米政権「造反」1人で窮地に 200兆円法案の実現不透明

米政権「造反」1人で窮地に 200兆円法案の実現不透明
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『【ワシントン=大越匡洋】バイデン米政権が与党・民主党内の内紛で窮地に陥った。子育て支援や気候変動対策への財政拡大をめざす看板政策について、党内で保守層に近いマンチン上院議員が19日、反対を表明した。共和党に近い富裕層からも献金を受けるマンチン氏の造反を止められなければ、2022年の中間選挙に向けて政権運営は大きな打撃を受ける。

「この法案はノーだ」。ウェストバージニア州選出のマンチン氏は19日、保守系メディアのフォックス・ニュースで、10年で1.75兆ドル(約200兆円)規模の資金を子育て支援や気候変動対策に費やす歳出・歳入法案に反対すると断言した。

20年の大統領・議会選を経て、民主党は南部ジョージア州での決選投票を制して上院の半数50議席を握った。賛否同数なら上院議長のハリス副大統領が票を投じることができるため事実上の多数派だ。下院でも過半数を占めた。

格差縮小や気候変動対策といった「民主党らしい政策」を実現する絶好の機会とリベラル層は期待を高めた。実際は政権の看板政策をめぐり、民主党は夏から延々と内紛を繰り返してきた。

内紛の震源地は上院議員3期目のマンチン氏だ。中道派と呼ばれる政治スタンスは財政拡大や増税を嫌う保守派に近い。民主党内では「右端」に立つ少数派だが、民主、共和両党が50議席ずつで拮抗する状況が大きな力を与えている。

上院で法案を通すためには民主党議員の全員が一致する必要があるため、マンチン氏は「造反」をちらつかせ、まず自身が推す超党派インフラ投資法案を実現。歳出・歳入法案の規模を当初案の3.5兆ドルから半減させることにも成功した。

今回、マンチン氏は法案に反対する理由にインフレや債務拡大への懸念を挙げたが、額面通り受け止める向きは少ない。なぜ与党議員が政権を追い込むのか。

まず地元事情がある。ウェストバージニア州はアパラチア山脈の石炭産業で栄えた地域だ。民主党を支持する「ブルーステート(青い州)」だったが、いまは低所得の白人労働者層がトランプ前大統領を支持し、共和党が強い「レッドステート(赤い州)」となった。生き残るには保守層を取り込むしかない。

気候変動対策の拡充や富裕層増税など、民主党政権の「左傾化」を阻むことで多額の政治献金も集まる。米調査サイトの「オープンシークレッツ」によると、マンチン氏は21年に入って9月末までに300万ドル超の政治資金を集め、19~20年実績の4倍を超えた。

民主党左派が気候変動対策の拡充をめざす歳出・歳入法案に反対するマンチン氏は石油・ガス、石炭などエネルギー業界からの献金が上院議員のなかで最高を誇る。大口献金者には税務コンサル事務所も名を連ね、米紙報道によると、そのトップはテキサス州を本拠に共和党に献金し、トランプ前大統領にも税制について助言したという。

バイデン政権は焦りを隠せない。サキ大統領報道官は19日の声明でマンチン氏に対し「何度も『誠意をもって』交渉すると約束したはずだ」と批判した。「決して諦めない」としたものの、打開策は見えない。

政権支持率は低迷を続けている。看板政策の実現が不透明になり、22年秋の中間選挙への挽回策が見当たらない。年が明ければ共和党との対立色は今以上に強まり、法案成立のために共和党議員の協力を得ることは一段と現実味が乏しくなる。

1.75兆ドルの規模をさらに縮小するなど妥協すれば、今度は民主党内の主流であるリベラル派や左派の不満が爆発する。上院議員を36年務めたバイデン大統領は自らマンチン氏との調整にあたってきた。その失敗は大統領の力量への不信に直結する。

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