日韓を決める次の5年 安保が促す戦略外交

日韓を決める次の5年 安保が促す戦略外交
風見鶏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM202MO0Q1A221C2000000/

『「韓半島(朝鮮半島)には3つの国がある」。大統領選ムードが日々高まる韓国で時折こんな言葉を聞く。「3つの国」とは韓国内の保守と革新、そして北朝鮮だ。それぐらい保革が国を分けて対立する。

大統領選は2カ月半後に投開票を迎える。与党の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事と保守系野党の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長による事実上の一騎打ちだ。

世論調査では野党による政権交代を望む声が多いが、2人とも多くのスキャンダルを抱え、結果は読み切れない。

大統領任期である「次の5年」をどう過ごすか。激しい対立は多くの人々の生活がかかっているからでもある。大統領の権力は政府関係機関の2万人近い幹部人事を左右し、影響は企業の人事に及ぶ。

日韓の懸案を放置した文在寅(ムン・ジェイン)政権の退場は、日本が対韓アプローチを再考するタイミングになる。3年前の元徴用工判決から日韓関係は悪化の一途をたどり、底を打つにはほど遠い状況だ。

次の5年、日本の安全保障は二正面作戦を強いられる環境が待ち受ける。

最大の懸案は台湾有事だ。2022年秋の中国共産党大会で習近平(シー・ジンピン)国家主席が続投を決めれば悲願の台湾統一は現実的課題となる。中国軍は増強を続け、米国には習指導部が3期目を終える27年にも台湾侵攻に乗り出すとの指摘がある。

朝鮮半島は軍拡の速度が増している。北朝鮮の兵器開発に関する5カ年計画には、大型核弾頭やワシントンを打撃する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発メニューが並ぶ。米韓のシンクタンクは北朝鮮が27年までに200超の核兵器を持つと予測する。

韓国は備えを急ぐ。22年からの国防中期計画によると、5年間で315兆ウォン(約30兆円)を主に北朝鮮ミサイルの探知や迎撃、先制打撃を加えるシステム開発に投じる。この間に日韓の防衛費は実額で逆転するとみられる。

朝鮮半島有事への対応は日米韓の安保協力にかかっているが、日韓の防衛協力はこの3年間で後退した。共通の装備品も多いにもかかわらず、みすみす遠ざかる現状は効率的ではない。

政策研究大学院大の道下徳成教授は「対中国を意識すれば、韓国を日米豪印4カ国の枠組み『Quad(クアッド)』にひき付ける努力が要る」と戦略外交の重要さを説く。

日韓対立の原因となった元徴用工訴訟は、日本企業の資産を現金化する手続きが一歩ずつ進む。文政権は何も手を打っておらず、このままなら懸案は次期政権に先送りされる。

2人の大統領候補はいずれも日韓関係の改善を唱えている。保守系の尹氏は日本との安保連携の必要性を訴える。韓国の選挙で肯定的な対日姿勢を示すのは勇気がいる。

新政権がすぐに解決策を示す可能性は低いが、現金化の回避へ外交的な努力をする余地はある。双方に意思があれば、動くかどうかは指導者の判断次第だ。

韓国政界には15年の慰安婦合意時に外相だった岸田文雄首相への期待が大きい。一時の日本不買運動は廃れ「新型コロナウイルス禍が終わったら日本を旅行したい」という声を耳にすることも増えた。

「次の5年で修復できないなら、韓日関係は日朝関係のように停滞が固定化する」。韓国の知日派は焦りを深める。新政権による約束の履行が日韓関係改善の一歩となる。

(ソウル=恩地洋介)』