などから砕氷LNG船で積み替え基地にLNGを運び、在来型のLNG船に載せ替え、輸送コストや温暖化ガス排出を削減する。同社はJOGMECと組み、積み替え事業への出資交渉も急いでいる。

ノバテクによると、世界の天然ガス市場では21年、LNGでの供給がパイプライン経由を上回りつつある。市場の急速な変化を受け、ロシア政府は3月、LNG長期発展プログラムを承認し、年3000万トンに満たない現在の生産能力を35年までに最大で1億4000万トンに引き上げる目標を明記した。世界シェアも18年時点の約6%から20%以上に引き上げるという。資源国家ロシアの今後数十年はLNGが握る。』