香港株式市場、広がる中国企業回帰 米中分断にリスクも

香港株式市場、広がる中国企業回帰 米中分断にリスクも
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『【香港=木原雄士】米国に上場する中国企業の香港回帰が広がっている。米中対立が強まり、双方の当局から圧力が強まっているためだ。短文投稿サイトの微博(ウェイボ)や、米上場廃止を表明した配車アプリの滴滴出行(ディディ)に続き、ネット通販大手などの名前が取り沙汰される。資本市場の分断が進めば、企業が十分に資金を得られず投資家側は投資機会を失うリスクもある。

大手会計事務所KPMG中国によると「ホームカミング(本国回帰)」と呼ばれる米上場中国企業の香港上場は今年だけで7社。検索大手の百度(バイドゥ)や動画配信のBilibili(ビリビリ)、旅行予約の携程集団(トリップドットコムグループ)などの有力企業が名を連ねた。

この流れは加速するとみられる。米証券取引委員会(SEC)は12月、中国企業を担当する監査法人が当局の検査を受け入れない場合、2024年にも当該企業を上場廃止にする新規則をまとめた。

中国当局も国家機密や個人情報の国外流出を警戒し、海外上場への監視を強めている。6月末にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した滴滴は、直後から当局の集中砲火を浴び、異例の短期間での上場廃止と香港上場への方針転換を余儀なくされた。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は中国当局が「変動持ち分事業体(VIE)」と呼ぶ仕組みを使った中国企業の海外上場を規制する方針だと報じた。VIEはアリババ集団などテック企業が米上場などで多用してきた経緯がある。

金融市場では香港回帰上場の候補リストが出回る。米ゴールドマン・サックスはネット通販の拼多多(ピンドゥオドゥオ)や電気自動車(EV)の上海蔚来汽車(NIO)、動画配信の愛奇芸、音楽配信のテンセント・ミュージック・エンターテインメント・グループなど米上場27銘柄が香港上場の基準を満たすと指摘した。

米調査会社ディールロジックによると、中国企業の米国での新規上場は1~6月の36社に比べて7月以降は2社と激減した。米上場をあきらめて最初から香港をめざす動きもある。香港の貨物運搬仲介サービスのララムーブや新興保険のFWD、中国版インスタグラムと呼ばれる小紅書などが香港上場の方針に転じたと報じられた。

KPMG中国の劉大昌氏は「中国企業の選択肢は中国本土か香港への上場しかない。外国人投資家をひき付けたい企業は香港に来るはずだ」と話す。香港は本土のような資本規制がなく、外国人でも自由に投資できるためだ。

機関投資家の間では、米国と香港に重複上場する銘柄について、米国での上場廃止リスクをにらんで香港株の保有に切り替える動きが出てきた。BNPパリバが決済情報からNYSEと香港に上場するアリババの株主構造を分析したところ、香港株の割合が2年前の2割程度から7割に高まった。

米指数算出会社MSCIは株価指数に組み込むアリババや京東集団(JDドットコム)などの中国銘柄のトラック対象を米国から香港に変えた。米モルガン・スタンレーは「少なくともパッシブファンドは香港株に追随する必要がある」と指摘する。有力企業と投資資金が同時にシフトすれば香港の存在感が高まる。

もっとも米中の資本市場の分断は、米中対立によってサプライチェーン(供給網)を二重につくる動きが出てきたのと同様、世界経済の効率低下につながりかねない。

米市場は投資家の層が厚く、テック企業の評価も香港より高い傾向にある。効率的に資金を集めたい中国企業と、有力企業を呼び込みたい米金融界の利益が一致して米上場ブームが起きていた。

分断が進めば、企業と投資家のニーズは出合いにくくなる。米国市場は新興企業への投資に蓄積があるため赤字企業の上場も受け入れているが、上場基準が異なる香港には上場できない中国企業も出てくる見通しだ。

香港取引所も回帰の動きを手放しでは喜べない。21年の新規株式公開(IPO)調達額ランキングで香港取引所は、ナスダック、NYSE、上海証券取引所に続く4位と20年の世界2位から転落する見込み。

香港の順位を押し上げてきたテック企業の上場が以前より小粒になったためだ。UBSでアジア太平洋の投資銀行部門を統括する金弘毅氏は「投資家が慎重な姿勢のため、22年上期はIPOが減速し、22年半ばから需要が戻る」と予想する。

中国の画像認識大手、商湯集団(センスタイム)は米財務省から証券投資禁止の制裁を受けて香港上場をいったん延期した。こうした投資禁止措置が広がれば、中国企業の上場が増えても、国際的な投資資金をひき付けるのは難しくなる。

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