[FT]米民主党に欠ける訴求力 「トランプ流」に学べ

[FT]米民主党に欠ける訴求力 「トランプ流」に学べ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB222IP0S1A121C2000000/
 
 ※ 「政治家」とは、どこの国においても、多かれ少なかれ、「国民大衆に、彼らが”観たいと思っている光景”を観せる」職業と言える…。

 ※ その点においては、トランプ氏は「希代の才能」があったと思われる…。

 ※ たとえ、最初のうちは「際物(きわもの)」「トリックスター」扱いされたとしても…。

 ※ しかし、最後は、その才のおかげで、「国会議事堂への突入」を「扇動した」と断じられて墓穴を掘った…。

 ※ バイデン氏は、それとは「真逆の」「人の痛みを理解できる人物」「けっこうな苦労人」という「人物設定」で、支持を得た…。

 ※ しかし、アフガン撤退戦で、「国民が、最も観たくなかった光景(サイゴン陥落を連想させる光景)」を観せてしまったことで、ミソをつけた…。

 ※ そういう「失態」を、どこまで挽回できるのか…。

 ※ 次の大統領選で、トランプ氏の「再登板」と言うような事態になった場合、世界は、日本は、「またまた、振り回されまくる」ことになる…。

『トランプ前米大統領は壮大な物語を作り上げ、すべての米国民の耳にそれをもれなく届ける能力にたけていた。選挙コンサルタントなどはいらなかった。
バイデン米大統領が現在抱える難題の多くは、米国民を分類して考えたがる民主党の傾向に起因するといえる=AP

トランプ氏は2016年の米大統領選挙でこれを実践し、再び出馬する際にも同じ戦略を取ろうとするだろう。1回目の大統領選では「(米政府が所在する)ワシントンの沼の水を抜く(腐敗を一掃する)」と訴えた。今度は「民主党に選挙結果が盗まれた」という筋立てだ。

もしトランプ氏が16年の戦略をコンサルタントに相談していたら真っ向から否定され、別の戦略を取らされていただろう。だが彼は自分の考えを貫いた。

米民主党は見逃しがちだが、トランプ氏が予想に反して成功したのは、可能な限り幅広い層の米国民に、一度にわかりやすく語りかけることができたからだ。たとえ売り込んできた中身が自暴自棄のような、民主主義の否定だったとしても。

民主党の選挙コンサルタントたちが愛してやまない「マイクロターゲティング(対象を細かく絞り込む手法)」とは正反対だ。民主党は「民衆」を代表する党を標榜するだけにこれは皮肉だ。いくつもの異なる集団のそれぞれに異なる公約を掲げる戦略を取りながら「普通の米国人」のために戦っているといっても説得力に乏しい。
メッセージの届け方も拙く

バイデン米大統領が現在抱える難題の多くは、もとをただせば米国民を分類して分析したがる民主党の傾向に起因するといえる。郊外の女性や有色人種、ブルーカラーの白人、ヒスパニック、性的少数者、大卒の白人男性といった具合だ。

だが、こうした手法が想定する以上に「米国人」には多くの共通点があるはずだ。民主党は、いくつもあるパイの一切れを一つに集めれば米国全体というパイができあがると考えている。だが、異なる集団が抱えている課題それぞれを解決することに集中すれば、集団の間の違いがさらに際立つだけだ。

問題は情報発信の手法だけではない。届け方も拙いため中身も正しく伝わらない。バイデン氏の新型コロナウイルス禍からの再建策「ビルド・バック・ベター(より良き再建)」計画は、医薬品の値下げや有給休暇の拡充、子育て支援、富裕層への増税など、民衆が求める措置が目白押しの素晴らしい政策として成功を収めるはずだった。

しかし、舞台が議会での審議に移ると民主党議員の間で対立が生じ、その結果利益が相反することもある混濁した法案に成り下がってしまった。すべての集団を重視しようとすれば誰も重視できないことを示した。

民主党内での対立の結果、バイデン氏が当初掲げ、最も支持を集めていた施策の多くは規模の縮小や削除を余儀なくされた。最終的にまとめられた法案は米国で最も力を持つ超富裕層に最も有利な内容となった。

例えば、プライベートエクイティ(PE)ファンドで共同経営者が運用益から受け取る成功報酬は給与所得より税率が低い金融所得課税の対象となり得る。著名投資家のウォーレン・バフェット氏らが自分たちのような大富豪に秘書より低い税率が適用されていると指摘するなど、以前から税制上の「抜け穴」だと批判されてきた。

今回の法案でもこの抜け穴は健在のようで、超富裕層はこれからも枕を高くして寝られる。さらに、このまま法案が成立すると富裕層にとってはトランプ前政権による17年の大減税を上回る規模の減税が実現する。
裕福なリベラル層が優遇

「民衆」を代弁するはずの政党がなぜ支援を最も必要としない人を優遇することになってしまったのか。その答えは簡単だ。党内で「民衆」の定義が一致していないからだ。

民主党が重点的に訴求しようとしている集団を集めても、民主党支持者のごく一部にしかならない。そうなると最も組織化が進んだ利益集団の意見がまかり通る。民主党の場合はニューヨーク州やカリフォルニア州など税率が高い州に住む裕福なリベラル層だ。これによって道徳的に好ましくない結果となる。

オバマ政権で米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたジェイソン・ファーマン氏(つまり急進派では決してない)は今回の富裕層に対する税制上のプレゼントを「不愉快」だと断言した。さらに、共和党に民主党は偽善者だというレッテルをはる口実を与えたため、政治戦術的にも誤っている。

米有権者を、様々な集団に細かく分類して型にはめてしまえば、ある特定の集団を「道義上誤っている」存在だと切り捨て、非難しやすくなる。

有権者を経済不安を抱える大きなコミュニティーとしてとらえたり、あるいは単に市民として接したりすべきなのだろうが、米民主党はそうしていない。こうした怠慢はいずれは党の機能不全に行き着くだろう。

社会の様々な集団の良心に訴えかけるのではなく、特定の集団を社会にとって忌むべき存在だと捨て去ってしまえば、社会はそれ以上によくはならない。

オバマ元大統領は前者の手法をとり、民衆にわけへだてなく訴えかけた。だからこそ、1940年代以降では2回の大統領選を得票率50%超えで勝ち抜いた唯一の民主党候補となった。

2020年の大統領選に出馬した起業家のアンドリュー・ヤン氏は13日、オンラインのインタビューで「米国民の多くは政治コンサルタントが有権者を細かく分類するやり方に嫌気がさしている(中略)有権者はその手法を看破しており、デタラメだと思っている」と語った。
恐怖で訴える以外の戦略なく

「政産複合体」ともいえる、政治と様々な産業が絡み合った現在の米国の政治は批判を受けるべくして受けている。だが、変化を求める声に耳を傾けようという民主党のブレーンはほとんどいない。

20世紀前半に活躍した小説家で社会活動家のアプトン・シンクレアは「誰かに何かを理解してもらいたくても、それを理解しないことにその人の生活がかかっているとすれば、理解してもらうのは難しい」と書いている。

つまり民主党は来年の中間選挙に向けて、共和党が勝利すれば惨状が待っているという実現可能性の高い恐怖で訴求する以外に戦略がない。様々な論点が混ざり合った不明瞭なメッセージしか発信できないまま選挙戦に突入することになる。

民主党員は聞きたくもないかもしれないが、トランプ氏から少し学んでもいいのではないだろうか。

By Edward Luce

(2021年11月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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