【地球コラム】世襲のないドイツ、政治家の去り際

【地球コラム】世襲のないドイツ、政治家の去り際
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021112500659&g=int

 ※ 「世界情勢」全体が、冷戦勝利-米国一強、「対中エンゲージ政策」によって、まあまあ安定していた(「パクス・アメリカーナ」に乗っかって、EU域内で「ドイツ一強」で、「周辺国に、輸出しまくり」していれば、良かった…、ということもあったんだろう…。

 ※ しかし、世界情勢は、変わってしまった…。
   米中対立により、「独中蜜月」は終わった…。英国は、「一抜け」した…。
   「移民問題」「対中東欧政策」は、軋んでいる…。
   アフガンからは、米国が「一抜け」した…。おかげで、中東・その周辺のパワー・バランスも変わってしまった…。
   気候変動対策は、押し寄せて来ている…。

 ※ ということで、難問山積みだ…。

 ※ まあ、他人事じゃない…。「地政学的なリスク」という点では、日本国のほうが高いだろう…。日経平均が、今一つなのは、コロナ騒ぎのせいばかりじゃ無いだろうよ…。

『◇メルケルの遺産、誰が引き継ぐ?

 9月に行われたドイツの連邦議会(下院)選挙では、メルケル首相が所属するキリスト教民主同盟(CDU)が大敗した。この結果CDUは下野し、年内にも社会民主党(SPD)を中心とする3党連立政権が誕生することになった。メルケル氏は、新政権が発足し次第、政界から引退する。

 メルケル氏だけでなく、総選挙を節目に一線から退く大物政治家も多数おり、ドイツ政界は世代交代の時を迎えたと言えそうだ。そして、引退と同時に親族に選挙区を事実上引き継ぐことが多い日本と異なり、世襲の例はほぼない。そんなドイツの政治家達の去り際や、メルケル氏の遺産を誰が継ぐのかを、専門家や数少ない世襲議員への取材を通して探ってみた。(時事通信社ベルリン特派員 須永野歩)

◇メルケル選挙区、あっさり明け渡し

 「習慣的にやるべきことをあれこれ考えた後、今は別の人がやってくれるのだと思い当たる。それは心地良いことだろう」。メルケル氏は、首相として最後とみられる7月の訪米で、引退後の生活を想像してこう語った。惜しむ声も多いが、何よりも重圧からの解放と休息を望む様子をうかがわせた。

 本人は未練なしに満足いく引退となりそうだが、CDU側も、ことさらメルケル氏の威光を利用する姿勢は見受けられなかった。総選挙では、メルケル氏が1990年の初当選以来守っていた北部メクレンブルク・フォアポンメルン州の第15選挙区で、CDUからは33歳の新人、ゲオルク・ギュンター氏が出馬し、「(メルケル氏とは)年齢や考え方も違う」と、メルケル氏から距離を置く選挙戦を展開。そして、ライバルであるSPDの27歳の新人に敗れ、あっけなく議席を明け渡した。

◇比例中心で「個人重視」の文化がない

 メルケル氏のみならず、ドイツの政界では世襲はほとんど見当たらない。世襲を「政治家の引退後、同一の小選挙区から親族がすぐに出馬」するケースと定義し、全299小選挙区の現職下院議員を調べたところ、明確に該当すると確認できたのはCDUの1人のみ。このほかには、CDUの姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)で、親の引退から数十年後に初当選した議員が2人いた。

 すべての議員が親族関係を開示しているわけではなく、漏れがある可能性はあるものの、全体としては「世襲はほぼない」と言ってよい結果だ。

 デュッセルドルフ政党研究所のポグンテ教授は世襲の少なさについて、まず伝統的に「政治家個人を重視する文化がないこと」に加え、制度的な理由があると説明する。ドイツの選挙制度では、原則的に各党の議席配分を左右するのは比例での得票率で、小選挙区は補助的な位置付けだ。「あくまでも比例名簿の中で上位を目指すことで、政治的キャリアを築いていく」(ポグンテ氏)のが主で、選挙区と政治家のつながりはそれほど強くない。結果的に地元に代々根を張り、「政治が家業」のような一族は生まれにくいというわけだ。

 育成面でも、党が前面に出る。若いうちから職業と掛け持ちで党の地方支部に在籍し、各種役職をこなして州や全国レベルの政治家を目指すルートが一般的で、日本のように親族議員の秘書を経て、という例はほぼみられない。

◇唯一の世襲議員、1000年の貴族家から

 取材で確認できた唯一の現職「世襲議員」は、CDUのクリスティアン・フォンシュテッテン氏。元貴族を表す姓の最初の「フォン」が示す通り、1000年近くの歴史を持ち、神聖ローマ帝国時代の帝国騎士だったシュテッテン家の出身。古城「シュテッテン城」も所有する名家だ。

 下院議員だった父親が引退した2002年、父親と同じ南部シュツットガルト近郊のシュヴェービッシュハル・ホーエンローエ選挙区から出馬し当選。以来議席を守り続けている。

 フォンシュテッテン氏に話を聞くと、「(世襲は)確かにドイツでは非常にまれだ」と話す一方、「私が父の息子でなかったとしても、良い候補者とされただろう」と言い切った。「私の地元では、少なくとも市議会や郡議会を経験していない人間が、連邦レベルでCDUの候補になることは考えられない。父が引退した時、私はすでにシュツットガルト地域のCDU青年組織のトップだった」と、あくまでも親と関係なく、党の要職を経たうえで実力を認められた結果だと力説した。

 「父はもともとは私の出馬に反対で、経営する会社に集中するべきだとの意見だった」と話すフォンシュテッテン氏にも、2人の子どもがいる。まだ幼く将来の意向は分からないが、「政治家になるのは薦められない」という。

◇メルケル氏「後継者育てなかった」

 世襲や禅譲が少ない一方で、世代交代の過程が混乱しやすい側面もあるようだ。好例が、ドイツ再統一の立役者だったコール元首相の引退劇だ。コール氏は1998年の総選挙で敗北後もCDUの名誉党首にとどまり、影響力の行使を目論んだ。

 99年、当時CDU幹事長だったメルケル氏は、コール氏に取り立てられながらも世代交代の必要性を感じており、保守系紙にコール氏の闇献金疑惑を糾弾する寄稿を掲載。これが決め手となり、翌年にコール氏は名誉党首を辞任した。

 メルケル氏自身は、2018年に極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)に押されて地方選で連敗したことを受け、CDU党首を辞任。首相については今年の任期満了での引退を表明した。自ら引き際を決めた点ではコール氏より潔いが、後任のクランプカレンバウアー前党首は、首相と党首が分離したことで十分な影響力を発揮できず、1年2カ月で辞意を表明。新型コロナウイルスによる党首選延期で、次に選ばれた現職のラシェット氏の党首就任は今年1月。総選挙まで8カ月の準備期間しかなく、CDUの大敗につながった。ラシェット氏も選挙後に辞意を表明し、党は混迷に陥っている。トリアー大学のユン教授(政治学)は「メルケル氏は後継者を育てられなかった」と、現在の混乱の責任の一端はメルケル氏にあると指摘する。

◇ショルツ次期首相、「メルケル精神」?

 ただ、今後「メルケル色」が一掃されるかというと、そうも言い切れない。SPD中心の3党連立成立後、首相に就任するSPDのショルツ首相候補は沈着冷静で控え目。トリアー大学のユン教授は「ショルツ氏は、非常に冷静に、選挙戦でも現在の連立交渉でも、まるで司会役のような振る舞いを見せてきた。これはメルケル氏と非常に似ている」と話す。

 メルケル氏がドイツ国民にこれだけ長く支持されてきたのは、幾多の危機を冷静に乗り越えてきたその安定感だ。ショルツ氏も安定感は折り紙付きで、メルケル政権下で副首相兼財務相を務めてきただけに、特に外交面で大きな政策変更はないとみられている。メルケル氏自身は引退するものの、有権者は「メルケル精神」を受け継いだ指導者を選んだとも言えそうだ。 』