米国が迫る結束と分断 初の民主主義サミット

米国が迫る結束と分断 初の民主主義サミット
ワシントン支局長 菅野幹雄
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN09E6T0Z01C21A2000000/

『バイデン米大統領が約110の国・地域を招いてオンライン形式で開いた「民主主義サミット」が10日閉幕する。自由や人権といった価値観を重視する勢力の結束を迫る初の試みは、中国やロシアなどの強権主義との新たな分断を世界に広げる火種でもある。新型コロナウイルスや経済危機の余波の中、民主主義の再出発は険しい道だ。

「誤った方向に向かっている」。大統領選挙の公約にサミット構想を掲げていたバイデン氏は9日の冒頭演説で「民主主義は偶然の産物ではない。各世代で再出発が必要だ」と警告した。

所得格差の拡大に新型コロナの災禍が加わり、問題を解決できない政治や民主主義への市民の不信は増大した。交流サイト(SNS)の定着で偽情報が拡散し、怒りが社会を動かす。意見の違いを理解し、公正に選んだリーダーのもとに結束する民主主義の土台は傷んだ。

欧州連合(EU)や日本、そして中国からの脅しに直面する台湾といった民主勢力を結集したサミットは、1年後の次回会合で報道の自由や反腐敗、人権侵害の抑止などに向けた各自の行動と進展を報告する場となる。「指導者の決意表明だけでなく、(行動の)工程そのものになる」。米政府高官はサミットをそう位置付ける。

だが、民主主義の退潮は、極めて深刻だ。

スウェーデンの民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)は11月の報告書で米国を「民主主義の後退国」に格下げした。過去5年で強権主義に陥ったのは約20カ国と民主主義に進んだ国の約3倍に及ぶ。「強権主義の高波が未曽有の大嵐の脅威となり、民主主義の存続が危ぶまれている」とIDEAは懸念を示す。

優位の揺らぎは、ワクチン外交に端的に表れた。6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)は途上国に1年で10億回分のワクチンを提供する方針に合意したが、変異ウイルスの出現で自国での追加接種分の確保に追われ、約束には遠く及ばない。

隙を突くのは中国だ。習近平(シー・ジンピン)国家主席は11月、ワクチン接種率が4%程度のアフリカに1国で10億回分のワクチン提供を約束した。開かれた選挙も与野党対立もない強権勢力が、素早い動きで立場の弱い国々を自陣に引き寄せようとしている。

同盟国や友好国を軸に民主主義の価値を再確認し、有志連合の力で世界の流れを押し戻そうとするバイデン大統領の試み。それは別の形で陣営争いを引き起こし、世界の分断を深めるリスクも抱える。

「明らかな冷戦思考の産物だ。イデオロギーの対立をかきたて、新たな分断線を築くことになる」。中国とロシアの駐米大使はこんな共同寄稿を米外交誌に掲載した。「民主主義は一握りの国やグループの特権ではなく、全世界の人々に共通の権利だ」とバイデン氏の姿勢を非難する。

サミットに招待された勢力にも温度差はある。インドネシアのジョコ大統領は非公開の首脳協議で「民主主義は世界共通の価値だが、多様な国際社会での独特な政治志向を損ねるべきではない」と主張したと地元紙は伝える。中国との距離感もあり、米国流の発想や利害を押しつけるようなら、民主主義勢力の連携にもヒビが入る。

米国が世界の民主主義を代表できるのか。そんな疑念も世界には根強い。2020年11月の大統領選挙でバイデン氏に敗れながら「不正があった」と言い続けるトランプ前大統領の主張を、共和党支持者の大半がまだ信じている。暴徒が米連邦議会に乱入して選挙結果の確定を阻止しようとした今年1月6日の事件の記憶はなお鮮明だ。

指導力に陰りのみられるバイデン氏が仕掛けた民主主義再建の賭けは、世界の混沌を一段と広げるきっかけにもなりかねない。(ワシントン支局長 菅野幹雄)』