環境・人権重視、日本に試練も ドイツ新政権発足へ

環境・人権重視、日本に試練も ドイツ新政権発足へ
欧州総局編集委員 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR251520V21C21A1000000/

『ドイツで12月上旬にも新政権が発足する。環境と人権を重んじ、理想主義がにじむ左派リベラル政権だ。気候変動対策で欧州をけん引すると意気込み、中国やロシアには人権で注文をつける。日本には試練となる。

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9月の総選挙で第1党になった中道左派・ドイツ社会民主党(SPD)と環境政党の緑の党、中道リベラルの自由民主党(FDP)の3党が24日、政権樹立で合意した。メルケル政権は保守系キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)とSPDの連立。総選挙で第2党に転落した保守系は下野する。

16年間首相を務めたメルケル氏から、バトンを引き継ぐショルツ次期首相(24日、ベルリン)=ロイター

ドイツ政治は継続性を重んじるうえ、SPDはメルケル政権でも与党だった。しかも次期首相ショルツ氏は手堅さで知られる。国の骨格が変わるような急転換はないが、それでも政策にはリベラル色がにじむ。

100カ所超の環境用語

3党が公表した177ページの連立合意書。財政、社会保障、エネルギーなどの分野でどんな政策を講じるのかを綿密に記す。目立つのが「気候変動」「自然保護」など環境関連の用語。その数は100カ所を超える。

日本では「環境=経済問題」との受け止めが強いが、ドイツではコストの問題を越え、民主主義や男女同権、労働者保護、過去への謝罪などと同じように普遍的な価値として社会に広く浸透した。国家の理念になったといってもいい。

日本が石炭火力発電の存続にこだわれば、主要7カ国(G7)で孤立する恐れも(脱石炭を進めるドイツの火力発電所)=ロイター

新たに与党入りする緑の党はもとより、中小企業の経営者らを支持基盤とするFDPの若手議員も脱炭素社会を実現すると意気込む。ドイツは来年、主要7カ国(G7)議長国。SPD首脳への取材によると、ショルツ次期首相は気候変動を主要議題に据える。日本が石炭火力発電の存続にこだわれば、廃止にかじを切った欧米との溝が浮き彫りになり、G7で孤立する恐れがある。

外交、早くもシグナル

リベラル系有権者に支えられるショルツ政権は、外交舞台で人権にこだわる。

対ロシア政策では、すでに小さなシグナルがあった。ロシア検察当局が同国の有力人権団体メモリアルを解散させようとしていることが伝わると、政権が発足してもいないのに3党の有力議員が連名で抗議した。「(ロシアの)政治手法に大きな懸念がある」

北京五輪ボイコットに追随も

対中政策では「中国の人権侵害を(2国間の)議題にする」と合意書に明記し、新疆ウイグル自治区や香港情勢に厳しい態度で臨むと公約した。来年の北京冬季五輪で首脳級は訪中せず、米国の外交ボイコットに追随する可能性がある。

いまドイツは海軍フリゲート艦バイエルンをインド太平洋に派遣している。平和主義者の多い次期政権ではこうした軍事的行動へのハードルが高くなる。現実主義者であるショルツ次期首相は、アジアの軍事バランスを変える力がないドイツが首を突っ込むことに対して、無駄とみているフシがある。「砲艦外交」より「人権外交」というのが新政権のカラーだ。

通商関係はしっかり維持しつつ、批判すべきところは批判するとの理想主義がドイツ外交の底流にある。ロシアや中国、ベラルーシ、ミャンマー――。欧米諸国は人権外交で足並みをそろえており、その流れは一層強まりそうだ。人権問題では「事なかれ主義」できた日本も、民主主義陣営の一員として悩ましい時を迎えることになる。

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