オミクロン型の感染拡大、世界経済にまた暗雲回復減速+物価上昇、迫る「スタグフレーション」の足音

オミクロン型の感染拡大、世界経済にまた暗雲
回復減速+物価上昇、迫る「スタグフレーション」の足音
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR02F920S1A201C2000000/

『新型コロナウイルスの新たな変異型「オミクロン型」が報告されてからおよそ1週間。脱コロナに向けた世界経済の再生にブレーキがかかる懸念が生じている。オミクロン型の重症化比率やワクチン効果などがはっきりしないなか、各国による渡航制限の強化などが経済の下押し要因となる。しかも昨今の急激なインフレが政府や中銀の政策決定をさらに難しくしている。

「リスクと不確定要素は大きく、回復が脅かされる」。経済協力開発機構(OECD)のコールマン事務総長は1日の経済見通しの発表で、オミクロン型の出現をこう表現した。

OECDの同日の発表では、21年の世界経済の成長率を5.6%とし、9月の予測から0.1ポイントしか下げなかった。22年は4.5%として据え置いた。ただ、このシナリオにはオミクロン型の影響を十分含めていない。

成長率下押しのリスク

各国が導入し始めている渡航禁止措置などを考えると、成長率が下押しされるリスクは大きい。英国は夏以降、感染者が1日3~4万人で推移しても規制を再導入しなかったが、オミクロン型の発生で国境管理を一気に厳しくした。南アフリカなど10カ国からの入国者の隔離を強化し、他の地域からの渡航者にもPCR検査で陰性結果が出るまでの自己隔離を求めた。イスラエルや日本は外国人の入国禁止といった一段と厳しい措置を導入している。
こうした措置は、かき入れ時のクリスマスシーズンを迎える航空や旅行、息を吹き返しつつあった飲食やレジャー産業への大きな打撃になる。さらに感染の拡大で各国がロックダウン(都市封鎖)などの国内の行動規制にまで踏み切るようなら、経済への影響はさらに大きくなる。

特に欧州ではオミクロン型の報告の前から感染の波が襲っていた。ドイツでは11月下旬に1日7万人を超すなど過去最高の感染者数を記録し、12月2日にはワクチン未接種者の店舗や飲食店の立ち入りを禁じる方針を決めた。オーストリアやスロバキアではすでに必需品以外を扱う店の営業を禁じるロックダウンに入るなど、欧州各国で行動規制は広がっている。こうした動きがさらに広がれば、休業者や事業者への支援が必要になるが、英国などは休業者の給与補塡といった非常時の支援策を「手じまい」したばかりだ。
金融政策のかじ取り難しく

各国の金融政策のかじ取りは一段と難しい。急な経済再開に伴う需要増や賃金上昇で米国では10月の消費者物価指数が前年同月比で6.2%上昇し、インフレ退治がバイデン政権の緊急課題となりつつある。物価上昇はユーロ圏も4.9%(11月)、英国も4.2%と軒並み高く、悩みの種となっている。

12月14~15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では11月に始めた量的緩和の縮小(テーパリング)の加速について議論される見通し。米国以外でも、12月は欧州中央銀行(ECB)が緊急買い取り制度の存廃、イングランド銀行(英中銀)が利上げの是非を議論する予定だ。ただ、オミクロン型による経済への影響を見極めつつ、政策を転換する判断は難易度が高い。

大和総研の菅野泰夫ロンドンリサーチセンター長は「オミクロン型の発生でスタグフレーション(景気後退と物価上昇の同時発生)のリスクが高まった」と分析する。「各国での渡航制限や、感染者・接触者に隔離を求める規制の強化などで労働者が減り、供給制約が深刻化する」ことで、各国中銀がインフレ退治に動いても「物価上昇はおさまらず、景気も低迷する可能性がある」との見立てだ。

オミクロン型の実態について経済の観点で最も重要なのは、既存のワクチンが重症化を抑えるかどうか。重症者で病院のベッドが埋まってしまうと、政府は経済を犠牲にしても、国内で行動規制を導入せざるを得なくなる。

主要7カ国(G7)は11月29日に緊急の保健相会合を開き、数週間情報交換したうえで12月中に次回会合を開くことを決めた。それまでにオミクロン型の実態がどこまで解明され、感染はどこまで広がるのか。各国政府・中銀、市場関係者は固唾をのんで見守っている。
(ロンドン=中島裕介)』