中国GDPが世界首位になる可能性の考察

コロナ禍1年目2020年の米中GDP分析・総括と今後の行方。中国GDPが世界首位になる可能性の考察
(2021/03/16)
https://www.provej.jp/column/st/usa-china-2020-gdp/

※ ちょっと疲れてきた…。今日は、こんなところで…。

『 下記は2011年時点の世界GDPランキング上位に入った国のGDP推移を示したグラフです。

長年アメリカが覇権国家としてGDP首位を守り抜いてきましたが、2030年頃には2位の中国がアメリカを抜くと言われています。

米中GDP推移

https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2012/2012honbun/html/i1410000.html

世界経済ランク

2020年は新型コロナウイルスの世界的な蔓延によって、各国はどこもGDPが落ちてしまいました。しかし、武漢を発生源としたにも関わらず、いち早く収束に向いコロナ不況から抜け出したのは中国でした。このことはGDPの逆転に影響するのでしょうか。

ここでは、新型コロナウイルスによってアメリカと中国のGDPはどのように影響を受けているのか、日本にはどのような影響があるのかについてご説明します。

目次 [非表示]

1 2030年に起こるGDP首位の逆転

2 世界首位を目指す中国のGDP
    新型コロナウイルス感染拡大前の中国のGDP

3 感染拡大後の中国GDP回復を後押しした2つの要因
    新型コロナウイルス感染防止に関する輸出が増えた
    国有企業が主に担うインフラ投資と20年後半の輸出が好調

4 中国に後を追われるアメリカ
    新型コロナ感染拡大前のアメリカのGDP
    感染拡大後の落ち込みはリーマンショック以来

5 中国は本当にアメリカを抜くのか

6 中国が世界首位になるという意見・仮説の根拠
    新技術の開発力のレベルが高い
    あらゆる分野の研究者数が多い
    鉱物資源が豊富
    消費者の購買力がまだ成長途上にある

7 中国は世界首位にならないという意見・仮説
    中国は2030年にGDPで米国を一旦上回ったとしてもその後失速する
    次の覇権国はインドが有力である

8 米中のGDPは日本へどのように影響するのか
    自動車関連品目は急減
    半導体等電子部品類は増加が続く

9 最後に

2030年に起こるGDP首位の逆転

2030年、中国のトップが習近平のままであるかはまだ未定ですが、誰が国家主席になろうと、中国がGDP首位になるという見解が有力です。

中国成長

2021年3月現在、中国の経済成長率は、新型コロナウイルスの感染拡大前の水準に戻っています。

早期にウイルスを抑え込むことに成功し、2020年通年も主要国で唯一プラス成長を維持しています。

GDP1位のアメリカの経済が未だに出口が見えずに苦闘している中、この中国の経済回復は、2030年に起こるとされているGDP首位の逆転を前倒しするのではないかという見解もあります。

※日本は現在3位ですが、2035年には4位に下がると予測されています。

それでは次に、今まで中国がどのようなGDPの成長を成し遂げてきたかを見ながら、実際に1位になるかどうかを様々な視点から見てみましょう。

世界首位を目指す中国のGDP
新型コロナウイルス感染拡大前の中国のGDP

中国上海

https://mainichi.jp/articles/20201019/k00/00m/020/257000c

下記のように、中国の実質GDP成長率は年々下がっています。しかし、アメリカや日本はそれ以上に下がるか、停滞するため、中国は相対的に有利になるというのが大きな理由です。

GDP推移

中国は1970年代末から、経済の改革開放路線に踏み切り始め、市場経済化や外資の導入を開始し、2001 年にはWTO にも加盟。30 年以上年平均10%近い実質経済成長を遂げてきました。

その結果、2000 年代後半に、名目ドルベースで換算した中国のGDPは欧州主要国を、2010 年には日本を抜き、米国に次ぐ世界第二の経済規模へと成長しました。特に世界経済危機後の 5 年間(2008年~2013 年)は、先進国が伸び悩む中、人民元レート上昇も影響し中国の名目ドルベースGDPは約 2 倍に拡大しています。

習近平は2015年に「中国製造2025」を掲げ、先端分野に多額の補助金を投じてきました。対米摩擦の長期化をにらみ、21年からの新5カ年計画でも国内供給網の強化を狙ってきました。

中国製造2025_3ステップ

https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2017/06/gir/index.html

重点分野

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO38656320X01C18A2EA2000/

感染拡大後の中国GDP回復を後押しした2つの要因

中国国家統計局が発表した2020年10~12月の実質GDPは、前年同期比6.5%増となり、新型コロナ前の19年10~12月と比較して6.0%上回りました。

中国コロナGDP

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20200717000270.html

GDP成長率が増えた主な理由は下記の2つとされています。

新型コロナウイルス感染防止に関する輸出が増えた

中国では低迷していた海外への輸出額が、前年同月比で4か月連続のプラスとなり、GDPを押し上げました。

特に、感染防止に関連する製品の輸出が伸びていて、1月から9月までのマスクをはじめとする繊維品は、去年の同時期に比べて37.5%増えました。

国有企業が主に担うインフラ投資と20年後半の輸出が好調

金融緩和によって溢れたマネーが不動産市場に流れ込み、マンションの投資開発も鋼材やセメントなど原材料の生産が伸びました。

海外の工場がコロナ禍で稼働率が高まらず、中国に代理生産の需要が発生しました。20年後半は輸出も好調となりました。

中国福建省

https://www.sankeibiz.jp/macro/news/190425/mcb1904250500001-n1.htm

しかし今後、中国にとって大きな悩みとなってくるのが、人口ボーナスの喪失と高齢化です。

中国人構成推移

これまで中国では、人口ボーナスで生産年齢にある人口が増加していたため、生産活動の拡大に有利に働いていましたが、今後は一人っ子政策の影響で高齢化が進むことが予測されており、経済成長の鈍化や高齢化社会への対応、社会保障の問題など避けて通れない問題に直面します。

一人っ子政策の緩和が打ち出されたものの、人口に効果が現れるまでには長い時間がかかるとされています。

中国に後を追われるアメリカ

それでは次にアメリカのGDPが近年どのような推移をしているのかを見てみましょう。

新型コロナ感染拡大前のアメリカのGDP

米商務省が発表した2019年の実質GDPは、前年比2.3%増と、16年以来3年ぶりの弱い伸びとなりました。

貿易摩擦に伴う設備投資の低迷が経済の重しとなり、資本支出の低迷が問題視されていました。

米国GDP

https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh19-01/s1_19_1_2.html

米中貿易摩擦の影響は、製造業を中心に表れています。輸出は、サービス輸出が伸びを維持する一方で、製造業輸出は18年半ば以降急速に鈍化し、19年4月にマイナスに転じていました。

感染拡大後の落ち込みはリーマンショック以来

米国商務省が2020年1月28日に発表した2020年第4四半期の実質GDP成長率は、前期比年率4.0%となりました。

ブルームバーグの調査による市場コンセンサス予想の前期比4.2%を下回り、前期の33.4%から大きく回復が鈍化。

2020年通年の実質GDP成長率は、感染拡大の影響で前年比マイナス3.5%となり、通年では、リーマン・ショック時2009年以来11年ぶりのマイナス成長となってしまいました。

米国GDP2

https://www.bbc.com/japanese/52481978

バイデン政権発足後初めてとなる。総額200兆円規模の経済対策の法案が可決・成立しました。

新型コロナウイルスで打撃を受けた労働者や家計を重視した内容で、日本円にして15万円の現金給付や失業保険の積み増しを2021年9月まで延長し、新型コロナの対応によって財政が悪化している州や自治体に向けても支援を強化する方針です。

バイデン政権

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66181990T11C20A1FF8000/

バイデン政権は、ウイグル自治区の少数民族ウイグル族の人権侵害への対処を最優先課題とし、米通商代表部は、バイデン政権の2021年の通商政策課題に関する報告書において、対立する中国の不公正な貿易慣行に対して「あらゆる手段を用いて対抗する」と表明しています。

今後の対中外交関係、米中貿易摩擦の行方が注目されています。

中国は本当にアメリカを抜くのか

2030年までに、中国はアメリカを抜くのではないかという意見が有力です。

しかし、ここ最近になって、「それは不可能だ」という少数派の意見も出てきました。両者の見解を見てみましょう。

米中GDP逆転

中国が世界首位になるという意見・仮説の根拠

中国が2030年までにGDP首位になるという意見を主張する人は、どのような観点から言っているのでしょうか。

主に下記の4点が挙げられます。

1、新技術の開発力のレベルが高い

新型コロナウイルス向けのワクチンを例に取ってみると、アメリカやイギリスといった新薬開発で世界トップの国と互角に戦っており、1日当たりの製造量がそれらの国に比べて圧倒的に多いと言われています。

2、あらゆる分野の研究者数が多い

優れた大学院生など高度な研究者予備軍が非常に多いため、人材面で経済効果が期待できます。

3、鉱物資源が豊富

中国金属鉱物

http://earthresources.sakura.ne.jp/er/Rres_CH.html

中国には、世界で知られている鉱物資源で採れないものはないと言われています。海外から鉄鉱石や石炭を輸入していますが、自国にある未掘削の価値のあるものは温存しています。例えば、石炭、無煙炭や高熱炭はたくさん採取できるものの、輸入した方が安く上がるものは輸入しています。

4、消費者の購買力がまだ成長途上にある

中国の人口の半分以上の中間層以上はその購買の勢いを持ち続けており、その下のクラスの層はまだ追い付いていない状態です。中国の消費者が買いたいもので、まだ手に届いていないものに車と住宅があります。この2つが売れる社会の産業は、全体的に強さを持つ傾向にあります。

中国は世界首位にならないという意見・仮説

中国の経済力が近い将来世界一の経済大国アメリカを超えるという説は一般的です。

しかしこれを覆す意見を、ロンドンの経済調査会社キャピタル・エコノミクスが発表しています。

中国の経済は2050年になってもアメリカを上回ることはできず、永遠に2番手のままと述べています。

中国の経済的影響力はアメリカのように着実には増加することはないと主張するのは、2030年までに中国の労働人口が年間0.5%以上減少し、アメリカの労働人口は移民増加と中国よりも高い出生率によって、今後30年間で拡大すると考えているからです。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長のも下記2つの点で、「中国は首位にならない」と見ています。

1、資本主義サイクル

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000087.000011466.html

嶋中氏の予測の詳細を見てみましょう。

2、中国は2030年にGDPで米国を一旦上回ったとしてもその後失速する

社会インフラの投資周期をもとにした景気トレンドを示す「コンドラチェフ・サイクル」で考えると、中国は11~47年まで下降局面にある

「一人っ子政策」の副作用によって30年以降は人口減少に転じ、一方アメリカは、移民流入により高い出生率を維持し、40年にはGDPで中国を再逆転する

確かにアメリカも34年にはコンドラチェフ・サイクル上ではピークを迎えるため、その後は徐々に勢いが衰えるが、そこで中国が取って代わるのが難しいのは、ポルトガルに対するスペイン、英国に対するフランス・ドイツなど、「挑戦国」が覇権国に取って代わった例はない

覇権国に対抗して軍事拡大を急ぐあまり経済への対応がないがしろになったという多くの国の失敗事例が今の中国に当てはまる

そのため、GDPで一時的に首位に立っても覇権国になることは無理である

次の覇権国はインドが有力である

インドが最有力とする理由は、インドのコンドラチェフ・サイクルは2032年に底入れし、59年まで上昇が続くため
インドは中国と異なり人口増加が続くだけでなく、年齢構成も相対的に若い点
カースト制度の名残や性差別、不十分な衛生環境などの文化的未成熟な面が改善されれば期待ができる

インド

米中のGDPは日本へどのように影響するのか

世界3位の日本経済は昨年4~6月期、パンデミックが国内消費や輸出に打撃を与え、戦後最悪の落ち込みを記録しました。

NEEDSは、日本経済は21年度の実質成長率が0.8%と、緩やかな拡大が続くと予測しています。

日本経済推移

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-12/QPVEXEDWLU6G01

新型コロナウイルスの拡大は,世界各地で経済活動に急ブレーキをかけ、物流を滞らせました。2020年の世界貿易の状況は非常に厳しい状況に陥り、各国の貿易は大幅な後退を余儀なくされ、日本も同様に2020年1~6月期の輸出は前年同期比14.0%減と落ち込みました。
自動車関連品目は急減

特に打撃を受けたのが輸送機器で、上半期の輸出額をみると、4月以降は世界各地で工場の稼働停止が相次ぎ、自動車は前年同期比29.9%減となりました。

自動車

半導体等電子部品類は増加が続く

一方、前年同期比プラスとなったのが、集積回路などの半導体等電子部品類で、前年同月比5.3%増となりました。

もともと世界の半導体需要が上向きのトレンドにあり、2019年8月から、コロナウィルスの影響を受けつつ2020年8月まで拡大が続きました。

感染拡大によってサプライチェーンの分断などマイナスの影響があった一方で、テレワークの急速な広がりやオンラインのニーズが高まり、半導体に対する底堅い需要が増加を後押ししました。

中国が2021年のGDP成長率の目標を「6.0%以上」と設定したことは、日本経済に追い風になると期待できます。

新型コロナウイルスの感染拡大をいち早く収束させ、経済活動を再開させた中国に対して、輸出のさらなる増加が見込まれているからです。

それでは対アメリカの輸出はどうでしょう。2020年5月における日本の対米貿易収支の黒字額は103億円でしたが、これは、1979年1月以降の最低となりました。自動車を中心に米国向け輸出が前年同月比50.6%も減少となって、対米収支が赤字になったのは非常に珍しいことです。

対米貿易収支

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-06-17/QC1PEXT0G1KW01

しかし、農林中金総合研究所の南主席研究員は対アメリカの貿易赤字は「単にコロナの影響を反映したものだ」と指摘しており、コロナウイルスが収束すれば同時に回復するだろうと見ています。

最後に

2020年のパンデミックからいち早く脱出した中国ですが、2030年に中国がアメリカを追い抜くという当初の予定を前倒しするのでしょうか。中国がアメリカから首位奪還せず、首位になるのはインドであるという意見も非常に興味深いですね。今後中国を除く首位の有力候補であるアメリカとインドが、このパンデミックの危機からいかに脱出するかも大きなポイントになるでしょう。

<参考>

https://www.bbc.com/japanese/56066376

https://www.sankei.com/politics/news/210305/plt2103050018-n1.html

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210307/k10012902021000.html

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/02/post-95677_1.php

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM185AU0Y1A110C2000000/?unlock=1

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2020/1001/4fcbeeffe1e7a4b2.html

米中GDP、33年に逆転 昨年時点より試算後ずれ

米中GDP、33年に逆転 昨年時点より試算後ずれ
日経センター予測
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB151710V11C21A2000000/

『日本経済研究センターは15日、中国の名目国内総生産(GDP)が2033年に米国を上回るとの試算をまとめた。逆転時期は早ければ28年とした昨年12月の試算より遅れる。さらに50年には米国が再び中国を上回る見通しだ。中国政府による民間企業の規制強化で生産性の伸びが鈍るほか、長期的には人口減少による労働力不足が成長の足かせになるとした。

【関連記事】1人あたりGDP、27年に日韓逆転 日経センター予測

アジア・太平洋地域の18カ国・地域を対象に、35年までの経済成長見通しをまとめた。このうち米中両国は、60年までの長期予測も示した。

20年12月時点の試算では、米中のGDP逆転は新型コロナウイルスの感染拡大が深刻になるケースで28年、標準ケースで29年としていた。逆転時期が4~5年遅れる一因は、中国政府による民間統制の強化だ。企業の技術革新を抑え、労働生産性の伸びを鈍らせかねないためだ。

中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は、国内不動産の過剰投資を是正するため金融規制を強めている。中期的にみても投資を抑制し、成長率の低下につながる。バイデン米政権による大規模な財政支出で21年の米国経済が急回復したことも、逆転時期が遅くなる要因となった。

中国の経済規模は38年、米国を5%近く上回るまで拡大する。40年代には米中GDPの差は縮小に転じ、50年には米国のGDPが再び中国を上回る。日経センターが19年に公表した長期予測では、再逆転の時期を実質ベースで53年と試算していた。

日経センターは再逆転の背景について「中国経済が人口減と生産性の伸びの鈍化で、成長率が急減速する」と指摘する。中国の15~64歳の生産年齢人口は13年にピークに達したが、総人口も近く減少に転じる公算が大きい。21年の出生数は1949年の建国以来、最少になるとの見方もある。

少子高齢化への危機感を強める中国政府は、1組の夫婦に対して3人目の出産を認めた。家庭の教育費を削減するため、学習塾業界への規制を強めた。ただ都市部の不動産価格は高止まりしており、生活コストを膨らませている。長年の産児制限で「子は1人」という家庭観も根付いており、市民の出産意欲が高まるかは見通せない。

人口減少は働き手の減少を通じて、成長を下押しするだけではない。急速な高齢化に対応するための社会保障制度の整備も急務だ。年金などを支える硬直的な財政支出が増えれば、政府によるハイテク産業の支援などにも影響が出る可能性はある。

(北京=川手伊織、デジタル政策エディター 八十島綾平)』

中国、「2028年までにアメリカ追い抜き」世界最大の経済大国に=英シンクタンク
(2020年12月27日)
https://www.bbc.com/japanese/55457085

バイデン政権は米中貿易戦争を継続しない?コロナをきっかけに中国が米国を逆転すると考えられる理由
(2021年1月9日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210105/se1/00m/020/049000c

ソ連崩壊30年 行き先見えぬ「強権のトロイカ」

ソ連崩壊30年 行き先見えぬ「強権のトロイカ」
編集委員 坂井光
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK103PU0Q1A211C2000000/

『ソ連が崩壊して30年を迎える。東西冷戦が名実ともに終結し、新生ロシアは自由と民主化を志向するかにみえた。しかし、プーチン大統領は強権に走り、経済もここ約10年は停滞。それを覆い隠すかのように復古主義が台頭している。そんな風潮に多くの国民は違和感を覚え、来るべき未来を描けないでいる。

Nikkei Views
編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。

1991年12月25日夜、ゴルバチョフソ連大統領がテレビで辞任を発表すると、クレムリンのビル屋上にはためいていた赤い国旗が降ろされ、代わりに3色のロシア国旗が掲揚された。時代が移り変わった瞬間だった。

混乱のなかに一筋の光

当時、経済は疲弊し、もの不足も深刻で先は見通せなかったが、希望はあった。「民主主義」「市場経済」「基本的人権」がトロイカ(3頭立ての馬車)となり、ロシアを未来に導くはずだった。

秘密警察の創設者ジェルジンスキーの像の頭部を踏みつける人々(1991年8月、モスクワ)=AP共同

2000年に御者がエリツィン氏からプーチン氏に代わると、けん引役は「専制主義」「統制経済」「国家権力」に変わった。プーチン氏にそんなつもりではなかったのかもしれないが、国の安定のためには帝政時代からの伝統にのっとるしか手本がなく、国家保安委員会(KGB)出身としてもやりやすかったのだろう。

その結果はどうか。欧米との関係はかつてないほどに悪化し、ソ連を構成したバルト3国、ジョージア(グルジア)、ウクライナは造反した。経済面では、世界最大の面積を有し、日本と同じほどの人口を抱えるにもかかわらず、国内総生産(GDP)では韓国並みにとどまる。

グローバル化にも乗り遅れた。世界のサプライチェーン(供給網)から外れ、モスクワ国際金融センター構想は日の目を見ていない。
ソ連崩壊以降の30年のうち22年間をプーチン氏が最高権力者として君臨する(2000年5月、エリツィン氏㊨に代わり大統領に就任したプーチン氏)=タス通信

いま国を支えるのは石油・天然ガスといった資源、素材や武器などの軍需産業、農作物など。大半がソ連時代の遺産といっても過言ではない。

冷戦時、米国と対峙した大国としての立ち位置は大きく変わった。一時は主要8カ国(G8)首脳会議のメンバーに加わったが、2014年のウクライナ侵攻でその地位を追われた。

期待した欧州の一員にはなれず、ユーラシア大陸の盟主の座はかつての弟分、中国に譲った。
軍事的緊張高めるプーチン政権

そんな現実を体感する国民にとって、ソ連崩壊から30年たったいま、描ける将来像はぼやけたままだ。西側諸国から孤立したまま経済的に停滞の道を歩むのか、それともロシア以上に覇権主義的な隣国に接近し、次第に取り込まれていくのか、あるいは第3の道が開けるのか――。

そんな不安を脇に追いやろうとプーチン政権はますます強権的手法に頼っている。ウクライナ国境近くに部隊を派遣し、軍事的緊張を高めているのもそのひとつだ。外部に敵をつくり政治体制を支えようとするのは、非民主国家の常とう手段だ。

精神的には「古き良き時代」に国民の目を向けさせようと躍起だ。当時ロシア人が持っていた誇りや社会生活上の安定、対外的な影響力を思い出させる試みだ。第2次世界大戦でソ連が果たした役割や払った犠牲についてプーチン氏が独自の歴史認識で言及する場面が増えているのも、過去の栄光にロシアとしてのアイデンティティーを求めているからであり、同時に強権的な体制を正当化するためといえるだろう。

スターリンを英雄視し、暗部は覆い隠そうとする試みがみられる(4日、モスクワの「赤の広場」で)=AP

プーチン氏は伝統的価値観としてロシア人の「精神的な絆」を強調している。当局は理想の家族像として3世代の同居を提示。一方で、LGBT(性的少数者)の権利やジェンダー研究を誤った価値観をもたらすとして遠ざけている。

主力はソ連を知らない世代へ

しかし、ロシアの主力をなすのは、ソ連を知らない世代に移りつつある。多様な価値観を持つ彼らは過去を押しつけられることに抵抗感が強い。ソ連に郷愁を感じる世代でさえ、恐怖政治を敷いたスターリンを大戦に勝利した偉大な英雄としてのみ取り上げ、その暗部を覆い隠そうとしていることに戸惑いを持つ人がいる。

ロシア人の多くが、よりどころとする価値観をいまだに見つけられないでいるようだ。

プーチン氏が御者となって22年。まだ馬車の行き先は見えない。途中で降りて安住の地を見つけた人も多い。しかし、大半は降りることさえできない人々だ。

ロシアはどこへ向かっているのか――。約180年前、文豪ゴーゴリは小説「死せる魂」のなかでロシアを馬車に見立て、同じ問いをしている。「ロシアよ、おまえはどこへとんでゆくのだ? おしえてくれ」と。これに続くのは「だが、答えはない(略)他の民族や国々はちらと横目で見ると(略)このトロイカに道をゆずるのである」(工藤精一郎訳)。

先が見えないのは当時もいまも同じかもしれない。ただ、当時の皇帝は、厳格な専制主義者のニコライ1世。のちに南下政策をとり、クリミア半島などを舞台にイギリス、フランス、オスマン帝国と戦火を交えた。 』

習氏が悩む住宅・共同富裕 危うい薄熙来モデル復活

習氏が悩む住宅・共同富裕 危うい薄熙来モデル復活
編集委員 中沢克二
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1329X0T11C21A2000000/

『中国が来年の経済運営を議論した共産党中央経済工作会議の発表に、部分的な債務不履行(デフォルト)に陥った中国恒大集団など民間の大手不動産デベロッパーの運命を左右する驚きの表現が登場した。中低所得者向けに長期賃貸する「保障性住宅」の公共開発プロジェクト推進が、民間企業が開発・販売するマンション(商品房)より優先度が高い事業であると事実上、認定したのだ。

8~10日に開かれた中央経済工作会議に臨む中国の習近平国家主席(北京)=新華社・共同
「発表文で保障性住宅が、商品房より前に置かれ、賃貸が購入より前にあるのが何よりの証拠だ。それは『住宅は住むためのもので、投機の対象ではない』という習近平(シー・ジンピン)総書記の金言を体現している」。中国の経済関係者の説明は明快である。

住宅高騰を危惧する習近平が繰り返してきたフレーズは、不動産市場の予想を超す変調を受けて暫時、消えかけていた。だが今回の会議の方針では、多少の調整は必要でも守るべき最低ラインとして明記された。その具体策が保障性住宅の推進である。習としては面目を保った形である。

 重慶式「保障性賃貸住宅」の時ならぬ復権

そして中国の政治上、最も注目すべきなのは、習が推し進める保障性住宅の概念が2010年前後に重慶市トップだった薄熙来(無期懲役で服役中)が打ち出した「紅(あか)い色の公共事業」にうりふたつであることだという。それは毛沢東式の原理的な社会主義政策を意識した「紅い歌を唱(うた)う運動」とともに進められた危うい経緯がある。

収賄罪などに問われ、公判に臨む薄熙来・元重慶市党委員会書記(中央、2013年10月、中国山東省)=新華社・共同

10年の公式報道によれば、重慶旧市内に住む人口の3割に当たる中低所得層の住宅難解決のため、4000万平方メートルの公共賃貸住宅などを建設するとしていた。家を買う財力がない月収1000元(1万7000円前後)の低収入3人家族でも、毎月100元強の賃料と電気・水道代を払えば、2Kの快適な住宅に住めるというのが、重慶の保障性住宅政策の触れ込みだった。

この家族との単純な比較はできないが、首相の李克強(リー・クォーチャン)は昨年、中国には平均月収1000元前後の中低所得層が6億人もいると明かした。10年前の重慶の状況は、今の中国にもある程度通じる。

もう一つ付け加えると、習の主導で試験導入を準備中の不動産税も、薄熙来が重慶で11年に先行導入した制度だ。日本の固定資産税に相当する保有税は、「土地は国有」を前提とする中国ではなお本格導入されていない。重慶では高級な一戸建て住宅やマンションといった資産に全国に先駆けて保有税を課し、その収入を低所得者向け住宅建設などに充てた。

かつてライバルのひとりだった薄熙来が、野心をあらわにしすぎたかどで失脚した後、トップに就いたのが習である。それから10年近くたった今、格差是正を狙ってそっくりな住宅政策を打ち出したのは歴史の皮肉というほかない。

 「鄧小平超え」象徴する住宅政策の転換

そこには必然性もある。1990年代後半から中国政府が進めたのが「中国式社宅」の廃止=持ち家購入推奨だ。それは鄧小平、江沢民(ジアン・ズォーミン)、胡錦濤(フー・ジンタオ)の3代にわたる市場化路線の象徴でもある。

その路線は変化を迫られている。引き金をひいたのは異常な住宅価格高騰だった。先の「第3の歴史決議」で鄧小平超えを演出した習は、住宅政策でも自らの新時代を切り開きたい。その時、毛沢東をモデルにした薄熙来式の保障性住宅が登場したのは偶然ではない。
保障性住宅という見慣れない用語は今、中国で流行語になろうとしている。中国の検索サイトで調べると、ここ数日、各地の長期賃貸住宅計画の始動を伝えるニュースが目白押しだ。

習氏の側近である陳敏爾・重慶市党委員会書記

目を見張るのは重慶市。「浙江閥」の雄で重慶市トップを務める陳敏爾は、薄熙来が残した悪習を意味する「余毒」の一掃に努めてきた。失脚した人物の足跡が少しでも見える政策を断固排除するのは、習側近の使命として当然だった。ところが経済工作会議で新方針が出るや否や、保障性住宅の供給拡大策をアピールしている。薄熙来政治の目玉政策だった経緯など忘れたかのようだ。

住宅政策の変化に伴い、民間住宅大手も路線転換を迫られる。ぬれ手で粟(あわ)でもうかった一般のマンション開発・販売事業を今後は大幅に縮小し、本業以外への進出や、保障性住宅事業への参入を検討せざるを得ない。

中国恒大集団の本社が入るビル(中国広東省深圳市)=共同

一方、経済工作会議では、格差是正に重点を置く「共同富裕」(みんなが豊かに)に絡み、もう一つ重要な結論が下された。ここにも薄熙来が関係する。当時、広東省トップだった現在の全国政治協商会議主席、汪洋(ワン・ヤン)との間で勃発した成長の成果を意味するケーキの分け方を争った「ケーキ論争」だ。

薄熙来は当時、カネが全てという風潮への市民の不満を察知し、「直ちにケーキを公平に分けるべきだ」と訴えた。民間住宅の高騰をみて、大規模な保障性住宅の建設に踏み切ったのも、ケーキを即刻分配する公約の目玉にしたかったからである。

これに真っ向から異を唱えた汪洋は「まずケーキ全体を大きくし、貧しい層を底上げしなければ必ず失敗する」と主張した。若い頃、地方幹部だった汪洋は、「先富論」を唱えた鄧小平に見いだされた人材である。毛沢東式の急進的な平等主義がもたらした経済破壊の悲劇への警戒感は強い。汪洋は、薄熙来の前に重慶市トップを務めた経験もあり、その野心的で極端な政策への反発もあった。

 「ケーキ論争」は汪洋氏に軍配という折衷案

「まずはケーキを大きくしてから、合理的な制度に基づいて分配する」。これが会議発表文の表現だ。長老らを含めた大論争があった共同富裕の進め方を巡っては様々な案が出ていたが、今回は明確だ。住宅問題とは逆に汪洋に軍配が上がった。

中国の全国政治協商会議の開幕式で活動報告を行う汪洋・政協主席

中国では夏以降、経済減速が鮮明だった。原因は、共同富裕へ急速にカジを切った様々な経済政策が複雑に影響した「政策不況」である。住宅価格の下落が広がり、地方政府は新築物件の値下げ幅を制限せざるをえない状況にまで陥った。

切迫した経済情勢に危機感を強めた経済担当の副首相、劉鶴(リュウ・ハァ)が習を説得し、マクロ政策では「性急な格差是正と分配重視」という印象を薄めようと腐心した。信頼されている習の側近だからこそできた動きである。

相反する薄熙来モデルと汪洋モデル。習は住宅という社会政策と、格差解消に向けた分配政策の進め方を巡って両モデルの折衷案を採用したことになる。「鄧小平超え」を確固たるものにする政治目的から考えれば、習近平新時代の色を強く出せる共同富裕をもっと前面に打ち出したいのが本音だろう。だが、それは目下の厳しい経済情勢を前にひとまず微妙な形で封印された。(敬称略)

中沢克二(なかざわ・かつじ)
1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。』

中国新築住宅、主要都市8割超で値下がり 11月

中国新築住宅、主要都市8割超で値下がり 11月
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM14AAO0U1A211C2000000/

『【北京=川手伊織】中国国家統計局が15日発表した2021年11月の主要70都市の新築住宅価格動向によると、前月比で価格が下落した都市の数は8割超の59で、10月から7増えた。当局による不動産規制の修正で住宅ローンは増加したが、価格下落の流れは続いている。
新築物件の値下がり都市が増加するのは6カ月連続だ。前月比で上昇したのは9都市で、10月から4減った。横ばいは2都市で3減った。70都市の変化率を単純平均すると、0.3%の下落だった。3カ月連続でマイナスとなった。

都市別に見ると、北京、上海、広州、深圳の「1級都市」のマンション価格は平均で前月と横ばいだった。省都クラスの「2級都市」は0.4%、それ以下の「3級都市」は0.3%それぞれ下落した。

取引価格が比較的自由で市場の需給を反映しやすい中古物件では、全体の9割に相当する63都市で価格が下落した。10月より1減った。値上がりは3都市にとどまった。単純平均した下落率は0.4%で、4カ月連続で前月を下回った。

中国人民銀行(中央銀行)は13日、11月末時点の住宅ローン残高が1カ月で4013億元(約7兆1400億円)増えたと発表した。増加幅は10月より532億元多く、2カ月連続で拡大したが、マンション価格への影響は今のところ限定的だ。』

米国務長官「中国が3兆ドルの物流脅かす」 南シナ海で

米国務長官「中国が3兆ドルの物流脅かす」 南シナ海で
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN145SK0U1A211C2000000/

『【ワシントン=中村亮】東南アジア歴訪中のブリンケン米国務長官は14日午前(米東部時間13日夜)、ジャカルタ近郊でインド太平洋をテーマに演説した。中国が南シナ海の実効支配を進めて「年3兆ドル(約340兆円)以上に相当する物流を脅かしている」と主張した。東南アジア各国と協力し、中国の海洋進出に対抗する考えを示した。

演説後、ブリンケン氏はインドネシアのルトノ外相と会談し、外務・防衛担当の局長級協議の創設で一致した。ルトノ氏が会談後の共同記者発表で明らかにした。中国の進出を念頭に、安全保障や資源保全など海洋協力に関する両国の覚書を2026年まで延長することも確認した。

ブリンケン氏は演説で、米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の対面形式の首脳会談を数カ月以内に米国で開く計画も表明した。米国とASEANは10月にオンラインの首脳協議を開いたばかりだ。オースティン米国防長官も22年初めに東南アジアを訪れる予定で、中国が影響力を拡大するこの地域への関与を強める。

ブリンケン氏は米中関係をめぐり、バイデン米大統領が中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席に11月のオンライン協議で「我々は両国の競争を紛争に発展させない重大な責任を共有している」と伝えたと強調した。南シナ海などでの米中衝突を懸念する東南アジアに配慮した。

経済分野では、ブリンケン氏が22年に世界各国や民間企業を集めたサプライチェーン(供給網)を巡る国際会議を開くと明らかにした。インド太平洋地域の国が供給網の強靱(きょうじん)化で中核を担うと指摘した。

中国のインフラ投資を念頭に「インド太平洋の政府や企業などから懸念を聞く機会が増えた」と指摘。不透明な投資決定プロセスや環境破壊を理由にあげた。これに対し、米国は「質の高いインフラ投資」を推進すると改めて訴えた。

バイデン政権はインド太平洋で新しい経済枠組みをつくる方針を示している。ブリンケン氏は供給網、環境配慮型エネルギー、デジタル経済などを対象にすると説明したが、詳細には触れなかった。

演説では主にこれまでの取り組みを紹介し、新味に欠いた。バイデン政権はASEANへの関与を強化するが、経済面でASEANに実質的なメリットを提供できなければ中国との競争で優位に立ちにくい。』

米、インド太平洋の新経済構想で対中攻勢 日本にも重責

米、インド太平洋の新経済構想で対中攻勢 日本にも重責
編集委員 西村博之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD112HP0R11C21A2000000/

『米国がインド太平洋を覆う経済の枠組みづくりへ動き出した。トランプ政権の環太平洋経済連携協定(TPP)離脱による空白を埋める狙いで、サプライチェーン(供給網)対策や重要技術の輸出管理、デジタル分野の共通ルールで合意をめざす。ただ米中の分断を促すと警戒する国もあり日本の調整もカギになる。

Nikkei Views
編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。

構想は「インド太平洋経済フレームワーク」。売り込みのためレモンド米商務長官やタイ米通商代表部(USTR)代表が11月、日本をはじめアジア各国を訪れた。アジアを歴訪中のブリンケン国務長官も地ならしを続ける見通しだ。

供給網やデジタルで中国対抗

構想は多分に中国を意識した内容だ。供給網の対中依存を弱める一方、輸出管理は強め重要技術の流出を防ぐ。データや人工知能(AI)の利用で共通ルールを検討し、中国が攻勢を強めるインフラ分野でも協力する。ただ枠組みの法的な位置づけは不明。「構想は全く生煮え」と日本政府の関係者は戸惑う。

米国が構想を急ぐ背景には中国の攻勢がある。米国を除く11カ国が発足させたTPPに9月、中国が加盟申請し、台湾、そして12月13日に韓国も続いた。2022年1月には中国主導で15カ国の地域的な包括的経済連携(RCEP)協定も発効し、米国不在のまま地域の経済秩序が塗り替わる。

米国内では貿易協定への反対が根強いものの、バイデン政権としては何らか対応を迫られていた。新たな枠組みはその苦肉の策でもある。

中国か米国、踏み絵嫌うアジア各国

構想の中身に新味はない。たとえば半導体などの供給網対策は米日豪印の4カ国でつくる「Quad(クアッド)」で対応が進み、デジタル分野の共通ルールも域内に複数の前例がある。

インフラ支援でも中国の広域経済圏構想「一帯一路」に対抗する「ビルド・バック・ベター・ワールド」を米国が打ち出し主要7カ国(G7)で連携を決めている。今回の米構想は域内のさまざまな取り組みを1つの枠組みに束ね、インド太平洋全体に広げることに主眼があるといえる。

ただ「中国か米国か」の踏み絵を迫られると気をもむ国も多い。例えば米国がいう輸出管理は先端技術が対象だが、厳しすぎれば対中貿易が多い国には打撃だ。

マレーシアのイスマイルサブリ首相(左)と会談するレモンド米商務長官(11月18日、マレーシア・プトラジャヤ)=マレーシア政府提供・共同

「日本に米国との調整役を期待したい」。アジアの貿易担当者からは、そんな声も寄せられているという。輸出管理の対象を絞るなど不要な対中デカップリング(分断)を防ぐよう尽力してほしい、というわけだ。

当初のTPPでは、米市場への輸出が増えるとの期待が国々の参加を促した。新たな枠組みにも「アメ」が必要だ。

レモンド商務長官はマレーシア訪問時、新型コロナウイルス禍を受けて一時閉鎖した現地の半導体工場を訪れ、供給網の安定に協力すると表明した。国外からの投資が増えるならアジア各国には歓迎だ。

インフラへの支援も同じだ。例えば通信分野。資金力を欠く国々はデータ抜き取りなどへの不安を抱えつつ、安価な中国製の機器を買っている。安全なインフラ構築を支援できれば、新たな枠組みへの求心力になる。

焦る米国、成果に冷ややかな見方

冷ややかな声はある。国務省の元アドバイザーで米戦略国際問題研究所(CSIS)のスコット・ミラー氏は「米国の企業や農家や労働者が欲しいのは輸出市場だ」と話し、議会の同意すら前提としない枠組みでどこまで成果を得られるのか疑問視する。

一方、米国がアジアに関与すること自体の利点は大きいと経済産業研究所の渡辺哲也副所長は言う。「中国との均衡を保つためにも日本はあらゆる機会を使うべきだ」

その中国は今のところ様子見の姿勢。だが復旦大学アメリカ研究センターの宋国友氏は共産党系の英字紙グローバル・タイムズに寄稿しこう皮肉った。「米国は経済構想に各国を巻き込もうと常に言葉を尽くすが、実際の投資はいつも及ばない」

バイデン政権は22年11月の中間選挙もにらみ、成果を急いでいる。日本もいや応なく対応を迫られる。』