米、インド太平洋の新経済構想で対中攻勢 日本にも重責

米、インド太平洋の新経済構想で対中攻勢 日本にも重責
編集委員 西村博之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD112HP0R11C21A2000000/

『米国がインド太平洋を覆う経済の枠組みづくりへ動き出した。トランプ政権の環太平洋経済連携協定(TPP)離脱による空白を埋める狙いで、サプライチェーン(供給網)対策や重要技術の輸出管理、デジタル分野の共通ルールで合意をめざす。ただ米中の分断を促すと警戒する国もあり日本の調整もカギになる。

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構想は「インド太平洋経済フレームワーク」。売り込みのためレモンド米商務長官やタイ米通商代表部(USTR)代表が11月、日本をはじめアジア各国を訪れた。アジアを歴訪中のブリンケン国務長官も地ならしを続ける見通しだ。

供給網やデジタルで中国対抗

構想は多分に中国を意識した内容だ。供給網の対中依存を弱める一方、輸出管理は強め重要技術の流出を防ぐ。データや人工知能(AI)の利用で共通ルールを検討し、中国が攻勢を強めるインフラ分野でも協力する。ただ枠組みの法的な位置づけは不明。「構想は全く生煮え」と日本政府の関係者は戸惑う。

米国が構想を急ぐ背景には中国の攻勢がある。米国を除く11カ国が発足させたTPPに9月、中国が加盟申請し、台湾、そして12月13日に韓国も続いた。2022年1月には中国主導で15カ国の地域的な包括的経済連携(RCEP)協定も発効し、米国不在のまま地域の経済秩序が塗り替わる。

米国内では貿易協定への反対が根強いものの、バイデン政権としては何らか対応を迫られていた。新たな枠組みはその苦肉の策でもある。

中国か米国、踏み絵嫌うアジア各国

構想の中身に新味はない。たとえば半導体などの供給網対策は米日豪印の4カ国でつくる「Quad(クアッド)」で対応が進み、デジタル分野の共通ルールも域内に複数の前例がある。

インフラ支援でも中国の広域経済圏構想「一帯一路」に対抗する「ビルド・バック・ベター・ワールド」を米国が打ち出し主要7カ国(G7)で連携を決めている。今回の米構想は域内のさまざまな取り組みを1つの枠組みに束ね、インド太平洋全体に広げることに主眼があるといえる。

ただ「中国か米国か」の踏み絵を迫られると気をもむ国も多い。例えば米国がいう輸出管理は先端技術が対象だが、厳しすぎれば対中貿易が多い国には打撃だ。

マレーシアのイスマイルサブリ首相(左)と会談するレモンド米商務長官(11月18日、マレーシア・プトラジャヤ)=マレーシア政府提供・共同

「日本に米国との調整役を期待したい」。アジアの貿易担当者からは、そんな声も寄せられているという。輸出管理の対象を絞るなど不要な対中デカップリング(分断)を防ぐよう尽力してほしい、というわけだ。

当初のTPPでは、米市場への輸出が増えるとの期待が国々の参加を促した。新たな枠組みにも「アメ」が必要だ。

レモンド商務長官はマレーシア訪問時、新型コロナウイルス禍を受けて一時閉鎖した現地の半導体工場を訪れ、供給網の安定に協力すると表明した。国外からの投資が増えるならアジア各国には歓迎だ。

インフラへの支援も同じだ。例えば通信分野。資金力を欠く国々はデータ抜き取りなどへの不安を抱えつつ、安価な中国製の機器を買っている。安全なインフラ構築を支援できれば、新たな枠組みへの求心力になる。

焦る米国、成果に冷ややかな見方

冷ややかな声はある。国務省の元アドバイザーで米戦略国際問題研究所(CSIS)のスコット・ミラー氏は「米国の企業や農家や労働者が欲しいのは輸出市場だ」と話し、議会の同意すら前提としない枠組みでどこまで成果を得られるのか疑問視する。

一方、米国がアジアに関与すること自体の利点は大きいと経済産業研究所の渡辺哲也副所長は言う。「中国との均衡を保つためにも日本はあらゆる機会を使うべきだ」

その中国は今のところ様子見の姿勢。だが復旦大学アメリカ研究センターの宋国友氏は共産党系の英字紙グローバル・タイムズに寄稿しこう皮肉った。「米国は経済構想に各国を巻き込もうと常に言葉を尽くすが、実際の投資はいつも及ばない」

バイデン政権は22年11月の中間選挙もにらみ、成果を急いでいる。日本もいや応なく対応を迫られる。』