バイデン「画面外交」の真贋 強権リーダーに抑え効くか

バイデン「画面外交」の真贋 強権リーダーに抑え効くか 
本社コメンテーター 菅野幹雄
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN13D460T11C21A2000000/

『残り半月となった2021年の国際情勢は激変だった。1月のバイデン米大統領の就任後、トランプ時代に機能停止に陥った多国間協調が復活し、新型コロナウイルスや気候変動への対処で協力の実績が出てきた。半面、強権主義国の中国とロシアがそれぞれ台湾、ウクライナを巡り不穏な勢力伸長を探り、緊張が高まっている。

新局面を物語るのがオンラインによる外交協議の浸透だ。特にバイデン大統領は「画面外交」のヘビーユーザーだ。11月に中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席、12月にロシアのプーチン大統領とそれぞれ長時間の協議に臨み、100以上の国・地域を集め「民主主義サミット」も初開催した。

オミクロン型の出現は新型コロナとの戦いの長期化を予感させる。画面越しに有力国のリーダーが国益をぶつけあう「新常態」は、たしかに機動的だ。だが海千山千の強権リーダーを抑止する効果は期待できるのか。79歳のバイデン氏がこの手法に頼る構図には、不安も禁じ得ない。
大統領誕生にオンライン選挙運動

米大統領選挙の20年、民主党のバイデン候補が展開した選挙運動の大半はオンラインだった。新型コロナの感染による米国内での死者数が世界最悪を記録しても、リアルの選挙演説にこだわるトランプ前大統領と好対照をなした。トランプ氏のコロナ対応への失望はバイデン氏勝利の要因となった。手法は成功を収めた。

バイデン氏は画面外交を、米国の指導力を再建する手段として早々から活用した。米国主催で4月に開いた気候変動サミット、そして12月の民主主義サミットは、コロナ禍での移動の制約のもと、時差や安全性を確保しながら多数の国や地域を招き入れた。民主主義サミットのように100以上の国・地域を一気に招くのは対面外交ではかなり難しい。

秋以降、バイデン大統領は自身が「強権主義との競合」の相手として挙げる中国、ロシアの双方とオンライン協議を展開した。

将来の台湾統一を方針に掲げ、軍事面、経済面で強圧的な行動を続ける中国を、バイデン氏は強くけん制した。習主席は台湾を内政問題と位置付け、独立の動きを封じて海外からの口出しに一切屈しない姿勢を繰り返した。

米ロ首脳は6月にスイスで対面で会談しているものの、ロシアがウクライナ国境付近に10万人規模の兵力を集結させ緊張が募ったことで、協議の緊急性が増した。オンライン協議でバイデン大統領は、ウクライナに侵攻すれば「強力な経済的措置をとる」と迫った。プーチン氏も北大西洋条約機構(NATO)のウクライナへの関与に対する不満を語り、主張は平行線だった。

それでも中ロ首脳と米大統領の対話路線の実現には一定の評価がある。オバマ政権で東アジア政策を担当したダニエル・ラッセル元国務次官補は「米中首脳の直接協議が、核を保有する両国の破壊的な危機や誤解、読み違いを防ぐ効果があることを示した」とオンライン協議を評価する。
崩れる画面外交の前提条件

一方で、米大統領が強権主義に対する決然とした抑止力を示せていないと批判する声も多い。

米保守系シンクタンク、ハドソン研究所のケネス・ワインスタイン前所長は「中国とロシアとはオープンな対話の窓口を保つ必要がある。だがバイデン氏が、習氏とプーチン氏を抑止するのに十分な強硬姿勢を示せているかどうかは疑問だ」と、外交優先の姿勢や米軍のウクライナ派兵の排除を明言するバイデン氏に懸念を示す。「習氏やプーチン氏に外交は機能しない。彼らは最後に妥協してくれる普通のリーダーではないからだ」とみる。

長期政権を敷く習主席、プーチン大統領の双方と09~17年の副大統領時代に顔合わせしているバイデン氏。初対面ではなく、お互いに気心が知れた関係は画面外交の前提条件となる。だが、こうした経歴をもつ国家リーダーは少なくなってきた。16年在任したドイツのメルケル首相も引退した。「彼を知っている」というアプローチは、バイデン氏特有のものになりつつある。

リスクもある。中国は米中オンライン協議を共産党の重要行事である「6中全会」の終了直後に設定した。毛沢東、鄧小平に次ぐ「第3の歴史決議」を採択した余韻が残るなか、もう一つの超大国を代表するバイデン氏との協議は国威発揚に利用された。
画面では気迫まで伝わらず

だが、地球規模で国家同士の競合の構図が変わるなか、強権主義との向き合い方も変わる。

本来、国益や安全保障を巡る首脳間の駆け引きは、空間をともにした双方の表情や気迫など言葉以外のぶつかり合いだ。高齢のバイデン氏には不利に見えるが、首脳を支える実務家の暗躍ぶりも激しさを増している。

米外交調査会社、PTBグローバル・アドバイザーズのポール・ゴールドスタイン社長は「対中(の安全保障)政策を主導するのは国防総省でなく、米中央情報局(CIA)だ。銃弾を撃ち合うのではない『ソフトな戦争』が始まっている」。米政権内では水面下で「一つの中国」に加えて「一つの台湾」を打ち出し、米国と台湾に日米のような安全保障条約を模索する動きもあると同氏は話す。

対面外交と両建てでバイデン氏が展開する画面外交の真贋(しんがん)は、遠からず結果に表れる。日本や欧州の同盟国がその米国とどう寄り添うかも重い問いだ。』

『多様な観点からニュースを考える

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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授
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分析・考察

少なくともウクライナに関しては、利点を活かせているようには見えません。

あらかじめ経済制裁しかしないことを宣言して、しかも経済制裁の手の内をみせる。金融制裁のやり方を関係諸国と打ち合わせてもいない。

さらには、ドイツと欧州に認可権限があるノルド・ストリーム2を勝手に制裁に使うことにして、自分のものであるかのようにロシアへの威嚇に使う。

どうやら前メルケル政権とは一定の意思疎通をしたようですが、現在のショルツ政権とは全く意思疎通できていない。

AUKUS問題でのフランスとの行き違いの教訓が、全く学ばれていません。

日本の国益にも十分関わってきますから、しっかり危機管理の協議をもとめるべきです。
2021年12月16日 13:36

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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別の視点

息子が闘病していた副大統領時代の日々をつづったバイデン大統領の著書「ジョー・バイデン 約束してくれないか,、父さん 希望、苦難、そして決意の日々」(邦訳・早川書房)を読むと「私の考えでは、すべての政治はパーソナルである。なぜなら、結局のところ政治は信頼のうえに成り立っていて、個人的な関係を確立できないかぎり信頼を築くのはひどく難しいからだ。これは特に外交政策に関して言える」というくだりがある。

そしてバイデン氏はプーチン・ロシア大統領の眼を見た際、心というものがないようだと思ったことも記していた。

対面で信頼関係が築けそうになのなら、オンラインではなおさらである。米国と中ロの対立は続く。

2021年12月16日 13:48

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高橋徹
日本経済新聞社 アジア総局長兼論説委員
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貴重な体験談

「画面外交」は、特に多国間の国際会議では、すべてが予定調和で進むように見えます。一方、対面外交では時に予定外のハプニングが起きます。印象に残るのは2011年5月、ジャカルタで開かれたASEAN首脳会議。国境紛争で戦闘状態にあったタイのアピシット首相、カンボジアのフン・セン首相が競うようにメディアセンターに姿を現して即席の記者会見を開き、それぞれの立場を主張しました。国益を守ろうとする指導者の気迫の外交戦を目の当たりにできたのは貴重な経験でした。突然の会見に居合わせなかった他国の記者から、ICレコーダーの録音を聞かせて、と後で頼まれたのも思い出します。

2021年12月16日 12:45

菅野 幹雄
東京、ベルリン、ロンドンで経済・政治を取材。脱デフレの財政・金融政策、ユーロ危機やEU動乱を報じた。18年からワシントンに赴任。「バイデンの米国」と世界秩序の変貌を追う。著書に「英EU離脱の衝撃」。

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