AUKUSで何が変わる? 対中抑止、米と豪が連携強化

AUKUSで何が変わる? 対中抑止、米と豪が連携強化
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM16C1R0W1A111C2000000/

『「米国と英国、オーストラリアの3カ国が9月、安全保障の枠組み『AUKUS(オーカス)』を立ち上げたんだって」「中国を抑える狙いのようだけど、日本などアジアへの影響はどうなのかな」

オーカスを取り巻く情勢についてバーチャルキャラクター、日比学くんと名瀬加奈さんが高橋徹アジア総局長に聞きました。

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日比くん「具体的にどんな枠組みなのですか」

3カ国はかねて軍事面で協力関係にありますが、新たに創設したオーカスでインド太平洋地域での連携を一段と強化する考えです。人工知能(AI)やサイバーセキュリティー、量子テクノロジーなど軍事分野で重要性が増す最先端技術で協力します。とりわけ目玉になるのは、米英から豪への原子力潜水艦技術の供与です。

まずは設計を協議し、豪国内で8隻を建造します。現在の原潜の保有国は米英とフランス、ロシア、中国、インドですが、核兵器を持たない国では豪が初めてとなりそうです。豪は次期潜水艦として仏からディーゼル艦を導入する契約でしたが、一方的に破棄し、米英の原潜に乗り換えました。寝耳に水だった仏は猛反発し、一時は米豪から大使を召還する騒ぎになりました。

名瀬さん「なぜそうまでして創設したのでしょう」

中国が覇権主義的な動きを強めているからです。南シナ海で埋め立てと軍事施設の建設、示威活動をエスカレートさせ、インド洋のスリランカやパキスタンでも港湾建設を進めています。こうした海域で中国が実効支配を強めて「航行の自由」を妨げれば、域内全体の経済や安全保障に重大な脅威となります。

豪にとって中国は最大の輸出先で、蜜月の間柄でした。ところが近年、中国からのスパイ行為や内政干渉が疑われる動きが相次いだほか、2020年4月に豪が新型コロナウイルスの発生源の調査を求めた際、中国は豪産品の輸入を制限する報復に出ました。両国関係は極度に悪化しています。中国艦船の活動は最近、南太平洋にも及び、海上輸送を妨害されるようなことがあれば豪には死活問題です。

比較的静かで、長期潜航できる原潜は、中国への「海中抑止力」になり得ます。中国の軍事台頭に危機感を抱き、インド太平洋で影響力を堅持したい米英が、豪の軍備増強を後押しする図式です。

日比くん「他の協力枠組みとはどう違うのですか」

米主導の中国対抗策は「3.4・5包囲網」と呼べる重層的な仕組みとなっています。オーカスと日米豪印の「Quad(クアッド)」、米英豪カナダとニュージーランドによる機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」です。

オーカスとファイブ・アイズは軍事、9月に対面では初の首脳会議を開いたクアッドはサプライチェーン(供給網)や気候変動、インフラなど経済の安全保障を中心に据えています。豪は3つ全てに加わっており、米国の重要なパートナーになっています。

名瀬さん「アジアの国々への影響はどうですか」

オーカスについて、当然のことながら中国は「地域の平和と安定を深刻に破壊する」と猛反発しています。地理的に豪中の間に位置する東南アジア諸国連合(ASEAN)は反応が割れています。米国と安保面で関係が深いシンガポールやフィリピンは理解を示しましたが、インドネシアやマレーシアは地域の緊張を高めると懸念しています。米国の同盟国で、太平洋の安定が経済安保に直結する日本は基本的に賛成の立場です。

豪が実際に原潜を建造し、就役させるのは、早くても30年代半ば以降とみられます。ただし米中対立が深刻になるなか、双方が軍備増強を競えば、南シナ海や台湾海峡などで偶発的衝突も含めたリスクを高める心配はあります。

ちょっとウンチク 原潜技術ににじむ本気度

バイデン米政権は8月末、イスラム主義組織タリバンにアフガニスタン制圧を許し、同国から米軍を撤収させた。オーカス創設の表明はその2週間後だ。「自国第一で、はしごを外す」という同盟国の疑念を払拭し、インド太平洋にとどまって中国に対峙すると宣言したに等しい。

アジアに配備する艦船やミサイルの数で米軍は中国軍に後れをとるが、原潜技術はなお優位にある。米が過去に原潜技術を供与したのは英国だけだった。英と協力して「虎の子」の技術を豪に授ける枠組みに、対中抑止にかける米国の本気度がにじむ。(アジア総局長 高橋徹)』