習指導部、情報統制を優先 中国・滴滴が米上場廃止へ

習指導部、情報統制を優先 中国・滴滴が米上場廃止へ
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『【北京=多部田俊輔】中国の配車アプリ最大手、滴滴出行(ディディ)は3日、米国上場を廃止すると発表した。来年の共産党大会を控え、習近平(シー・ジンピン)指導部は国家安全上の理由から同社に圧力をかけており、6月末の上場から異例の短期間での廃止となる。海外資金調達をテコにした技術革新よりも、国内の統制強化を優先する習指導部の姿勢が一段と鮮明になってきた。

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滴滴は3日、中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」の公式アカウントで「慎重な検討の結果、ニューヨーク証券取引所(NYSE)からの上場廃止手続きの開始と、香港での上場に向けた準備に入った」と発表した。滴滴は6月末にNYSEに上場したが、米国への情報流出の懸念を持つ中国当局が国家安全上の理由で同社を調査し、アプリの新規ダウンロードの停止を命令した。

「上場先を米国から香港に切り替えることで、米当局からの要求に基づく中国国内からの情報流出の恐れはほぼなくなる」。中国の地方政府幹部は指摘する。中国の経済情勢や個人情報にかかわるデータの流出懸念が念頭にある。

中国企業の米国上場が難しくなったとしてもマネーの流れが完全に途絶えるとの見方は少ない。「外国の投資家の資金回収を円滑にサポートするためには、香港上場への変更が落としどころだった」。北京の金融関係者は打ち明ける。パソコン大手のレノボ・グループや騰訊控股(テンセント)なども香港に上場し、海外投資家の資金を受け入れている実績がある。

習指導部が重視するのは国家や企業の競争力を左右するデータの統制だ。2017年に施行したインターネット安全法に続き、今年9月にはデータ安全法、11月には個人情報保護法を相次ぎ施行。3本の法律で中国国内の重要データの海外流出を防ぐ体制を固めた。

中国はもともと「ネットの長城」と呼ばれるネット監視システムを構築。10年までにグーグルやフェイスブックなどの米国企業の多くを排除し、アリババやテンセントなど中国の民間企業を育成してきた。新型コロナウイルス対策で監視カメラ最大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)なども業容を拡大している。

習指導部は、米中で分断された自国のネット空間で中国企業を伸ばすことに自信を持つ。政府系機関によると、中国のデジタル経済の規模を25年に1000兆円規模まで引き上げる計画だ。20年比で5割以上の成長を見込んでおり、その大部分は中国企業が担う構想を描く。

習氏は指導部メンバーを刷新する5年に1度の党大会を来年に控え、異例の3期目に向けて足場固めを急ぐ。鄧小平時代の先に豊かになれるものを富ませる「先富論」から、格差縮小に向けて分配を重視する「共同富裕(共に豊かになる)」に路線転換した。

共同富裕は、巨額の収益を上げるネット大手に対して利益を還元させる圧力となる。これまでに多くのネット企業や経営者が貧困支援や「脱炭素」などの取り組みをアピール。滴滴も河南省や山西省などの被災地に寄付をして当局の意向に沿う姿勢を示していた。

アリババは約1年前に傘下の金融会社アント・グループの上場が延期になり、本業も勢いを失って1年間で時価総額の半分が吹き飛んだ。滴滴の時価総額も上場時の半分程度で推移し、政府系機関の調査でも中国の上場ネット企業の9月末時点の時価総額は3カ月前に比べ3割近く減った。

中国では巨大ネット企業などのプラットフォーマーに「データ税」を導入するとの観測も浮上している。IT(情報技術)に詳しい研究者は「海外とのつながりが減る傾向が続けば、ネット企業の長期的な技術進歩を阻害する恐れもある」と指摘する。』