まずい変異がてんこ盛り オミクロン型出現のわけ

まずい変異がてんこ盛り オミクロン型出現のわけ
日経サイエンス
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC212PC0R21C21A2000000/

『新型コロナウイルスの変異ウイルス「オミクロン型」の感染が各国で急拡大している。その遺伝情報の解析で見えてきたのが、これまでのデルタ型やアルファ型を上回る変異箇所の数の多さだ。世界中でゲノム解析を通じた変異ウイルスの追跡作業が行われているにもかかわらず、オミクロン型は一体どうしてこの監視網を逃れて変異を積み重ねてこられたのだろうか。
WHOがギリシャ文字の符号をつけた他の変異ウイルスとオミクロン型でスパイク上の変異数を比べた。オミクロン型は変異の数が際立って多く、他の変異ウイルスと共通する変異箇所も多い。変異ウイルスの情報を公開している「Outbreak.info」のデータをもとに、12月13日時点の変異箇所を示した

オミクロン型については、既に遺伝情報が解析され、変異箇所が詳細に調べられている。その結果、オミクロン型の持つ変異はこれまでのデルタ型やアルファ型といった世界保健機関(WHO)が警戒してきた変異ウイルスとは様相が異なることがわかってきた。

ウイルスの突起である「スパイク」に注目すると、デルタ型やアルファ型が有する変異箇所が10カ所前後であるのに対し、オミクロン型はおよそ30カ所もある。30カ所の変異の中には、他の変異ウイルスで見られた変異も多数含まれている。免疫逃避に関わるとされる「E484A (K)」、ウイルスがヒトの細胞に侵入しやすくなる「N501Y」「H655Y」「P681H (R)」などこれまでの研究で要注意とされてきた”まずい変異”がてんこ盛りだ。

次にオミクロン型にしかない変異に目を向けると、ヒト細胞表面のタンパク質と直接結合する「受容体結合領域」という場所に大量の変異が集まっている。受容体結合領域の形状はウイルスが細胞へ侵入する際の成功率に直結する。しかも多くの抗体がここを標的としているため、免疫にも影響する。受容体結合領域に蓄積した大量の変異は、ヒトの体内でより増えやすく、そして集団全体で感染をより広げやすいよう、ウイルスの変異と選択が繰り返されてきたことを意味している。

問題は、それが一体いつ、どこで起きたのかだ。各国のウイルスのゲノム解析結果を基に変異状況を追跡している国際研究プロジェクト「Nextstrain」の解析では、オミクロン型の祖先にあたる変異ウイルスがその他の変異ウイルスから分岐したのは、アルファ型の流行よりはるか前の2020年3~5月ごろだった。つまり、オミクロン型は20年の春以降、1年以上にわたって一切ゲノム解析という監視網に引っかかることなく、水面下で変異を蓄積してきたことになる。

この謎について現在3つの仮説が提唱されている。1つめは、ゲノム解析が行われていない国で変異の蓄積が進んだとする説だ。2つめは、ヒト以外の動物の体内でウイルスの変異が進み、それがヒトに再び感染したという説だ。そして3つめが、免疫不全の患者の体内でウイルスの感染が長期間続き、その間に変異が進んだという説だ。

免疫不全のヒトの体内にはウイルスが残り続けることがある。免疫系が弱い攻撃しか繰り出さない環境に長く置かれると、ウイルスは免疫から逃避する変異を蓄積しやすい。実際に南アではエイズウイルス(HIV)に感染した患者が半年以上新型コロナに感染し続けた事例が報告されている。体内でウイルスの変異が蓄積し、いくつかの変異はオミクロン型と共通の箇所で起きていた。

実は以前流行したアルファ型も、もともとは免疫不全患者の体内で変異が蓄積して生じた可能性が高いと考えられている。現在も誰かの体内に大量の変異を蓄積したウイルスが存在しており、その一部が世界中に感染を広げるという現象が今後も繰り返されるのかもしれない。

オミクロン型の症状についてはデルタ型と比べて重篤度が低いとする報告があり、このまま新型コロナウイルスの病原性は弱まる方向に進むのでは、という希望的な観測もある。しかし、出現前から変異ウイルスの性質を予測することは難しい。必要な感染対策をおこたらず、人間の側が備えを積み重ねて感染症に強くなることが、希望を現実のものにする一番の近道だ。

(日経サイエンス編集部 出村政彬)

詳細は12月25日発売の日経サイエンス2022年2月号に掲載 』