[FT]水不足のイラン 政府を突き上げる古都の農民

[FT]水不足のイラン 政府を突き上げる古都の農民
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 ※ イランで、「水争い」が勃発だ…。

 ※ これも、気候変動の影響なのか…。

『作物を育てる水を要求する農民、顔から血を流すデモ参加者、解散しろと叫ぶ武装警察――。この数週間、イラン中部にある古都イスファハンの中心に位置する干上がった川が、同国史上最大の環境デモの舞台となっている。

水不足への対応としてダムからの放流を求める農民らのデモ(11月19日、イスファハン)=AP

武装警官はこの週末、水が完全に干上がったザーヤンデルード川でテントを張っていた数千人のデモ隊を排除したのを受けてイスファハンの街中をパトロールした。「独裁者に死を」「我々の警察は我々の不名誉」といったスローガンを叫んでいた数十人のデモ参加者が逮捕されたと地元メディアは報じた。

乾燥地帯と半乾燥地帯からなるイランは数十年続く干ばつと急激な水資源の枯渇に苦しめられており、人口の増加によって問題は一段と悪化している。イスファハン近郊の農家が特に大きな打撃を受けており、政府が都市と産業への水供給を優先したために自分たちが犠牲を強いられたと訴えている。

イスファハンのベテラン実業家、マスード・サラミ氏は「農民は今は川に流れ込む水がないことを知っているが、このデモは当局に短期的、長期的な解決策を考えるよう迫る警告だ」と話す。

ダムの貯水量は14%に

イスファハンの抗議は経済制裁で大きな打撃を受けているイランの体制を揺るがしている一連のデモの一つで、同国が直面する環境問題の大きさを浮き彫りにしている。抗議運動が拡大すると、ライシ大統領はザーヤンデルード川の再生を検証する委員会の設置を命じた。モフベル第1副大統領は「いかなる手段、あらゆる方法」を駆使してでも水問題を解決すると語った。メフラビアン・エネルギー相は先週、イスファハンの農民に謝罪し、解決策を約束した。

イスファハンは極限の状況にある。

ザーヤンデルード川流域を研究しているヘシュマトラ・エンテハビ氏は、川は過去14カ月間でほぼ干上がったと話す。これまでに2度、それぞれ10日間にわたってダムから水が川に放流された。

地元当局は、通常は雨水と近くの山から流れ込む水で満たされているザーヤンデルードダムの貯水量が今は14%しかないと話す。ザーヤンデルード川流域の500万人の住民のうち、およそ200万人が深刻な影響を受けている。多くの農民が玉ねぎやジャガイモ、メロンのほか、飼料用トウモロコシ、ムラサキウマゴヤシといった作物を育てて生計を立てている。

イスファハンの環境活動家、ファテメ・カゼミ氏は「イスファハンの抗議デモには政治的な動機が一切ないが、農民は水がどこへ流れていったかについて細かい情報をたくさん持っている」と述べ、水の供給で地元の産業が優先されたことを示唆する。

農民の要求は正当だとエンテハビ氏は言う。「政府はどんな手段を使ってもザーヤンデルード川を復活させなければならないが、その日が来るまでは農家の損失に対して妥当な補償金を払わなければならない」と同氏は主張する。「衝突のリスクを伴う街頭デモに繰り出す代わりに農民は干上がった川を選び、イランの人々と世界に対して川が本当に乾ききっていることを見せた」

イスファハンのデモは今後エスカレートしかねない。その兆候として、ザーヤンデルード川の水源がある近隣のチャハルマハル・バフティアリ州でも数千人の住民が街頭に繰り出した。イスファハンの人々をなだめるために自分たちの水が回されるのを恐れたためだ。イスファハンの農民は南に位置するヤズド市につながる送水管を一部破壊した。

農民の支持を失う可能性

水を巡る危機はイランの経済危機で一段と悪化した。核合意が崩壊して米国から厳しい制裁を科され、イラン政府は長期的な開発計画の財源をまかなうのに苦労している。欧米の技術を手に入れることもできず、伝統的な灌漑(かんがい)システムを改良し、水をあまり必要としない作物を探すために数百億ドルの資金を必要としている。

10月末から英グラスゴーで開催された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、イランは制裁が解除されれば温暖化ガスの排出削減に取り組むと表明した。イラン環境省のトップを務めるサラジェグヘフ副大統領は会議で「国際社会から金銭的、技術的な支援を一切受けることができないのなら、イランはどうやって(温暖化対策の国際枠組みである)パリ協定での約束を果たすのか」と問いかけた。

イランの環境活動家もおおむね、これに同意する。「政府に計画を提案するたびに必ず行き詰まる。提案に対して政府は、国は制裁下にあると返答してくるからだ」。テヘランの有力活動家であるモハマド・ダルビッシュ氏は「近い将来、多くの人が住まいを追われるだろう。彼らはどこへ行けばいいのか。これは8500万人の人口を抱えるイランの問題にとどまらない。全世界に影響を与える」と語る。

今のところ、イスファハンは静かだ。ここに暮らす農民がどこまでやる覚悟なのか、はっきりしない。抗議デモの動画が何本か一気に拡散した。ある動画で高齢の農民が「(人々を殴ったのは)暴徒ではない。やったのは警察だ」と語っている。

改革派アナリストのアッバス・アブディ氏は、大規模な抗議デモがあるたびに体制は支持基盤を失うと指摘する。今は農民の支持を失う恐れがある状況だが「政界では誰も心配していないようだ」と語る。

川からデモ隊が一掃される前、参加者の動画がSNS(交流サイト)上を飛び交った。ある中年の農民が先週、動画で「当局はイスファハンで戦端が開かれたことを知るべきだ」と語った。「警告しておくが、ザーヤンデルード川の水を我々に返さなければ、おまえたちは歴史のごみ箱に入ることになる」

By Najmeh Bozorgmehr

(2021年11月30日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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