米国に頼れない世界に備えよ(The Economist)

米国に頼れない世界に備えよ(The Economist)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB120KP0S1A211C2000000/

『80年前、旧日本軍は米ハワイの真珠湾を攻撃した。これは重大な過ちだった。世界で最も強大な国を参戦させ、結果的に大日本帝国は壊滅状態に陥ることになった。日本の軍将は「我々は眠れる巨人を起こし、すさまじい決意を抱かせてしまった」と述懐したとも言われる。

米シカゴの街角。かつて米国政府の徴兵のシンボルだったアンクル・サムは新型コロナ禍でステイホームを訴えかけるために使われている=ロイター

今では、日本は平和主義で豊かで革新的だ。日本を敗戦から再建したのは日本人だが、それを容易にしたのは日本を打ち破った超大国だった。米国は資本主義の自由民主主義国家としての日本の誕生を支えただけでなく、日本が自由に貿易し、成長できる世界秩序も構築した。この秩序は完璧とはいえず、あらゆる国で適用されているわけでもない。それでも、過去のどの秩序よりも優れていた。

米国はそれまでの超大国とは違い、軍事的優位を利用して、規模で劣る同盟国を犠牲にして商業的な利益を得ることはしなかった。大抵の場合、自ら共通のルールに従った。このルールに基づく体制のおかげで、多くの国が戦争を回避し、豊かになることができた。
中ロ、イランが米国を試す

だが残念なことに、米国はそのようなリベラルな秩序を保証する役割に疲れてしまったようにみえる。再び眠りについたわけではないが、決意は弱まり、敵にその意思を試されている。

ロシアのプーチン大統領はウクライナ国境付近に大量の部隊を集結させ、侵攻をちらつかせている。中国は台湾の防空識別圏に頻繁に戦闘機を飛ばしたり、(砂漠に)建造した米軍空母の模型を標的としてミサイル攻撃の演習をしたり、極超音速兵器を実験したりしている。イランは核協議で自国の主張を一切譲らず、話し合いは決裂が避けられないとの見方が広がっている。

つまり、中ロという2つの独裁体制の大国が民主主義体制下の土地を占拠する恐れがあり、イランは核拡散防止条約(NPT)を破って核兵器を開発すると脅しをかけている。こうした大胆不敵な行為を阻止するために米国はどこまで関与するつもりなのか。

バイデン米大統領の発言は、強硬姿勢を感じさせることもある。7日のプーチン氏とのオンライン形式での首脳協議では、ロシアがウクライナに新たに攻撃を仕掛ければ重大な結果を招くことになると警告している。米国の対イラン制裁は維持し、10月には米国は台湾を防衛する「責任」があるとも発言した。

もっとも、バイデン氏の側近は米国の政策に変更はないと強調している。米国はこれまで、中国が台湾に侵攻した場合、中国軍を撃退するために米軍を派遣するかどうかについて明言することを避けてきた。中国の侵攻を挑発するような台湾の行為を誘発するのを防ぐのが狙いだった。

中国はバイデン氏の発言が失言だったのか、それとも、強硬な立場をしたたかに示唆しただけだったのかを測りかねている。米下院は12月7日、国防予算の大幅な増額を認めた。バイデン氏は9~10日に、「民主主義サミット」を開催し、ルールを尊重する民主主義陣営の国々に結束を呼びかけた。

ハードパワー行使に及び腰

だが、米国は世界の多くの地域でハードパワーを行使することに二の足を踏んでいる。ワシントンではタカ派もハト派も実質的に「自制」を訴えている。ハト派は国際秩序を維持するために力を行使しようとすれば、米国は必然的に海外で無用な負け戦に巻き込まれると主張する。一方のタカ派は中国に対抗するという唯一重要な課題に専念すべきだと訴える。

いずれにせよ世界各地で、米軍は撤収を余儀なくされている。その結果、世界は不安定化し、紛争のリスクが高まっている。バイデン氏がアフガニスタン撤収で大失態を演じたことで、米国は友好国を守り、敵国を抑止する意欲がないのではないかという疑念が高まっている。多くの国が米国の計画立案能力に疑いを抱きはじめている。

バイデン氏が米国による「核の傘」について明言しないため、同盟国の間では米国の核兵器による保護に対する信頼がぐらついている。バイデン氏はトランプ前大統領のように同盟国を侮辱することはないものの、相談して意見を求めないことも多く、長い間米国の力の源泉となってきた信頼の絆にほころびが出ている。

そのような大統領を選んだ米国の風潮も軽視できない。米国はもはや1990年代のような自信に満ちあふれた覇権国ではない。米国に比肩する国はまだないとはいえ、同国の相対的な力は確実に低下している。イラクとアフガニスタンでの苦い経験を経て、米有権者は海外の紛争に米軍を派遣することに慎重になっている。

米国の党派対立は、かつては瀬戸際で踏みとどまっていたが、今では多くの面で米国の政策をまひさせている。議会に承認されず依然空席のままになっている大使級ポストの数は90を超える。米国はアジアでの軍事連携を補完できるはずの経済連携協定への参加も拒んでいる。昨年の大統領選の混乱やマスク着用などを巡る論争など、政治騒動が続くなかで、米国は分断を深め、国際社会で継続的な決意を示すことができなくなっている。

世界に積極的に関与するかつての米国の復活を期待することは難しい。それどころか、2024年にはトランプ氏が再選される可能性がある。世界でリベラルな秩序を維持するには、主要国は、米国の存在感が低下する状況に備えつつも、米国にできる限り関与を促しながら、自らの役割を果たさなくてはならない。

防衛力強化へ各国が努力を

既に動きはみられる。日本とオーストラリアは台湾防衛を支援する姿勢を示している。英国は米国と協力して、オーストラリア向けに原子力潜水艦の推進技術の供与に乗り出している。今月発足したドイツの新政権はロシアに対する強硬姿勢を強めることを示唆している。

各国は米国の存在が小さくなった世界にこれまで以上に適応していく必要がある。民主主義国、特に欧州は国防関連費を増額すべきだ。台湾やウクライナのように侵攻されるリスクがある国・地域は、大国との戦いに備えて防衛力を強化するなど、自国が簡単にのみ込まれないようにすべきだ。各国が備えを強化すればするほど、敵国に攻撃される可能性は低くなる。

ルールに基づく秩序を支持する国々は情報共有を積極的に進める必要がある。日本と韓国の間のような、不幸な過去を巡る不毛な争いは水に流すべきだ。各国は公式にも非公式にも同盟を深化させ、拡大すべきだ。インドは利己主義を捨てて、非同盟主義を転換し、オーストラリア、日本、米国との4カ国の枠組み「クアッド」にしっかりと踏み込むべきだ。

北大西洋条約機構(NATO)はウクライナの加盟を承認できない。ロシアは既にウクライナの領土を占領しているが、NATOの条約では加盟国が攻撃を受けた場合には全加盟国に対する攻撃とみなすと明記されているためだ。それでも、NATO加盟各国は、武器と資金の供与や軍事訓練といった協力を通じてウクライナの自主防衛力強化に手を貸すことは可能だ。
リベラルな秩序が崩壊すれば、米国の同盟国は多大な苦難に見舞われるだろう。そうなれば、米国民自身もどれほどその秩序から恩恵を受けていたかに気付き、衝撃を受けるかもしれない。だが、全てが失われるわけではない。民主主義国が一丸となって取り組めば、少なくともルールに基づく制度の一部は保たれ、不幸な弱肉強食の時代に逆戻りすることは防げる。これは、世界で最も重要で難しい課題の一つと言える。

(c) 2021 The Economist Newspaper Limited. December 11, 2021 All rights reserved.

【関連記事】
・アジア「自由・民主」の守護者に 外交・安保政策の針路
・真珠湾攻撃80年 中国が促す日米同盟の深化
・真珠湾攻撃から80年 日米識者に聞く教訓
・中国「抑止」へ軸足移す米政権 ライオネル・バーバー氏
・米、核戦力も対中優位性低下 日本への「核の傘」に影 』