豪が原潜配備計画、査察除外申請へ 核不拡散体制に影

豪が原潜配備計画、査察除外申請へ 核不拡散体制に影
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『オーストラリア政府が9月に決定した将来の原子力潜水艦配備方針が世界の核不拡散体制を揺らしている。同国は国際原子力機関(IAEA)に核査察などの適用除外を申請する見通しだが、周辺国は核拡散への懸念を示す。中国は核兵器転用の恐れがあると主張、原潜配備に向けた米英との協力停止を求めている。

「参加国が原潜事業を放棄すべきという結論を出すことを期待する」。ロシアの在ウィーン国際機関代表部、ミハイル・ウリヤノフ氏は11月26日のIAEA理事会で米英豪が進める原潜計画について核不拡散上の懸念があると指摘、停止を求めた。

事実上の反対を突きつけるのはロシアだけでない。10月には中国がIAEAに書簡を提出し「核物質が豪州によって核兵器製造に転用されない保証はない」と主張、IAEA全加盟国が参加できる特別委の設置を提案した。豪側は「本質的でない問題を提起し、政治化しようとする試み」と反論した。

豪州を含む約190カ国・地域が加盟する核拡散防止条約(NPT)は非核兵器保有国が核兵器を製造・保有することを禁じる。さらに非保有国が平和目的で使用する核物質を軍事転用しないよう、IAEAの査察官が保管場所や量を点検できる「保障措置」を受け入れることを義務付ける。中国は原潜の核物質には、保障措置が効果的に適用できないと指摘した。

現在、原潜を配備するのは6カ国。NPTが核兵器保有を認める米英仏中ロと、NPT非加盟で核兵器保有を宣言しているインドだ。豪州は非核兵器保有国かつNPT締約国として初めて原潜を配備する国となる可能性が高い。

豪州は9月に米英と共に安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」創設を表明した。両国の支援を受け原潜を配備し、軍拡に走る中国への抑止力を強める。原潜は動力に核兵器への転用が可能な高濃縮ウラン(HEU)を利用するとみられ、NPT体制下での管理が課題になる。

豪州は原潜配備とNPT体制の両立に向け、IAEAとの協議でNPTの根拠規定を足がかりにする方針だ。NPT締約国の非核兵器保有国は平和的に利用する核物質への査察を柱としたIAEAとの包括的保障措置協定を締結する必要がある。

同協定には核兵器に転用しないことやIAEAと取り決めを結ぶことを条件に、軍事が念頭の「非平和的」活動に使われる核物質への査察を一時停止できる規定がある。

豪原潜は、HEUを使えば就役中の燃料交換が不要だ。専門家は豪州がHEUを原子炉に密閉して米英から輸入し、原潜退役後は核兵器保有国でIAEAの査察対象外である両国に返却するとみる。

豪州はNPT体制の「優等生」とされる。IAEAとの包括的保障措置協定を率先して受諾し、1997年にはより厳しい措置がある追加議定書も他国に先駆け締結した。核兵器の非保有方針を貫いても、原潜配備へのIAEA査察の適用除外が核拡散へのアリの一穴になる懸念は残る。

原潜はイランなども配備を検討中とされる。日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター所長の戸崎洋史氏は「豪州が保障措置の適用除外を受けられるなら、他国も認められるべきとの主張は出てくる」と強調。豪州はIAEAと適用除外の範囲等で厳格な取り決めを結ぶべきだと指摘する。

中国は周辺国が抱える核拡散の懸念をあおり、米豪が対中包囲網の構築に向け連携をめざす東南アジア諸国連合(ASEAN)への働きかけを強める。

習近平(シー・ジンピン)国家主席は11月22日のASEAN首脳とのオンライン協議で米英など他の核兵器保有国に先んじて「東南アジア非核兵器地帯条約」に署名する意向を示した。

同条約はASEAN10カ国が批准し域内での核兵器開発や配備などを禁じる内容だ。豪州の原潜保有は地域の軍拡競争を招くと批判するインドネシア政府内には条約を盾に領海内で豪州の原潜航行を認めないとの議論も出ている。

(シドニー=松本史、ジャカルタ=地曳航也)

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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分析・考察

豪州の原子力潜水艦配備決定の前から、世界の核不拡散体制は大きく停滞し綻びをみせています。

それは、北朝鮮の核開発やイランの高濃度ウラン濃縮による核兵器開発への動きによります。

日本などの核兵器を持たない国が核保有国と共に核不拡散条約に加入して「不平等」を受けいれている理由の一つに、核保有国は核軍縮の努力をして最終的には核兵器を削減していくという目標を共有しているからです。

米国が呼び掛ける核兵器削減交渉に応じる気配がなく、北朝鮮の核開発阻止にそれほど熱心ではない中国が、NPT体制の「優等生」の豪州に対してこのような「キャンペーン」を行うことは自国の都合による戦略的なものという印象を受けます。

2021年12月1日 8:31

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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分析・考察

他の核非保有国にとって前例となりうるため、オーストラリアの原潜計画は極めて重要な意味を持つ。

カナダ、韓国、ブラジルなども原潜計画を有しており、イランはすでにオーストラリアを前例にして自国の原潜計画を進めると発言している。

対中抑止戦略上の政策とはいえ、オーストラリアの査察除外申請は核不拡散体制に重大な影響をもたらしうることも考慮に入れ、慎重に進める必要がある。

2021年12月1日 10:20 (2021年12月1日 10:30更新) 』