欧州天然ガス最高値、2割超急騰 逼迫不安が長期化

欧州天然ガス最高値、2割超急騰 逼迫不安が長期化
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2200X0S1A221C2000000/

『【ロンドン=篠崎健太】21日の欧州エネルギー市場で天然ガスの値上がりが加速した。翌月物の取引価格は前日比で一時25%上げ、過去最高値を大幅に更新した。ロシアからの供給不足の不安が解けないまま気温が下がり、冬季の需給が逼迫するとの懸念がさらに広がっている。市場は需給の引き締まりが春以降も続く可能性を意識しており、物価高に拍車をかけて景気への逆風が強まりかねない。

金融情報会社リフィニティブによると、欧州の指標価格であるオランダTTFは2022年1月渡しの取引で一時、前日より37.55ユーロ(25%)高い1メガワット時あたり184.95ユーロまで値上がりした。10月6日につけた翌月物としての最高値(155ユーロ)を大きく塗り替えた。20年末と比べて10倍近い水準だ。

欧州では本格的な冬を迎えて気温の低下が進んでいる。英調査会社エナジー・アスペクツの欧州ガス部門責任者、ジェームス・ワデル氏は「今週に入り非常に寒くなった。1月まで低温が続けば在庫が急減して1~3月期後半に底をつきかねない」と話す。

ユーロ圏では11月の消費者物価指数の前年同月比上昇率が約5%と、統計開始以来の最大の伸びを記録した。エネルギー高は物価をさらに押し上げかねず、企業業績や家計の圧迫につながる。

21日の急騰に拍車をかけたのは、欧州が輸入を頼るロシアからの供給をめぐる新たな動きだ。ロイター通信によると主要パイプライン「ヤマル・ヨーロッパ」で、欧州方面の西向きの流量が前週末以降に急減し、21日には流れが逆であるロシア方面の東向きへと転じた。

このパイプラインはベラルーシとポーランドを経てドイツに向かう主要な供給網の一つ。独運営会社ガスケードによると天然ガスはドイツからポーランド方向へ流れ始めたが、詳しい背景は明らかにしていない。根底にはロシアからの供給減があるとみられ「ロシアでも気温低下で需要が高まっているためではないか」(市場関係者)との声が聞かれた。

欧州の貯蔵能力に占める天然ガスの在庫率は20日時点で59%と、直近10年間の平均を17ポイント近く下回る。供給が増えなければ在庫の取り崩しが加速しかねない。ロシアが国境に兵士を大量動員するウクライナとの緊張も尾を引いている。

21日は幅広い年限で天然ガスが買い進まれた。22年2月物は180ユーロ台、同3月物は160ユーロ台に乗せてそれぞれ2割超上げたほか、同4~6月物も120ユーロ台後半まで4割近く跳ね上がった。22年後半以降の期先の取引も軒並み急伸した。高騰に歯止めがかからなければインフレの長期化をもたらす。

フランスで原子力発電所がメンテナンスのため一部停止していることも、代替エネルギー源として天然ガスの需要を高めているもようだ。主要国では卸電力のスポット(随時契約)価格も騰勢を強めている。

天然ガスの値上がりを受けて世界的に液化天然ガス(LNG)の引き合いが増えている。調達で競合するアジアの相場にも波及しており、日本のエネルギー価格にも上昇圧力がさらに強まりそうだ。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版は21日、欧州での天然ガスの値上がりを受け、LNGの仕向け先を欧州に急きょ切り替える動きが出ていると報じた。アジアに向かっていた米国発のタンカーが途中で欧州へ進路変更したり、オーストラリアから10年以上ぶりにLNG運搬船が欧州へ出航したりする行動が観測されているという。

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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説

天然ガスの高騰は電力料金の上昇につながっておりコロナ禍で市民生活を直撃しているのは事実だ。

ただしEUでは現在の化石燃料価格の高騰や価格変動が大きいこと、およびロシアの天然ガスへの大きく依存していることが中長期的にEUの経済にはマイナスだとの認識がある。

だからこそ再生可能エネルギーの供給拡大を急ぐべきであり、現在の天然ガス価格の高騰を脱炭素に向けた移行に責任があるとの考えは間違いだと考えているようだ。

極端な自然災害は直近の東南アジアの洪水のように毎年世界各地で見られており、再生可能エネルギーの供給の多様化や技術革新を進めることが価格低下につながっていくという基本的な考えを我々も崩してはならない。

2021年12月22日 7:37

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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別の視点

風力など再生可能エネルギーは発電量が不安定かつ現状では不十分であり、ヨーロッパ経済は発電燃料として、バックストップ的な部分を含め、ロシアという専制主義国家からの供給への依存度が高くなっているのが実情である。

今回起こった再度の天然ガス価格高騰劇はその点を如実に示している。端的に言えば、資源国ロシアに欧州経済は首根っこを握られている。

そうした中で、米バイデン政権が主導する「民主主義国家の団結・専制主義国家との対決」路線に、欧州諸国がどこまで歩調を合わせることができるだろうか。

メルケル退場後のドイツ政府の対ロシア姿勢が1つの注目点になる。

2021年12月22日 8:04

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今村卓
丸紅 執行役員 経済研究所長
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別の視点

天然ガスの需給逼迫と価格高騰が長引けば、世界の2050年カーボンニュートラル実現に向けて天然ガスをトランジションエネルギーに位置付けることも難しくなる恐れがあります。

とはいえ、この事態で世界の天然ガスの供給体制の脆弱さも露呈してしまいました。

こうなると天然ガスをトランジションエネルギーとして確立するには、その開発促進と安定供給を天然ガスを含めた化石燃料の新規開発への強い逆風が吹く中でも世界に説き前進を試みるしかないのかもしれません。

この厳しい現実を再生可能エネルギーへの転換を加速させる欧州での天然ガスの価格高騰で気付かされるとは、何とも皮肉です。

2021年12月22日 20:33

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志田富雄
日本経済新聞社 編集委員
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分析・考察

商品市場全体を見れば変異型の感染拡大や中国経済への不安、米国の早期利上げ観測といった材料が上値を抑える格好になっています。

その中で、欧州の天然ガス価格は供給不安が押し上げています。今日の別な記事でロシアのプーチン大統領が示唆する「軍事的措置」が現実になればさらなる価格高騰だけでなく、真冬の欧州が深刻なエネルギー不足に陥るリスクがあります。

日本などのアジア各国も無縁ではありません。アジア地域の液化天然ガス(LNG)先物気配値が、2023年春まで持ち上がってきていることを見ると天然ガスの需給逼迫は長期化する可能性もあります。

2021年12月22日 7:20 』