米が石油備蓄放出へ 日中韓などと協調

米が石油備蓄放出へ 日中韓などと協調、原油高抑制狙う
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『【ワシントン=鳳山太成】バイデン米政権は23日、今後数カ月かけて戦略石油備蓄を5000万バレル放出すると発表した。日本や中国、インド、韓国、英国と協調して備蓄を放出する。日本の国家備蓄の放出は初めてで、24日に発表する。原油価格の高騰を受けたガソリン高を抑制するための異例の措置だが、効果を上げるかは不透明だ。

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米国の放出量の5000万バレルは6億バレルの備蓄の約8%に相当する。国内需要の約3日分にあたる量だ。

米エネルギー省は12月以降、南部テキサス州などの備蓄拠点から放出する。3200万バレルを将来備蓄に戻すのを前提に企業に貸し出す。1800万バレルは議会が承認済みの売却分を速やかに実施する。日中韓など他国の放出量は明らかになっていない。

石油備蓄の放出はバイデン政権が過去数週間、エネルギーの主要消費国に要請してきた。各国が共同で石油備蓄を放出することで、原油価格を抑える効果を高める狙いがある。

米中が共同で石油備蓄を放出するのは初めてとなる。米中は安全保障や経済で激しく対立するが、原油高が続けば両国経済に同様に悪影響をもたらす。バイデン政権、習近平(シー・ジンピン)指導部ともに国内の政治的な打撃を避けるため、足並みをそろえることで一致したとみられる。

原油相場は10月に2014年以来7年ぶりの高値を付けた。足元では1バレル70ドル台で推移する。新型コロナウイルスの影響による部材や人手の供給制約にガソリン高も重なって各国でインフレが加速しており、世界経済の回復を遅らせるとの懸念が高まっている。

米国は石油輸出国機構(OPEC)やロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」に原油の増産を求めてきたが、産油国側は応じていなかった。OPECプラスは11月上旬、需要が弱いとして12月の追加増産を見送っていた。

石油備蓄の放出は自然災害などで供給に支障が生じた緊急時に、国際エネルギー機関(IEA)が呼びかける形などで実施してきた。価格を抑えるために実施するのは異例だ。IEA加盟国が協調して石油備蓄を放出したのは2011年が最後だった。当時は中東の民主化運動「アラブの春」でリビアの石油生産が滞った。

備蓄の放出でいったん原油が値下がりしたとしても効果は長続きしないとの見方がある。OPECプラスが増産を抑えて備蓄放出に対抗するとの観測もあり、需給が緩和して価格が下がるかどうかは未知数だ。

米国ではガソリン高で国民の不満が高まっている。バイデン政権には2022年の中間選挙に向けて石油価格の抑制への取り組みをアピールすることで、有権者の支持をつなぎ留める狙いもある。

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永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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ひとこと解説

為替市場でしばしば行われてきた協調介入の原油先物市場版といったところでしょう。

いざとなったら国際協調して市場に介入するというアクションを起こすことで、投機筋に対して原油先物買いに警戒感を与えることを狙ったものと解釈されます。

トランプ政権だったらシェールガンガン増産する対応もできたかもしれませんが、グリーンに舵を切ったバイデン政権ではそれはできませんから、こうした形になったのでしょう。

ただ、既に要請の報道出た時点で原油先物下がってましたが、実際に放出決まったら放出量が想定ほどではなかったのか、原油先物はむしろ反転して上昇しています。

2021年11月24日 8:12 (2021年11月24日 8:13更新)

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小黒一正
法政大学経済学部 教授
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分析・考察

日経の別記事によると、日本政府も「必要な備蓄量を上回る余剰分のうち国内需要の1~2日分に相当する約420万バレルを目安に放出する」ようですが、「米国の放出量の5000万バレルは6億バレルの備蓄の約8%に相当。

国内需要の約3日分にあたる量」ということは、全体で約38日分しかアメリカの石油備蓄がないことを意味します。

他方、冒頭の別記事では「日本の石油備蓄は9月末時点で国内需要の240日分程度。内訳は国家備蓄が145日分、石油会社などに義務付ける備蓄が90日分、産油国共同備蓄が6日分で、このうち国家備蓄を放出する」旨の話ですから、誤解かもしれないですが、日本の方が石油備蓄に余裕があるように思えます。

2021年11月24日 10:35 (2021年11月24日 10:59更新)

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松尾博文
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
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分析・考察

今回の放出は前例のない行動です。

石油危機をきっかけに誕生した国際エネルギー機関(IEA)が主導する備蓄は、動乱などによる供給途絶へ備えるもので、原油高での放出は想定していません。

2008年に原油価格が147ドルの史上最高値をつけたときもIEAは動きませんでした。市場に介入することが役目ではないからです。

今回の協調放出にはIEAの正式メンバーではない中国、インドが加わっているとされます。その点でも前例がありませんが、市況安定の効果は微妙です。産油国が蛇口を閉めれば放出の効果は一瞬で吹き飛びます。

OPECプラスが増産を続ければ急落もありえます。市場に首を突っ込むやり方は上手な策とは思いません。

2021年11月24日 7:00 (2021年11月24日 10:50更新)

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菅野幹雄
日本経済新聞社 ワシントン支局長・本社コメンテーター
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ひとこと解説

バイデン米大統領は備蓄放出に関する声明を読み上げた直後、東部マサチューセッツ州の島に飛び、感謝祭の休暇に入りました。

バイデン氏の追い込まれた立場を象徴する展開です。

野党・共和党はガソリン高を政権の落ち度としてこの数カ月攻撃していたものの、バイデン氏は聞く耳を持たない様子でした。

ところが支持率の低下の主因の一つが物価上昇、とりわけガソリン高であることが明白になり、休暇シーズンを目前に、前例のない苦し紛れの実力行使に出たということでしょう。

備蓄の放出で「ガソリン価格は下がる」とバイデン氏は明言しましたが、空振りに終われば、傷口はさらに広がりかねません。

2021年11月24日 9:32

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鈴木亘
学習院大学経済学部 教授
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分析・考察

これを機に、各国の石油備蓄量を格段に増やして、石油価格高騰時に共同放出を行うことを常態化してはどうか。

備蓄量をもっと増やせば、必ず価格に影響できるようになるだろう。あるいは、放出までしなくても、放出されるという恐れがあること自体が、石油価格安定化に寄与する。

備蓄には莫大なコストがかかるという反論もあり得ようが、石油を備蓄することは安全保障や経済安定化に大いに寄与する。また、石油価格が下がったところで買い入れ、石油高騰時に放出すれば、巨額の利益を生むことになる。

むしろ、戦略的に備蓄業を大々的に行って良い。OPECという石油カルテルに対抗するためには、非産油国の備蓄カルテルを機能させることである。

2021年11月24日 8:29
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志田富雄
日本経済新聞社 編集委員

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分析・考察

23日の欧米市場では原油相場が大幅に上昇し、米原油先物(期近)は1バレル78ドル台半ば、欧州のブレント先物は80ドルを再び大きく上回ってきました。備蓄放出はすでに相場に織り込まれ、むしろ内容は想定ほどではなかった、との声が聞かれます。

市場の関心は備蓄放出に対し「OPECプラスが規定の増産計画を見直すか」に移っています。

備置放出が市場に新たな強材料を提供する結果になりました。石油や天然ガスの需要が強い間は、主導権をサウジアラビアやロシアなどの有力産油・産ガス国に握られることになります。

2021年11月24日 7:10 』