[FT]中国、国際機関に貢献しつつ支援受ける異例の存在に経済大国かつ途上国の二つの立場をフル活用

[FT]中国、国際機関に貢献しつつ支援受ける異例の存在に
経済大国かつ途上国の二つの立場をフル活用
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『ブルガリア出身のエコノミストで、国際通貨基金(IMF)の専務理事を務めるゲオルギエバ氏に、世界銀行の前職で中国に便宜を図るためにデータを操作していたという疑惑が持ち上がった。この騒動で専務理事の地位が危うくなった。

中国の李克強首相(左)とIMFのゲオルギエバ専務理事=AP

疑惑の真偽はどうあれ、中国が世界の金融システムを支える国際機関における影響力の拡大を狙っていることは疑いの余地がない。

英王立国際問題研究所「チャタムハウス」の上級リサーチフェロー、余杰氏は「中国は発言権を拡大し、より多くの理事を送り込みたいと考えている。グローバル・サウス(主に南半球の途上国)のリーダーとしての立場を確かにしようとしている」との見方を示した。

中国はここ数カ月、地政学的な野心を強めている。デジタル人民元を推進しつつ暗号資産(仮想通貨)の取引を禁止し、自国の方針と意見を異にする国との貿易は制限している。リトアニアが首都ビルニュスに台湾の代表機関の開設を認めたことを受け、今月、リトアニアからの輸入を停止したのがその一例だ。

国際機関で目立つ中国の野心

そうした動きと並行して、中国は国連や米ワシントンにあるIMFや世銀などの国際機関でも経済面、外交面で野心を強めている。これらの国際機関は、第二次世界大戦後に西側諸国が設計した国際制度の根幹となっている。

特筆すべきは、中国が、途上国であると同時に超大国であるという異例の立場を利用して野心を追求している点だ。

米ワシントンのシンクタンク、世界開発センター(CGD)のスコット・モリス氏は「今、我々が目にしている中国のような例はこれまでなかった。国際機関において、他に例のない重要性を持っている。特に世銀では中国は出資国で資金を出すと同時に、資金提供を受ける立場でもある」と説明した。

世界の最貧国との2国間融資では、中国は今や世界最大の債権国だ。それどころか、中国の債権は他の債権国の合計を上回っている。

中国の野心的な広域経済圏構想「一帯一路」で進める海外でのインフラ投資も縮小され、習近平(シー・ジンピン)国家主席が国連総会で9月に提唱した、表現も穏やかな「全球発展倡議(グローバルな発展の取り組み)」(GDI)に置き換えられた。
「両方の手」を使う

余氏は中国が「両方の手」を使っている例だと説明した。その一つは、特に新興国における自国の計画推進や支援確保のために国連などの国際機関の同意を求めている点だ。GDIは「中国が提唱する計画らしくない」と同氏は言う。

同時に中国は世銀などで自国の野心が行き詰まると、新開発銀行(通称BRICS銀行)やアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立するなど、素早く代替の機関を立ち上げてきた。

中国の不満も理解できる。2009年の金融危機の対応で20カ国・地域(G20)が存在感を増したのは、遅ればせながら西側諸国がグローバル統治で中国などの主要新興国の発言権を認めることの重要性を認識したことの反映だった。だがその後、IMFや世銀で目立った変化は見られなかった。

中国の経済規模は世界の2割に近いが、中国のIMFと世銀への出資比率は6%程度に過ぎない。日本より低く、米国の3分の1程度にとどまる。IMFの出資比率の改革は、改革が自らのデメリットになる欧州などの反対に遭って暗礁に乗り上げている。

世銀では、金融危機後に中国の出資比率を倍の12%に引き上げる案が示された。しかし、この案はトランプ米前政権下で米中関係が悪化していた時期に協議されたため、優先順位が下げられて先送りされ、中国の野心には待ったがかかった。

CGDのモリス氏は、「あなたが米国の立場なら、中国を喜ばせるために(同盟国の)怒りを買うことを望みますか」と問うた。「状況から判断して、米国がそうするとは考え難い」

こうした緊張関係がひとつの頂点を迎えたのは、18年に世銀が増資したときだ。当時、世銀の最高経営責任者(CEO)だったゲオルギエバ氏が、各国の事業環境を順位付けする世銀の重要報告書「ビジネス環境の現状」で中国の順位を上げるためにデータの不正操作に関与したとされる時期だ。

ゲオルギエバ氏は今年9月にIMFの専務理事に選出されたが、同じ月に、世銀時代に中国に出資金の引き上げを求めるために統計の操作に関与したという疑惑が浮上した。しかし、同氏は弁明書のなかで、中国は「世銀への増資を長年、明確に支持していた」と反論している。

彼女を攻撃する批判派は、中国の出資比率引き上げに他国が反対したため、中国をなだめるために恣意的な統計の操作に及んだと訴える。

ゲオルギエバ氏はいかなる不正も働いていないと疑惑を否定しており、IMF理事会は調査実施後に同氏が不適切な役割を果たしたことを示す証拠は不十分という結論を出した。
低コストで影響力を得られると認識

世銀に比べると、中国は国連ではより大きな成果を上げている。影響力を高めたい中国の意向を反映するように、同国の国連予算の分担率はこの20年で1%から12%まで上昇、世界2位に浮上している。その一方で、米国の分担率は25%から22%に低下している。

中国人がトップに立つ国連機関は国連食糧農業機関(FAO)や国際電気通信連合(ITU)など4つに上り、その数は米国と肩を並べる。

こうした影響力を得るためのコストは比較的低い。グローバル・ガバナンス・フォーラムのエグゼクティブ・ディレクター、アウグスト・ロペス・クラロス氏は「国際機関では、比較的少額で重要なプレーヤーになれるということを中国が認識したことは評価すべきだ」と言う。「米国よりもその点をよく理解している」

CGDが国際機関や他の開発銀行における中国の影響力拡大について調査したところ、中国はこうした機関で機会を捉えては自らの立場を主張しているという。一方で、中国は正式にはまだ「途上国」に分類されており、こうした機関から経済的・技術的支援も受けている。

CGDのモリス氏はこう指摘する。「中国は途上国という立場を一切放棄していない。この点は他に例がない。インドなどの経済規模の大きい新興国は多額の融資を受けているが、グローバルリーダーの地位は得ていない」

By Jonathan Wheatley

(2021年12月19日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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