中国の不動産市場、需要は安定 厚朴投資・方董事長

中国の不動産市場、需要は安定 厚朴投資・方董事長
経済観測 不確実性高まる中国経済
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM135A80T11C21A2000000/

『高騰してきた不動産価格が下降基調に転じるなど、中国市場の不確実性が高まっている。米国との経済対立も続く。今後の中国経済はどう動くのか。中国で「最初のインベストメント・バンカー」と呼ばれ、投資ファンド「厚朴投資」の董事長を務める方風雷氏に見通しを聞いた。

――2021年第3四半期の国内総生産(GDP)成長率は4.9%と失速しました。

「原因は3つある。第1の要因は素材価格の上昇と電力不足だ。素材価格の上昇により卸売物価指数が上昇した。卸売物価指数が消費者物価指数よりも10ポイント以上高い今の状況は歴史上なかったことだ。第2に新型コロナウイルスの影響だ。米欧や日本に比べて感染者数は少ないが、ゼロコロナ政策をとっているため人の流れや経済活動に影響が生じた。第3に不動産分野で政府が投機の抑制策をとった影響が出た。不動産は産業連関が大きく、建築や素材、家具、家電製品などの産業にも幅広く影響した」

――2022年の景気見通しは。

「現在の状況は短期的だと考える。12月初旬に中国人民銀行は預金準備率の引き下げを通じて1兆2000億元(約21兆円)の長期流動性を供給した。素材価格は下落し始めており、新型コロナの感染も抑制できている。不動産市場も一時的な影響はあったが、需要は安定している」

――恒大集団など不動産開発企業の債務問題は不動産市場に不安を与えています。バブル崩壊の可能性はないでしょうか?

「中国にとって不動産問題は重要だ。他の産業への影響も大きい。不動産分野は政府や地方政府の主要な財源でもあり、銀行貸し出しでも大きな比率を占める」

「中国の不動産市場の問題は、中国の人々がまるで株を買うように投機や投資のために住宅を買っていたことにあった。中国には相続税がないため子供にすべて遺産として相続でき、投資性、投機性が高まってしまった。政府が『住宅は住むためのもの』として投機の抑制に乗り出したのは正しい」

「価格の急落を防ぐことも含め、政府の管理下で市場の調整が始まった。中国政府にはとりうる手段が多く、市場が制御できない状態になる可能性は小さい。『住む需要』も安定的にあり、今後は投機ではなく実需が市場を支える。これまで不動産に向かっていた投資資金は製造業や商業など資金を必要とする他の産業に向かい始めている」

「そもそも中国の不動産市場は『天井』を迎えつつあった。このような状況下で恒大問題が起きたのも必然だ。恒大は投資拡大にのめり込み、2兆元もの債務を抱えている。中央政府にマクロ政策をコントロールする能力がない国家にとっては大変な問題だが、中国にとっては解決可能な問題だ。中央政府が銀行や関連産業、全国の司法機関と連携し、一括して問題を処理することができる」

――最近は中央政府によるIT企業などへの規制強化も経済への将来的な不安定要因としてみられています。

「金融市場は透明性や予測可能性を重視し、不確実性はもっとも嫌がる。様々な政策が一度に出てきてしまったため、彼らに失望を与えてしまったのは事実だろう」

「ただ、中国のネット企業には米国のプラットフォーム企業とは異なる点もある。中国ネット企業の事業はビジネスモデルの応用であり、グーグルやアマゾン・ドット・コムのように革新的な技術力はない。商業サービスが未発達だった中国市場において低コストで急成長を果たした後、独占的地位を利用して他のベンチャー企業の成長や消費者利益を阻害するようになり、メディアもコントロールするようになった。これは不健全な状況といえる」

「政府は彼らをつぶそうとしているわけではない。新たな技術開発に導くのが目的だ。最近では百度(バイドゥ)による自動運転やアリババ集団による半導体産業への進出などの動きがある。3~5年後にはこれらのプラットフォーム企業は革新的なハイテク企業に変貌していると確信する」

――日本企業には対中投資に慎重な姿勢も出始めています。

「日本企業の中国における収益率は20年で14.9%に達する。全世界では7%台、東南アジア諸国連合(ASEAN)主要地域合計でも 10%に達しない。それにもかかわらず、日本企業は中国市場において米国や欧州、台湾企業ほどの積極性はない。原因は外交や国際問題だけではないと思う」

「日本企業の中国市場における問題の一つは資本金の不足だ。日本企業は国内では銀行貸し付けに依存して事業を展開している。中国ではその資金を獲得することができない。大企業だけでなく、中小企業も海外の新市場を開拓しようとすると同じ問題が立ちふさがる。もし中日両国で新たなファンドを設立し、日本の中小企業が中国市場を開拓できるようにしたら大きな機会が生まれるのではないか」

「もう一つの問題は、日本企業は大企業ですら中国での事業展開が遅いことだ。理由は『現地化』の遅れにある。米国企業をみてほしい。中国の米国企業はみな中国人がマネジメントに携わっている。日本企業は中国の人材を採用して現地化を進めなければ重要な市場機会を失うだろう」

――米中対立の激化を背景に、日本企業は対中投資を積極化すれば経済安全保障問題で米国から制裁を受けるのではないかと心配しています。

「私は米国人と多くのビジネスをしてきた。米国人が『何を言うか』ではなく『何をしているか』をみるべきだ。いま米国企業の対中投資は減るどころか増加している。彼らは中国市場を失いたくないのだ」

「中国の小売市場は毎年7~9%成長している。米国は3~4%だ。21年は中国の小売売上高が6兆ドルに達すると予測している。米国は5兆8000億ドルだ。この成長が続けば27年には中国の小売売上高は10兆ドル規模に達すると予測されている。米国はそのころ8兆ドル弱だ。日本はこの市場機会を捨て去るのか」

「中東を訪問した際、イラン・イラク戦争中に唯一現地にとどまってビジネスをしていたのは日本の商社だったと聞いた。日本企業は本来、粘り強く対応能力も高い。新しい市場環境に対応しながらビジネスチャンスをつかむべきだ」

(聞き手は中国総局長 桃井裕理)

ファン・フォンレイ 1993年に中国初の合弁投資銀行「中国国際金融」の設立に参加し、実質トップと言われた。中国企業の大型買収や上場案件を手掛け、初の不動産証券化にも携わった。米ゴールドマン・サックスの中国進出のパートナーとなり、現地法人の董事長も担った。69歳。』