多数の難民を受け入れたスウェーデンが思い知った「寛容さの限界」

多数の難民を受け入れたスウェーデンが思い知った「寛容さの限界」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/11/post-97522.php

『<人道的見地から難民・移民を受け入れてきたスウェーデン社会が、財政負担と治安の悪化で右傾化へ舵を切る>

スウェーデンの与党・社会民主労働党は先日、マグダレナ・アンデション財務相を新党首に選出した。長く首相を務めてきたステファン・ロベーンは近く退任する意向で、アンデションはスウェーデン初の女性首相となる見通しだ。

その彼女が新党首として初めて行った演説は新自由主義に対する福祉国家スウェーデンの勝利を祝う言葉で始まった。

──と、ここまではお約束どおりだが、筋金入りの党員を驚かせたのは次の言葉だ。アンデションは国内の200万人強の難民・移民に直接呼び掛けた。「あなた方が若いなら、高校卒業資格を得て就職するか、進学しなさい」

さらに、国から経済的支援を受けている人は「スウェーデン語を学んで週何時間かでも働いて」と訴え、こう続けた。「この国では男女共に働いて社会に貢献している」

2015年、国民はシリア、イラク、アフガニスタンなどの難民16万3000人を受け入れるという自国の決定を大いに誇りに思った。「私の知るヨーロッパは難民を受け入れる」と、当時ロベーンは語った。「私のヨーロッパは国境に壁を建てない」

今のスウェーデンには、こんな演説をする政治家はまずいない。当時は保守政党・スウェーデン民主党の極右分子だけが唱えていた排外主義的な主張を、今では与党も唱えている。
「地球上で最も寛容な国家の死」

筆者は5年前、「地球上で最も寛容な国家の死」というタイトルの長い記事を書いた。難民の大量受け入れはやがて排外主義を招くという悲観論を述べた記事だが、この扇情的なタイトルは私に無断で編集側が付けたものだ。

タイトルに反して、スウェーデンは死ななかった。難民受け入れの姿勢も失われていないだろうと考え、私は新たに前の主張を訂正する記事を書こうと、当時取材した人たちに再び話を聞いた。

結果、訂正の必要はないことが分かった。

かつてのスウェーデンは戦火や専制支配から逃れてきた人々を大量に受け入れた。ドイツのように過去の罪を償うためではない。人類共通の道義的責務を果たすためだ。

改めて指摘するまでもなく、15年当時の現実のヨーロッパは国境に見えない壁を建てた。そして、ドイツやスウェーデンに、当時私が「共有されない理想主義」と呼んだもののツケを押し付けた。

筋金入りの社会民主主義者たちは、読み書きが満足にできないアフガニスタンの子供たちや宗教に凝り固まったシリア人を受け入れる自国の懐の深さを誇りに思うばかりか、過大評価していた。「強い国は(国外の問題にも)対処する」と、当時スウェーデン左翼党の党首は胸を張っていた。』

『その後スウェーデン人は学んだ。最も慈悲深い国でさえ、人助けには限度があることを。ここ数年、この国は犯罪の急増に頭を抱えている。スウェーデン国家犯罪防止評議会の報告書によれば、この国では過去20年で銃による殺傷事件の発生率がヨーロッパ最低レベルから最高レベルに増え、今ではイタリアや東ヨーロッパ諸国より高くなっている。

北アフリカからの移民2世が中心メンバーのギャング団が密輸などで手広く稼ぐようにもなった。

今や犯罪対策がスウェーデン政府の最重要課題だ。アンデションは演説で移民政策に触れる前に、ロベーン政権の成果として警察官の増員や刑務所の増設、刑法改正の草案作りなど治安強化を挙げた。

教育レベルや所得などあらゆる指標で、新参者が一般の国民に後れを取っているのは無理からぬことだが、驚くのは両者の差の大きさだ。

クルド系経済学者のティノ・サナンダジは著書で、「長期服役者の53%、失業者の58%が外国生まれで、国家の福祉予算の65%を受給しているのも外国生まれの人々」だと指摘している。さらに「スウェーデンの子供の貧困の77%は外国にルーツを持つ世帯に起因し、公共の場での銃撃事件の容疑者の90%は移民系」だという。

もはや難民を歓迎する国ではない

こうした数字は今ではよく知られている。スウェーデンで15年に行われた世論調査では移民の増加を歓迎する人が58%に上ったが、今は40%だ。

スウェーデンはもはや難民を歓迎する国ではなく、そのように思われることも望んでいない。16年6月には長年の方針を転換して、難民の恒久的な庇護を停止。EUのルールに基づき13カ月または3年の一時滞在許可が与えられることになった。

これは15年秋に国内の受け入れ施設が物理的に足りなくなったことを受けた時限立法だったが、適用期間が延長されている。20年に受け入れた難民は、過去30年で最も少ない1万3000人だった。

スウェーデンの移民庁の高官は最近の論文で、難民の受け入れに冷ややかなノルウェーとデンマークが「難民や国際的な移民にどう対処するべきかという好例と見なされるようになった」と書いている。

右傾化しているのは、中道左派の社会民主労働党だけではない。中道右派の穏健党は、移民問題では保守のスウェーデン民主党と歩調を合わせている。

穏健派の外交官で元政府高官のダイアナ・ヤンセは、与党がスウェーデン民主党を傍流と見なし、彼らを「茶色く塗っている」と批判する(茶色いシャツを着たナチスの突撃隊になぞらえて「ファシスト」などと呼ぶこと)。』

『かつての「過激」が主流に

6年前に話を聞いたとき、ヤンセはスウェーデン民主党にあまり好意的ではなかった。同党の支持率は20%前後で推移している。中道の諸政党が移民問題に関してスウェーデン民主党の主張を取り入れていなければ、この数字はほぼ確実に伸びていただろう。

「2015年には過激とされていたものが、今は主流になっている」と、ヤンセは言う。

古い理想の放棄は、スウェーデンの進歩派を深く失望させている。ストックホルムのシンクタンク、アレーナ・イデーのリサ・ペリング研究主任は、大規模な難民の流れを食い止めるために「何かをする必要があった」ことは認めるが(15年に話を聞いたときは認めていなかった)、落ち着いた後は規制を撤回するべきだったと考えている。

とはいえ、スウェーデン人の寛容さも限界かもしれない。16年度は難民のために、国家予算の5%以上に当たる60億ドルを費やしている。

5年前の記事タイトルは、私が思っていたほど扇情的ではなかったのだ。もちろん、スウェーデンは今も非常に豊かで、それなりに平等主義的で、とても安全な国だ。しかし、この20年で、いにしえから続いてきた同質の文化が、事前の意思表示も公の議論もなしに、驚異的な規模で人口動態の変化にさらされた。

アメリカは1924年に外国生まれの市民が人口の約15%に達した時点で、移民に対して事実上、門を閉ざした。スウェーデンでは現在、移民が全人口の20%を占め、労働移住や家族の呼び寄せで年間約10万人(人口の約1%)のペースで増え続けている。

彼らの大多数は、スウェーデンと全く異なる社会──より教育水準が低く、より世俗的ではない社会──から来た。こうした変化に対し、スウェーデンは「死」を選ばず、生き残るために大切な価値観を変えたのだ。

EUは15年夏の終わりから100万人以上の移民・難民が押し寄せたことを受けて、16年にトルコと合意を締結。トルコが移民の欧州流入を抑制する代わりに、EUがトルコに資金援助をすることなどを取り決めた。これは根本的な人道的危機に対処することなく、問題を政治的に解決しようとするものだった。

現在、EUの東の端で続いているにらみ合いは、それぞれの思惑を暴露している。ベラルーシは中東などからの移民をポーランドやリトアニアに送り込み、ヨーロッパを脅かそうとしている。』

『欧州は難民庇護の聖域にならない

EUの指導者は、ベラルーシの国境近くの森で何千人もの無力な人々が凍える寒さにさらされていても、ポーランドの冷徹な対応を全面的に支持している。さらに数万人の人々が押し寄せることを恐れているからだ。

ヨーロッパが、世界の7000万人の難民や強制移住者を庇護する聖域になることはないだろう。彼らの大多数は祖国に近い場所に定住せざるを得ない。ただし、富裕国は、彼らに人並みの生活を提供する費用のほとんどを負担するべきだろう。

民主主義社会の基盤は、建国文書に記された抽象的な原則ではない。アメリカ人が苦しみながら身をもって学んできたように、国民の集合的な信念に依拠するのだ。生々しい経験は、聖域とされた価値観からも人々を解き放つ。

国のリーダーは、人々にそうした価値観を思い出させるべきだ。そして、民主主義の原則を最も深く脅かす力を抑え込みつつ、その価値観を生かしながら再生すべきだ。

From Foreign Policy Magazine https://foreignpolicy.com/ 』

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(11/25(木) 2:32配信)
https://news.yahoo.co.jp/articles/cad45086946830cb4a4d2f82fb64fbce06f4d356