「人口減で貯蓄過剰」ケインズの予言 投資促す政策に解

「人口減で貯蓄過剰」ケインズの予言 投資促す政策に解
人口と世界 新常識の足音(5)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB153ER0V11C21A1000000/

『「ハイパー(超)ケインズ主義」。米投資家ザカリー・カラベル氏は新型コロナウイルス危機が深まる2020年4月、各国の財政政策のフル稼働ぶりをこう評した。

「世界経済の大部分は政府部門のバランスシートに移る。戦時であれ平時であれ、この規模の支出は歴史上、例がない」

【前回記事】「おひとりさま」標準に 世界で3割増、官民で孤独克服

人口巡り財政の役割自問

人口減が迫るなか公的債務膨張を伴う財政拡張はどこまで許されるか。短期の需要不足には公共投資を訴えたケインズが、人口減に迷い、長期では単なる財政拡大と異なる解を模索したことはあまり知られていない。

絶海の孤島に集まる海鳥の群れ。卵がある量を超えると、絶壁の巣から海にこぼれ落ちる――。ケインズは1922年の論文でこの孤島を「マルサス島」と呼んだ。

経済学者マルサスは18世紀末の「人口論」で人口増は食糧難と貧困を招くと唱えた。20世紀にかけ英国の繁栄に陰りが出るなかケインズは人口増を「悪魔」と呼び恐れた。

だが1930年代の大不況を経て、ケインズの人口観は一変する。37年の講演では、人口減が企業の投資意欲を縮こまらせると喝破した。

ケインズの処方箋は2つ。貯蓄を消費に回す所得分配の公平化と、投資を引き出しやすくする利子率の低下だ。

所得の再分配は再び脚光を浴びているが、日本の政策論議はバラマキ色が強い。米マッキンゼーによると、日本はデジタル化を進めれば2030年に最大78兆円、国内総生産(GDP)16%分を押し上げる可能性があるが、現状では「いかに需要を呼び起こし投資増へとつなげるか」というケインズ流からほど遠い。

米欧は先を行く。やみくもに有効需要を生み出す不況対策から、長期的な成長のタネをまく財政政策にシフトした。米国はインフラ投資の促進や環境対策・格差是正に向けた法律が成立または審議中だ。欧州も復興基金を通じてデジタル化や環境対策を促し、潜在成長率の引き上げをうたう。
企業が将来展望暗くし投資縮小

人口減時代の経済理論は、再び経済学界で注目を集める。経済学者チャールズ・グッドハート氏は、世界的に働き手が減るなか、労働者ほどには消費者が減らない状況がモノ不足や貯蓄減を生み、インフレや金利上昇につながると主張。これに対してケインズと同じ論点で「将来の人口減は現時点の需要減を生む」といった反論も呼ぶ。

人口減が企業の将来展望を暗くして投資が不足し、貯蓄はむしろ過剰になり縮小均衡に陥るからだ。ケインズの宿題をどう解くか。
エストニア発のベンチャー企業、スターシップテクノロジーズがロボット配達サービスを手がける=ロイター

人口130万人の北欧の小国エストニア。電子政府で知られるが、世界から投資マネーを集める「起業大国」でもある。ユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)を7社輩出し、人口あたりで世界一を記録した。法人税優遇や、法人設立が「15分ですむ」(政府の支援組織スタートアップ・エストニア)という起業のしやすさで人材やカネを引き込む。

アニマルスピリッツ(血気)が鈍れば企業は死滅するとケインズは説いた。規制緩和で起業や技術革新を促し、生産性を高めることが人口減社会の道しるべとなる。

=この項おわり

【「人口と世界」第2部・新常識の足音 記事一覧】
(1)移民なき時代、世界で人材争奪 「低賃金で来ず」常識に
(2)公的年金限界、万国の悩み 若者急減で老後資金は自助に
(3)AI、脅威論越えヒトと共生 9700万人雇用生み成長率2倍
(4)「おひとりさま」標準に 世界で3割増、官民で孤独克服

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石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員
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別の視点

連載企画「人口と世界」の第2部「新常識の足音」は今回で終了。

日本経済新聞は過去にも人口減少に関する大型連載を何度も掲載しています。

過去と今回の大きな違いは、今回の連載では人口減を確約された未来と受け止めていることです。これまでは「どうすれば人口減に歯止めをかけられるか」に重点を置いていましたが、もはや打つ手はなく、人口減社会に対応するための新たな常識を今連載は取り上げました。

ただ、悩ましいのは世界全体ではまだしばらく人口増加が続くこと。先進諸国の人口縮小と、アフリカなど発展途上地域の人口爆発。これらをどうハンドリングするのか。世界の安定を維持するための重要な課題です。』