日米同盟の質転換を象徴 駐留経費「強靱化予算」に

日米同盟の質転換を象徴 駐留経費「強靱化予算」に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA208N20Q1A221C2000000/

『日米両政府が21日、2022~26年度の在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)に実質合意した。駐留費用の「肩代わり」一辺倒をやめ、共同訓練など日本の抑止力強化につながる分野を重視した。日本は自前の防衛力強化をめざしており、駐留経費の新合意は日米同盟の質の変化を象徴する。

【関連記事】
・米軍駐留経費を増額、年2110億円で合意 5年で1兆円超
・米軍駐留費、抑止力底上げ 日本が100億~200億円増案
・敵基地攻撃の装備を検討 脅威高まり「専守防衛」拡大

岸信夫防衛相は21日の記者会見で「厳しい安全保障環境に日米が肩を並べて立ち向かっていく決意を示すことができた」と語った。これまでの「思いやり予算」という通称を「同盟強靱(きょうじん)化予算」に改めるとも主張した。

今回の駐留経費の負担増を自前の防衛力強化に向けた「投資」とできるかどうか、引き続き支出の検証は必要となる。

思いやり予算は人件費や光熱水費など米軍の駐留経費の一部を肩代わりし、日本側が金銭面から米軍の活動を補完するものだった。これを共同で実質的な抑止力の強化につなげていくというのが新たな合意の狙いだ。

例えば新たに設けた「訓練資機材調達費」は自衛隊と米軍が一体で活動するのに必要な経費に充てる。日米双方の能力を高めるための投資を駐留経費負担から拠出するのは初めてとなる。

仮想空間で日米が共同訓練するための「シミュレーター」を導入する。人工知能(AI)がつくる仮想敵との戦闘訓練が可能で、基盤となる米軍のシステムに自衛隊の機器もつなぐ。大量の戦闘機を飛ばす大規模訓練を再現し共同作戦能力を高める。

米軍は日本にステルス戦闘機「F35」などの最新鋭装備を配備、展開する。米軍と協力する機会が増えれば自衛隊の能力を高める契機にもなる。

日本側は米側との協議で負担の増額要求を受け入れる代わりに負担内容の質を変えるよう求め、米側も光熱水費などの減額を認めた。

光熱水費は在日米軍基地に暮らす兵士や家族の光熱水費も含み、安全保障上の運用との関わりは薄い。

レーダーを起動する際の電気代など運用に直接関わる部分に絞る。現行の年間234億円から段階的に減らし25~26年度は年133億円とする。

今回の駐留経費を巡る合意は4月に当時の菅義偉首相とバイデン米大統領が共同声明で言及した「新たな時代における日米同盟」の考え方に沿ったものだ。

特に22年は日米同盟の転換点となる。

日本政府は国家安保戦略や防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の3文書の同年末までの改定をめざしている。米国は中国に対抗するため同盟国に応分の負担を求めており、日本も3文書の改定を通じ自国の防衛力強化に道筋をつける。

防衛費の増額もその一環だ。日本は21年度補正予算と22年度予算案で合計6兆円超を計上する。これからは「1年6兆円台」が目安となり5年前と比べて1割以上増やす。中期防でこうした方針を盛り込む。

駐留経費の一部を日本が負担する仕組みは1978年に始まった。円高の進行で基地内の従業員の労務費が高騰し、米軍が日本に肩代わりを求めた。当時の金丸信防衛庁長官は国会審議で「思いやりがあってもいい」と発言し日本の費用拠出に理解を求めた。

当時は米ソ冷戦期で、日本にとって在日米軍はソ連を抑止するのに不可欠だった。日本が米軍の駐留を費用面で支える仕組みはこの時から定着した。

思いやり予算は90年代まで増え続け、99年度は歳出ベースで2756億円を計上した。米軍が使うボウリング場やゴルフ場の整備などにも使われ批判の的になった。2000年代からは無駄を削減し人件費や光熱水費などに限定していった。

米軍は日本の防衛費の伸びに連動させて日本側の駐留経費の負担増も求めていた。在韓米軍の駐留経費を一部負担する韓国にも同様の理由で増額を迫っている。

韓国の場合は19年に支出した1兆389億ウォン(980億円)のうち基地で働く韓国人の人件費が5割、施設整備費が3割を占める。

駐留経費を肩代わりする構図は同じだが日本の負担割合は高い。米国防総省が04年に発表した米軍経費負担率は日本が74%で、韓国の40%やドイツの32%より突出した。防衛省の試算によると15年度も86%にのぼった。

米国には急速に軍事力を強める中国への危機意識がある。国防費を最近6年で26%増やしたが、それでも中国の5割増にはとどかない。

米議会が15日可決した22年会計年度(21年10月~22年9月)の国防予算の総額は7780億ドル(88兆4千億円)で前会計年度から上乗せできたのは5%程度だった。中国に対抗するため同盟国に負担の分担を求めざるをえない状況となっている。

(安全保障エディター 甲原潤之介)』