史上3回目の「歴史決議」採択 習近平が正した中国の〝錯誤〟

史上3回目の「歴史決議」採択 習近平が正した中国の〝錯誤〟
高口康太 (ジャーナリスト)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25033

 ※ これは、一読しといた方がいい…。

 ※ 指導部が、何を恐れ、どういうことを危惧して、3回目の「歴史決議」を出したのか…、について語っている…。

 ※ キーワードは、「錯誤(中国語では、”あやまち”という意味らしい)」。指導部が、何を「錯誤(あやまち)」と認識して、これを「正そう」としているのか…、という観点から分析している…。

 ※ 『拝金主義・享楽主義・極端な個人主義・歴史ニヒリズムなどの誤った思潮が時折現れ、ネットでは様々な声が飛び交い、世論が混乱をきわめ、一部の指導幹部は政治的立場があいまいで、闘争精神を欠き、人々の思想や世論環境に深刻な影響をもたらした。

 イデオロギー分野における多くの方向性・戦略性にかかわる問題について解決策を講じることにより、イデオロギー分野におけるマルクス主義の指導的地位という根本的制度を確立・堅持し、イデオロギー活動の責任制を強化し、全党を挙げて宣伝思想工作に着手し、取り組みに対してしっかりと責任を持ち、責任を負い、責任を果たし、決然と指導・管理を強化し、果敢にそれに立ち向かい、さまざまな誤った観点に旗幟鮮明に反対し、食い止めた。』…。ここが、ポイントか…。

 ※ 唯物史観と、マルクス主義こそが、「共産党支配の正統性(レディティマシー)」を支える根幹だ…。

 ※ 鄧小平氏は、そこをやや”後退”させて、「物質的な豊かさ」を「人民に与える方向」に、舵を切った…。

 ※ しかし、その結果「拝金主義・享楽主義・極端な個人主義・歴史ニヒリズムなどの誤った思潮」が現れ、もはや「見過ごすことができない」程度に至っている…、という認識なんだろう…。

 ※ もう、「人民に豊かさを享受させる方向性」は、限界に近づきつつある…、ということも自認しているんだろう…。

『中国共産党は2021年11月11日、同党史上3回目となる「歴史決議」を採択した。歴史決議を行った指導者は毛沢東、鄧小平に次いで習近平総書記が3人目となる。

 「来年秋には新たな総書記が選出される党大会が開催されるが、その前に習近平総書記は権威を盤石のものとした……」という報道を目にした人は多いのではないか。なにせ中国共産党100年の歴史において、わずかに3回だけ。しかも、過去2回の決議は中国共産党の路線変更を決定づけた重要な転換点である。ゆえにビッグニュースであることに間違いはない。

 しかし、上述のような報道からは、この決議がいったいどういう内容で、どんな意味を持つのかについては腹オチすることは難しい。
(新華社/アフロ)

党内に「反対勢力なし」を示す

 そもそも「権威を盤石のものとした」と言われても、「あれ、習近平ってもう圧倒的な権力を握っているのでは? まだ盤石にする必要があるのか? 誰と争っているのか? 」という素朴な疑問が浮かんでくる。実のところ、この問いに明確に答えられる人はいないのではないか。

 現時点で言えるのは、習近平総書記は来年秋の党大会で2期目の任期が終了する。かの鄧小平は権力が特定の個人に過度に集中することを防ぎ、スムーズな世代交代を実現するために、指導者を2期10年で交代するというレールを引いた。習近平はこの原則に反し、3期目に挑戦する可能性が濃厚だ。現時点では習近平を引きずり下ろそうという対抗勢力の姿は見えず障害はないように見えるが、さらなる支持固め、権威強化を狙って史上3回目の歴史決議採択につながったと言える。

 11月16日、中国国営通信社・新華社は歴史決議の全文とともに、起草過程についての説明を発表している。今年3月から取り組みが始まり、中国共産党の各支部各部局、引退幹部へのヒアリングと同意を経て作成されたことが強調されており、決議採択が習近平総書記への全党の支持を示すものであることを説明している。

 こうした状況から見ると、歴史決議の内容そのものよりも、史上3回目の決議を出せたという事実、それこそが中国共産党内部に反対勢力はなく、習近平総書記の権威を示すという評価になるのだろう。

歴史決議と「あやまち」の深い関係

 その意味では歴史決議の内容そのものの重要性は低いが、それでも3万6000字あまりもの長文を読み解いていくと興味深い点が浮かび上がる。

 筆者が注目したキーワードは「錯誤」(中国で「あやまち」の意)だ。』

『そもそも、過去の歴史決議において、「錯誤」とはもっとも重要なワードであった。1945年の第1回目の歴史決議、「若干の歴史問題に関する決議」では約2万8000字の文章中に123回にわたり登場する。

 第1回の歴史決議では周恩来、陳毅、彭徳懐など幹部のあやまちが次から次へと指弾される。特に一次は党総書記も務めた王明ら左派を徹底的に批判し、「党が一時期に犯した左右系統のあやまちは24年間にわたる我が党領導下における中国革命事業の雄大なる発展と偉大なる成績、豊富な経験からすれば一部の現象に過ぎない」「今日にいたり、全党は毛沢東同志の路線の正確性を空前の一致で認識した」と総括している。

 81年の第2回目の歴史決議「建国以来の党の若干の歴史問題についての決議」では、約3万4000字の中に95回にわたり「錯誤」が登場している。批判の対象となったのは主に急進冒険主義的な文化大革命により中国の経済発展を大きく遅らせたこと、その文化大革命を生み出した毛沢東に対する過剰な個人崇拝と権力集中が反省され、「我が国を現代化させた、高度民主的かつ高度文明的な社会主義強国へと徐々に発展させるために努力奮闘しよう」とのスローガンで締めくくられている。
大半の「あやまち」が第1回と2回と同じ問題

 一方、今回発表された第3回目の歴史決議「党の100年奮闘の重要な成果と歴史的経験に関する中共中央の決議」には、わずか14回しか「あやまち」という言葉が出てこない。しかも、その大半は第1回、第2回歴史決議と同じ問題に対する言及である。過去の路線を修正する意味合いがあった、第1回、第2回の歴史決議とは性格が異なることはここからも明らかだ。

 それでも数少ない「錯誤」を拾い上げることによって、習近平体制が中国共産党のどのような問題を修復したのかという論理を読み解くことができる。

 特に重要なのは第4部分にあたる「中国の特色ある社会主義の新時代を切り開く」だ。習近平総書記が選出された、2012年の第18回党大会以後に、中国共産党がどのような成果を挙げたのかをまとめたパートである。

 ここでは下記の13分野にわたり、成果がまとめられている。

1:中国共産党による領導の堅持
2:党の紀律強化
3:経済建設の推進
4:改革開放の深化
5:中国式政治の堅持
*憲政、政権交代、三権分立など西側由来のイデオロギーの浸透を防いだ
6:法治の強化
7:文化建設
8:社会建設
*貧困や新型コロナウイルス対策など
9:環境対策
10:軍事力強化
11:安全保障の強化
12:台湾や香港の統一促進
13:外交の強化

 言ってしまえば、あらゆる分野で成果をあげたということになるのだが、「錯誤」、すなわちそれまでは問題があったという前提がほとんどないため、今一つ盛り上がりに欠ける。
唯一「錯誤」が見られた部分とは?

 ところがこの13分野のうち、唯一、文化建設にだけは、「錯誤」が登場する。新華社発表の日本語版に基づき、該当箇所を引用しよう。

 拝金主義・享楽主義・極端な個人主義・歴史ニヒリズムなどの誤った思潮が時折現れ、ネットでは様々な声が飛び交い、世論が混乱をきわめ、一部の指導幹部は政治的立場があいまいで、闘争精神を欠き、人々の思想や世論環境に深刻な影響をもたらした。

 イデオロギー分野における多くの方向性・戦略性にかかわる問題について解決策を講じることにより、イデオロギー分野におけるマルクス主義の指導的地位という根本的制度を確立・堅持し、イデオロギー活動の責任制を強化し、全党を挙げて宣伝思想工作に着手し、取り組みに対してしっかりと責任を持ち、責任を負い、責任を果たし、決然と指導・管理を強化し、果敢にそれに立ち向かい、さまざまな誤った観点に旗幟鮮明に反対し、食い止めた。

 わかりづらい訳文だが、つまるところ言論、世論が乱れていた状況こそが今回の歴史決議において唯一、新たに取りあげられた「錯誤」であり、それを正したことが習近平体制にとっての重要な功績と言える。』

『清朗なく正しいネット世論サイバースペースの構築という業績

 たいした話ではないように思えるが、それは21年現在だからこそ言えることだ。10年代前後、胡錦濤体制末期においてはインターネットの発展に伴い、ソーシャルメディアやウェブメディアで現在の社会体制について苦言を呈することが流行していたほか、群体事件(デモやストライキ、抗議集会などを総称する中国語)の発生数は年10万件を超えていた。

 アラブ世界で多くの政権交代の要員となった、いわゆる「アラブの春」が起きたのは10年から12年にかけてである。当時は、インターネットに後押しされたネット世論の発展が独裁体制を転覆させるとの考えは決して奇異なものではなかった。

 こうした状況で総書記として就任したのが習近平だ。現代中国研究家の津上俊哉氏は「満塁で登板したリリーフピッチャー」という秀逸な例えで表現していたが、習近平は硬軟織り交ぜた投球術でこの危機を乗り切ったと評して間違いはない(なお、習近平のネット世論対策については拙著『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』祥伝社、2015年に詳しい)。

 歴史決議ではネット世論対策について、「党中央は、ネット世論にしっかりと対応できなければ、長期的執政がありえないと明確に指摘した。党はイデオロギー闘争における主陣地、主戦場、最前線としてのインターネットを高度に重視して、インターネットに対する指導・管理体制を整備し、法に基づいてインターネットの管理・ガバナンスを堅持し、清朗なサイバースペースを築き上げた」と総括している。

アイドルオーディション番組の規制も「功績」?

 最後に「清朗なサイバースペース」なる文言がある。この言葉につながるのは中国サイバースペース管理局(CAC)による、ネット浄化プロジェクトの「清朗行動」だ。ネットにおける醜い行動、問題構想を取り押さえるというものだが、今年は中国経済の先行きを不安視するようなウェブメディアの取り締まりといった、ちょっと硬めの内容もあるが、多くはアイドルオタクグループの争いごとを防ぐ、韓国の人気番組「プロデュース101」に類似したアイドルオーディション番組の規制、中性的な外見をした芸能人の取り締まり、ゲームや生配信などのサブカルチャーといった芸能領域に集中している。

 アイドルオタク取り締まりが習近平体制10年の成果だと言われても困惑してしまうが、この間のネット世論対策は「問題ある言論を封殺する」だけではなく、「ポジティブなネット空間、清いネット空間を作り出す」という、より主体的なアクションに変わった。娯楽も含めたネット粛清と清きムード作りも、重要な方針というわけだ。

 歴史決議は採択されたが、来年の党大会に向けて、習近平総書記は今後もさらに権威強化に向けた取り組みを続けることになるだろう。「こんなにエンタメを叩く必要あるの?」と諸外国を驚かせている文化面での対策が今後も炸裂するのではないか。』