中東・アフリカ、「脱炭素」が汚染招く 石油投資が撤退

中東・アフリカ、「脱炭素」が汚染招く 石油投資が撤退
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB2302M0T21C21A1000000/

『中東やアフリカの石油産業がグリーン化に逆行する懸念が強まっている。「脱炭素」で欧米企業のダイベストメント(投資撤退)が加速し、温暖化ガス削減に必要な技術の移転が進まないためだ。多くの場合、事業を引き継ぐのは産油国の国営会社や中国、ロシアの企業。株主や国際社会の監視の目が届かず、目先の利益優先で地球環境をさらに汚してしまう恐れがある。

イラク南部の石油都市バスラ。石油の生産や精製に伴って発生するフレアガス(随伴ガス)の燃焼による煙が影を広げ、硫黄のにおいが立ちこめる。「外から来た人はひどい環境に驚くが、われわれは慣れてしまった。文句を言う相手もいない」と住民のアッバス・イブラヒムさんは言う。

バスラの環境悪化を訴えてきたイラク人研究者は「環境問題への人々の関心は低い。あっても職を失うことを恐れて声を上げられない」と語る。

欧米メジャーが手掛ける油田ではフレアガスは製品化するのが一般的だ。温暖化ガスを減らせるだけでなく、事業の付加価値を高め収益にもつながるからだ。フレアガスには有毒な硫化水素が多く含まれ環境への負荷がきわめて大きい。

世界銀行グループの国際金融公社(IFC)は6月、バスラのフレアガス削減のための期間5年、3億6000万ドル(約410億円)の融資を決めた。中国銀行やシティバンク、ドイツ銀行、三井住友フィナンシャルグループなど8つの国際金融機関が参加した。IFCはこれを「グリーン・ローン」と名付け、脱炭素ファイナンスの一環と位置づけようとしている。

しかし、湾岸の金融関係者はこうした化石燃料の関連事業に今後も民間資金が集まることには悲観的だ。「たとえ環境負荷を下げる事業でも化石燃料に関わるものは一緒くたで『悪い事業』と見なされる」と話す。年金ファンドなどの社会的責任投資を重視する組織であればなおさらだ。

欧米メジャーには「脱炭素」へ株主の圧力が強まる。英BPや米エクソンモービルはイラクの石油生産事業からの撤退を検討している。

売却資産の受け皿となる中国やロシア、中東の国営企業も環境重視を掲げる。しかし、株主や環境団体、政府からの圧力は欧米に比べずっと小さい。サウジアラビアのサウジアラムコやアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油(ADNOC)など一握りの例外をのぞき、中東の石油会社には欧米のような環境技術がない。

化石燃料ビジネスの売却は個々の企業単位ではグリーン化の成功といえるが、こうした資産を買って事業を引き継ぐ企業は環境意識が低い可能性が大きい。世界の石油ビジネスの大半を担うのは産油国の国営企業や未公開企業だ。

再生可能エネルギーや水素といった新エネに「バブル」といわれるほどマネーが殺到する一方、既存事業の環境負荷を下げるという課題は忘れられがちだ。

ボツワナのレフォコ・モアギ鉱物資源相は日本経済新聞の取材に「われわれのベースロード電源を支えるのは石炭だ。水力も原発もない。化石燃料をグリーン経済に生かせるような技術が必要だ」と語った。

米国による制裁で石油施設が老朽化するイランは自力で増産や新規開発を目指すものの、環境配慮で欧米との意識の格差は大きい。石油省の元高官は日本経済新聞の問いに対し「石油産業のグリーン化とはどういう意味か」と尋ね返したほどだ。 

10月末から英北部グラスゴーで開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では各国が、競うように「カーボンゼロ」の目標を掲げたが、エネルギー転換に向けた具体的な道筋の議論は不十分なままだ。

中東やアフリカは、干ばつや砂漠化など気候変動の打撃を真っ先に受ける地域でもある。その場しのぎの脱炭素目標や上辺ばかりの環境宣言は、問題を解決しないばかりか、事態を悪化させかねない。 

(ドバイ=岐部秀光)

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

環境問題に関する南北問題は、単に先進国の勝ち逃げといった問題だけでなく、脱炭素に向けて必要な技術移転や、脱炭素に向けた設備への投資といったことが途上国だけでは賄いきれないため、支援のないまま脱炭素と言われても、出来ることが限られている、ということもあるのだろう。

一つの普遍的な価値を、環境や条件の異なる国々で実現することは、容易ではない。

2021年12月22日 11:23

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松本裕子
日本経済新聞社 ESGエディター
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ひとこと解説

米ブラックロックは非上場企業も含めて気候変動関連の情報開示をするべきだとしています。

この記事で指摘しているような市場の監視の目が行きわたらない企業が化石燃料事業の主体になれば、気候変動対応が進まなくなるとの懸念が背景にあります。

化石燃料関連の事業が将来的に収益を生まない「座礁資産」になると言われるなか、こうした事業をどうやって終わらせるのか、誰が最後まで責任を持つのかについては、もっとしっかり議論しなければいけない点だと思います。

2021年12月22日 10:50 』