立民代表選、私の注文 外交安保・経済・ガバナンス

立民代表選、私の注文 外交安保・経済・ガバナンス
政界Zoom
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA16DFE0W1A111C2000000/

『立憲民主党の代表選が30日に投開票される。10月の衆院選で政権交代を目指したが、勢力は増えず100議席を下回る敗北におわった。新代表が率いる立民には野党第1党として何が求められるのか。外交・安全保障や経済政策、政党のガバナンスの観点から有識者に聞いた。

外交・安保で現実的提案 笹川平和財団上席研究員・渡部恒雄氏
専門は日米の政治、外交・安全保障政策

立憲民主党の政策は現実的になってきている。1993年の細川護熙政権の誕生以来、非自民の政党は実際に政権を担ってきた。その過程で自衛隊や日米安全保障条約を前提とした日本の安全保障体制を肯定するようになった。

あまり知られていないが、野田佳彦政権のときに当時の民主党は集団的自衛権の行使を検討した。武器輸出三原則も緩和した。

外交・安保政策は与野党がある程度一致していなければ困る。政権交代のたびに大きく方針が変わると日本の信頼が落ちる。日米安保を維持し、多国間で協調し問題を解決するのが前提だ。

こうした大枠は変えずに外交的なアプローチの仕方で立民は自民党と政策を競い合えばよい。米国や周辺諸国とどう協力関係を築いていくかを議論してほしい。

経済安全保障は担当相を置き問題意識を持って取り組んでいるという点では自民党の方が進んでいる。ただ新しく幅の広い概念なので簡単な答えはない。自民党もよく理解しているとは言いがたい。

今や中国は世界の経済とつながっている。米ソ冷戦期のような封じ込めは不可能だ。大切なのは軍事力行使のハードルを下げるような圧倒的な技術力が中国に流入するのを防ぐことだ。

自民党内のタカ派が現実を見ずに中国経済との完全なデカップリング(分断)を叫ぶ可能性もある。リベラル側の立民が現実的な対案を打ち出すチャンスとなる。

衆院選は若い世代が自民党に投票した。若い世代の心をつかめないと政権交代はできない。若い人はリアリストが多い。憲法9条が現実的な外交・安保政策を阻む要因だとみている。「護憲」を唱えるだけでは実際に何をやるかを見せられない。

代表選の候補者たちは若く可能性を秘めている。立民が万年野党では日本の民主主義に緊張感がなくなる。若者からも支持され政権を担当できる政党に脱皮することを望む。(聞き手は今井秀和)

挑戦や改革、忘れるな 日本総研副主任研究員・井上恵理菜氏
専門はマクロ経済、雇用政策

立憲民主党の代表選はもう少し注目されていい。強い野党がもう一つの選択肢として自民党と政策を競い合えば政策議論が深まる。

経済政策は短期の対策を考える時期ではない。7~9月期の国内総生産(GDP)はマイナスだが、足元の10~12月期は大幅に反発するだろう。行動制限の解除で消費できなかった人ができるようになったためだ。

給付金による消費下支えなどの政策はわかりやすさもあり受け入れられやすい。ただ長期的に潜在成長率をどう引き上げるかを考えるべきだ。

どうやって実現するか。野党が主張すべきなのは人への投資だ。例えば職業訓練にもっと公的な支援をすべきだろう。対象人数や分野を増やすことも必要だ。訓練中の生活費の支給も手厚くしないといけない。

それによりみんなが職について稼ぎ消費できるようになる。デジタル分野など人手不足の業界に人が移動し生産性も高まる。

選挙中は「分配」をどうするか論戦となった。再分配ではなく消費できる人を増やしていくことで消費が活性化するのが望ましい。

野党として低投票率への対処も目指してほしい。投票の意思をなくしてしまった人、日々の生活が苦しくて投票に行く気力も無いという人がいる。そうした人たちが投票したいと思えるような政策を打ち出すべきだ。

例えば立民はほかの政党と比較すると女性議員が多い。特色として打ち出してもいい。ジェンダー平等や子育て支援、女性が多い非正規雇用の支援などに焦点を絞ってもいいだろう。

賃金、雇用問題は少子化とも結びついている。少子化はお金がかかることが一つの原因だ。収入を増やすための職業訓練のほかに子育ての費用は公的に支援するという姿勢を強く打ち出すべきだ。

衆院選で日本維新の会が躍進した。維新が成長や改革へのメッセージを打ち出せていたからだろう。立民の代表選では「安定」という言葉が聞かれるが、挑戦や改革といった言葉を忘れてはいけない。(聞き手は依田翼)

まとまりと人材育成 日本大学教授・岩崎正洋氏
専門は比較政治学

立憲民主党は政党として「まとまりを欠いている」印象を受ける。だからガバナンスが機能していないといわれる。衆院で100人を切ったのに代表選の候補者が乱立する状態は党がまとまらない現状をあらわしている。

この10年で政党のガバナンスが指摘されるようになったが、自民党が問われることはさほどない。自民党の議員は政権を手放してはいけないという感覚を持つ。だからまとまる。

野党は政権に触れたことのない議員が多い。政権交代を訴えながら政権という感覚が希薄なのかもしれない。政権を担当し永田町で生き延びようとする気持ちが弱いからまとまらない。

自民党はプラグマティックで現実的、選挙の勝利が第一と考える。立民は政策的なアピール力や組織を生かす力が弱い。

選挙の勝利を目指すのか自分たちの主張を実現したいのかどっちつかずの状況だ。二兎を追う者は一兎をも得ずで組織もばらばらだ。

立民は枝野幸男氏がいたからこそ組織が存在していた。政党の組織論でいうと人材も大事だ。「枝野1強」で人材育成はできていなかったと思う。

次を担う人材が育っていない段階で代表が辞めてしまった。仮定の話だが2022年の参院選までもう一回同じ路線でやってみて、それでも負けたら枝野氏の路線は失敗だとして練り直すこともありえた。

野党は政策の違いだけを訴えれば選挙に勝ち自動的に政権交代が起きて言った通りのことがやれると思っている。だが政権をとっても官僚の力も借りないと政策は実現できない。官僚の力を借りるという感覚も持っていないのではないか。

代表選は従来の組織からの脱却をいかにはかるかという点では期待できる。まとまらない、官僚バッシングなどの旧民主党の悪い体質をなくすべきだ。

記者の目 批判一辺倒からの脱却を

衆院選で立憲民主党の枝野幸男代表(当時)は「政権の選択肢」と強調した。結果は獲得議席が公示前より14議席減り96議席になった。有権者が立民を政権を担う政党とはまだ認識していないあらわれだろう。

立民の外交・安全保障政策は「日米同盟を基軸」と主張し現実路線に近づきつつある。半面、選挙協力の相手になった共産党は日米安保条約の廃棄を主張する。有権者にとって立民の外交・安保政策はわかりにくく非現実的にうつる。

渡部氏が主張するように外交・安保政策は与野党で大きく方針が変わると日本の信頼にかかわる。共産党との関係をしっかり説明できるかが問われる。

新代表のもとで結束し、批判一辺倒の政党というイメージからも脱却できるかどうか。代表選自体が政権を担うための現実路線の実験場でもある。(岩田夏実)

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