[FT]3回目接種で明暗 加速した英、出遅れた欧州大陸

[FT]3回目接種で明暗 加速した英、出遅れた欧州大陸
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『欧州で新型コロナウイルスの感染が再び急拡大している一方、秋に西欧諸国の中で最悪の感染状況に見舞われていた英国では、ワクチンの追加接種(ブースター接種)の効果で事態が好転の兆しが見えている。

欧州諸国に先駆け、英国は9月からブースター接種を始めた=ロイター

欧州大陸では新規感染者数や入院患者数が最近急増しているが、ブースター接種をいち早く開始した英国は、欧州で最悪という状況を脱しつつある。

政府発表のデータをフィナンシャル・タイムズ(FT)が分析したところ、日別の人口10万人当たりの新規陽性者数で、英国はベルギーやギリシャなどを含む欧州の上位10カ国のリストから外れた。人口10万人当たりのコロナ関連の死亡率では、英国は欧州平均より40%低くなっている。

英の感染増加率は仏の10分の1

西欧諸国の中には新規感染者率が英国より低い国もあるが、過去1週間の増加率をみると、ドイツの30%、スペインの59%、フランスの83%などと比べて英国は8%増にとどまっている。

英国における感染状況改善の最大の要因はブースター接種キャンペーンの成功だ。専門家や政府関係者によると、他の多くの欧州諸国で感染が再び急増しているのは、ワクチン接種率の低さ、感染によって免疫を獲得した人の割合の低さ、ロックダウン(都市封鎖)解除のタイミングが遅れたことなどの要因が重なったためだ。

フランスの元保健相で現在は国連の高官であるフィリップ・ドストブラジ氏は、FTの取材に、英国が「他の欧州諸国より早くブースター接種に取り組んだ」ことは「賢明な政策」だったと述べた。

英国では対象となる60歳以上の人口の80%近くがブースター接種を受けたことで、過去2週間に医療機関の逼迫状況がかなり改善した。2回目のワクチン接種から6カ月以上たっている人のおよそ70%がすでにブースター接種を受けた。ドイツではこの割合が52%、イタリアでは43%となっている。

「英国は長く、幅の広い感染のピークを選んだのに対し、大部分の欧州諸国は期間は短いが高いピークになるような政策を採っている」とベルギーのハッセルト大学のイエルーン・ファン・デル・ヒルスト准教授(免疫病理学)は言う。

「いつかの時点で、ワクチン未接種の人に感染が広がったり、(ワクチン投与後でも感染する)ブレークスルー感染の拡大などの状況に立ち向かわなければならなくなる。英国は、夏に感染が比較的落ち着いていた時期にこれをやったことが功を奏した。他の欧州諸国では現在それをやっている最中だ」

英エジンバラ大学のマーク・ウールハウス教授(感染症疫学)は、「英国ではデルタ株の感染拡大と、ワクチンの免疫効果の低下、そして(冬期の)屋内における対人接触の増加という問題がそれぞれ別々に発生した」と指摘する。

「オーストリアのような国では、それらがすべて同時に発生しており、パーフェクトストーム(複数の災厄の同時襲来)状態になっている」

英国ではワクチンの1回目の接種を受けた人の割合も、深刻な感染状況に陥っている欧州諸国よりも高い。英国では12歳以上のワクチン未接種の人の割合は13%にすぎないが、ドイツやオーストリアでは20%を超える。

英のコロナ戦略にも「マイナス面」

しかし、英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で感染症の数理モデルを研究するジョン・エドマンズ教授は、英国のコロナ戦略は「マイナス面がなかったわけではない」と指摘する。

英国が夏にコロナウイルス対策の規制を全面的に解除してからの死者数は1万5000人に達し、10万人以上が入院した。

7月中旬から10月に欧州での感染急拡大が始まるまでの期間、英国における人口当たりの死者数は欧州で5番目に高かった。ただし、その後東欧で死者数が急増した結果、この順位はいくつか下がった。

スペインやポルトガルなど、ワクチン接種率がより高く、感染率が低く、マスク着用などの規制がまだ実施されている国は「はるかに良い状況にある」とエドマンズ氏は言う。

ウールハウス氏は、夏以降に感染が広がった結果、英国では「自然にウイルスにさらされた人の数が非常に多い」とし、免疫を獲得した人の割合が欧州で「最高水準」に達していると語る。

ドイツのゲッティンゲンにあるマックス・プランク動力学および自己組織化研究所の研究員、ビオラ・プリーゼマン氏は、英独の対応が対照的だったのは「異なるリスク計算」によるものだと言う。

ドイツでは、日々の新規感染者数が英国の水準に近づいており、引退するメルケル首相が現在の措置では「不十分」だと今週警告する事態となっている。対照的に英ジョンソン首相は今週、「プランBに移行しなければならないことを示唆するデータはない」と強気の姿勢を示した。

英、独で異なる医療逼迫に対する姿勢

「医療機関の逼迫状態に対する姿勢が根本的に違う」とプリーゼマン氏は言う。

英製薬大手アストラゼネカのパスカル・ソリオ最高経営責任者(CEO)は今週、英国における入院患者の数が多くの欧州諸国より低いことについて、同社とオックスフォード大学とが共同で開発したワクチンは、高齢者が重症化することを防ぐ効果がより長く持続すると主張した。

しかし、英インペリアル・カレッジ・ロンドンのダニー・アルトマン教授(免疫学)は、「英国とドイツなどとの違いをたった1つの要因で説明しようとするのは無謀だ」と話す。

プリーゼマン氏は、オックスフォード大学とアストラゼネカが開発したワクチンでは、「免疫効果がより劇的に弱まる」ことも、おそらく、英国がブースター接種キャンペーンから「より多くの効果を得られる」理由だろうと語った。

英キングス・カレッジ・ロンドンのティム・スペクター教授(遺伝疫学)は、ブースター接種を受けた人の中でこの冬にコロナ感染で入院する人の数は「ごく少数」だろうと予測する。

英国保健安全保障庁によると、最初にアストラゼネカのワクチンを接種し、米製薬大手ファイザーと独バイオ医薬品企業ビオンテックとが共同開発したワクチンのブースター接種を受けた50歳以上で発症の予防効果は2週間後に93.1%、ファイザーのワクチンを最初に接種した場合は94%だった。

「(ブースター接種者の治療を)考慮する必要がなくなれば、医療システムにとって非常に大きいだろう」とスペクター氏は話した。

ベルン大学の疫学研究者でスイス政府のコロナ対策専門家チームのメンバーであるニコラ・ロー氏は、パンデミックの急性期を克服するのには「極めて長い時間がかかるので、3回目の接種は非常に重要だ」と語る。

「実のところ、もはやブースターという言葉を使うのをやめて、3回目の接種と言い換えるべきだろう。3回接種はウイルスから身を守るのに必要だということになる可能性が高いからだ」

By Oliver Barnes, John Burn-Murdoch and Sam Jones

(2021年11月24日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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