米議会「デジタル貿易協定を」 対中政策で政権に圧力

米議会「デジタル貿易協定を」 対中政策で政権に圧力
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『【ワシントン=鳳山太成】中国がインド太平洋の経済連携で攻勢をかけるなか、米議会はバイデン政権に中国への対抗策を打ち出すよう圧力を強めている。与野党の議員はデジタル分野を含めた貿易協定の締結を求めるが、政権は慎重な姿勢を崩さない。議会は中国に主導権を奪われるとの懸念を深めている。

下院外交委員会でアジアを担当する小委員会のベラ委員長(民主党)はこのほど日本経済新聞の取材に「米国がインド太平洋の同志国とデジタル貿易協定を結ぶことを強く支持する。経済連携を深める好機になる」と語った。

ベラ氏は11月、野党・共和党の下院議員らと共同で米通商代表部(USTR)のタイ代表に貿易協定の締結を求める書簡を送った。データを保管するサーバーやアルゴリズム(計算手法)の扱いなど、デジタル貿易を安全で円滑に進めるためのルールづくりを想定する。

バイデン大統領に近い民主党のクーンズ上院議員は16日、共和党の上院議員と計6人で政権に送った書簡で「インド太平洋に複数のデジタル貿易協定があるが、米国はどれにも入っていない」と危機感を表した。

下院で通商政策を担う共和党のラフード下院議員は12月上旬、インド太平洋で貿易協定を結ぶよう政権に指示する法案を提出した。声明で「中国がインド太平洋で影響力を行使するなか、米国はこの地域の貿易を主導しなければいけない」と訴えた。

議会がバイデン政権に圧力を強める背景には、中国の活発な動きがある。

中国は9月に環太平洋経済連携協定(TPP)、11月にはシンガポールとニュージーランド、チリが結ぶ「デジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)」への加盟をそれぞれ申請した。中国を含む東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は2022年1月に発効する。

バイデン政権はTPPを含む自由貿易協定(FTA)に慎重だ。議会が政府に交渉を委ねる権限は7月に失効したが、政権は権限の延長すら議会に求めなかった。

バイデン政権は代わりに「インド太平洋経済枠組み」を22年初めに立ち上げると表明した。レモンド商務長官は「伝統的な貿易協定にならない」とクギを刺す。

新たな枠組みはデジタルのほか、技術、インフラ投資、サプライチェーン(供給網)、サイバーセキュリティーなどの分野で各国・地域がルールづくりで協力する。

詳細は今後詰める。例えばサプライチェーンでは生産能力や在庫などの情報を共有して、どの地域に弱点があるかを把握する取り組みを想定する。

レモンド氏は有力な連携相手として日本のほか、シンガポールやマレーシア、タイ、ベトナム、インドネシアなど東南アジア諸国を挙げる。

新たな枠組みは現時点で議会承認が必要な貿易協定を想定しておらず、法的拘束力を持つ協定に劣る。クーンズ氏らは書簡で、新たな枠組みを包括的な貿易協定に発展させるよう注文をつけた。

バイデン政権が協定の締結に慎重なのは、民主党の支持基盤である労働組合やリベラル派が貿易の自由化に反対するからだ。新たな枠組みの検討対象には、国内で賛否が割れない無難なテーマが並ぶ。

オバマ政権でTPP交渉官を務め、TPP復帰をバイデン政権に進言してきたウェンディ・カトラーUSTR元次席代表代行は「デジタルが議論されるのはいいことだが、どれくらい本格的に取り組むのかはっきりしない」と話す。

議会の圧力を受けて、バイデン政権が既存のデジタル協定への加盟など本腰を入れる可能性はある。ただ看板公約の歳出・歳入法案が民主党内の対立で暗礁に乗り上げており、他国との交渉に政治的なエネルギーを割きづらいという事情もある。』