大平原が生むトルネードの脅威 米竜巻、死者100人超か

大平原が生むトルネードの脅威 米竜巻、死者100人超か
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『米国で10日夜から11日にかけて数十の竜巻が発生し、複数の州にまたがって甚大な被害をもたらした。米中部に広がる大平原では寒気と暖気が遮るものなく衝突するため、積乱雲が発達しやすい。強大な「トルネード」による被害が毎年のように起きており、深刻な脅威となっている。

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「クアッド・ステート・トルネード」。アーカンソー、ミズーリ、テネシー、ケンタッキーの4州を中心に大きな被害をもたらした今回の竜巻を、米メディアはこう表現している。被災地では家屋や倉庫が倒壊し、列車の脱線も発生。犠牲者は100人を超える可能性があるとみられている。

竜巻の強さを示す指標「改良藤田スケール」(EF0~5)では最大のEF5級だとする見方もある。米国立気象局が正式にEF5と評価すれば、2013年5月にオクラホマ州で250人以上の死傷者を出した竜巻以来となる。

今回の竜巻は、温帯低気圧が米国の中部から北東へ移動し、寒冷前線の前面にスーパーセルと呼ばれる巨大な積乱雲が発生したことで起きた。米南部では記録的な高温が続いており、ここに低気圧に伴う寒気がぶつかって大気が不安定になったとみられる。

一般的な積乱雲は1時間程度で弱体化するのに対してスーパーセルは数時間にわたって継続するため、竜巻が複数発生したり強大になったりしやすい。

今回被害が出た米中部は、竜巻による被害が毎年のように発生することから「竜巻街道」と呼ばれている。西部のロッキー山脈と東部のアパラチア山脈との間に大平原が広がり、寒気と暖気が遮るものなく衝突することで巨大な積乱雲を生むことが多い。

米海洋大気局(NOAA)によると、米国で20年に発生した竜巻は1075個(速報値)。最も古い公式の記録が残る1950年は201個だったが、90年代にドップラーレーダーが導入されたことで観測数が劇的に増えた。

米国では竜巻の強さを示す指標として、藤田哲也シカゴ大教授が考案した「藤田スケール」をベースにした改良藤田スケールを2007年から採用している。

11年5月にミズーリ州で発生した竜巻は単一の竜巻として最大規模の被害をもたらし「あり得ないほどの激甚な被害」を示すEF5と評価された。犠牲者は158人に上った。

過去に遡ると、1925年3月にミズーリ、イリノイ、インディアナの3州にまたがり約350キロ移動した竜巻があり、 695人が死亡したとの記録が残っている。

日本でも、台風シーズンの7~10月に竜巻が発生することは多いが、米国のような規模で被害をもたらすことは少ない。大陸の日本海沿岸の山々や日本アルプスなどが寒気と暖気の衝突を緩和するためだ。

気象庁によると、国内の竜巻は平均で年間25個程度。観測が始まった1961年以降で人的被害が最も大きかったのは2006年11月に北海道佐呂間町を襲った竜巻で、工事現場のプレハブ小屋が吹き飛ばされて工事関係者9人が死亡した。

竜巻の発生と地球温暖化による気候変動との間に関連性があるのではないかとの見方もあるが、竜巻のメカニズムの複雑さや、局地的で短時間な現象であることなどからまだ明確なつながりは示されていない。

(矢野摂士、都市問題エディター 浅沼直樹)』