[FT]ロシア大統領、譲れないウクライナとの「一体感」

[FT]ロシア大統領、譲れないウクライナとの「一体感」
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『急激なインフレに見舞われ、新型コロナウイルスの「ワクチンパスポート」導入への動きが国民の反発を呼ぶロシアでは、国営テレビの最も視聴率の高いニューストーク番組が厳しい状況の中で一つのテーマを繰り返し取り上げている。「兄弟国家」からロシア大統領府の頭痛の種に転じたウクライナだ。
ウクライナ東部ドネツク近郊で警戒にあたる親ロシアの分離独立派の戦闘員=ロイター

ウクライナ国境付近での兵力増強を巡る西側との緊張の高まりは、同国に対するロシアの執着を浮き彫りにした。ウクライナ東部ドンバス地方では、7年に及ぶ代理戦争で1万4000人以上の死者が出ている。

ウクライナとロシア政府が操る分離独立派の紛争について、ロシアのプーチン大統領は自国の関与を全面否定しているが、プーチン氏は先日、外交当局者らへの30分間の演説でウクライナを中心に据え、戦時体制は西側にロシアの「レッドライン(越えてはならない一線)」を踏み越えてはならないことを改めて思い知らせるものだと述べた。

ロシアのペスコフ大統領報道官によると、その一線には北大西洋条約機構(NATO)がウクライナを加盟させないと約束することが含まれている。「我々にとって極めて望ましくなく、受け入れられないシナリオ」だという。
文化や親族関係で両国は深いつながり

ロシア人にとってウクライナ問題は感情がからむ問題だ。何年もの紛争下にあるとはいえ、文化や親族関係を通じてウクライナとは深いつながりがあるからだ。

ロシア国営テレビで最も人気のあるトーク番組「60ミヌート(60分)」の共同司会者を務めるエフゲニー・ポポフ氏は、それを端的に示す存在だ。同氏は、ウクライナのある町(地名は明かしていない)にいる父親に会いに行くことができない。ウクライナの治安機関によって入国を禁じられているからだ。

「人々は娯楽のためにこうした番組を見ているのではない。自分の親類や愛する人たちに何が起きているのかを見ているのだ」とポポフ氏は言う。

「私たちは一つの民で、基本的に同じ場所にいる。ただ一部の悪い連中のせいで、国境線の反対側にいるということになっただけだ」

ウクライナから西側の影響を排除しようとするプーチン氏の願望の根底には、ウクライナは「ロシアの世界」の不可分の一部だという確信があると専門家は指摘する。かつてのロシア帝国とソ連に根差すモスクワ中心の勢力圏のことだ。

プーチン氏は、数百万の親族をウクライナ国境の両側に引き裂いたソ連崩壊を「20世紀最大の地政学上の惨事」と評し、ウクライナがロシアから離れた根拠に疑義を呈している。
プーチン氏は国内外のロシア人の「守護者」か

2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を併合した後、プーチン氏は同半島について、キエフ(現在のウクライナの首都)を中心とした中世国家「ルーシ」で初めてキリスト教徒の支配者となったウラジーミル1世が988年に洗礼を受けた地で「ロシアの神殿の丘」だと世界的な聖地になぞらえた。神学的には根拠のない論だが、プーチン氏は国内外のロシア人の守護者ということになる。

ロシア政府は、ウクライナ政府がウクライナ語の優先使用を高めるための法律を導入したことに抗議し、思想を実践に移そうとした。新法は公共の場でのロシア語の使用の制限や、ロシア人をウクライナの「先住民族」リストから除外することなどを規定している。

ウクライナではロシア語を母語とする人たちの一部もウクライナ語を使うようになっており、新法に対する反発は比較的小さかったが、ロシアのテレビにたっぷりと話題を提供する形となった。

「彼らはロシア人を滅ぼそうとしている。私たちはその人たちを救う必要がある」とポポフ氏は語った。

プーチン氏は7月に5000語の論考を発表した。自らの歴史研究に基づくとおぼしき論考の中で、「ウクライナの真の主権はロシアとの協調においてのみ可能であると私は確信している」と書いている。

政治分析会社R.ポリティークの創業者、タチアナ・スタノバヤ氏はこう指摘する。「ウクライナ国民は基本的にロシア人と一体であり、従ってロシアとの統合を支持すべきであるというのがプーチンの解釈だ。ところがウクライナは西側の言いなりになっているので、ウクライナの人々はだまされて地政学ゲームの人質にされているということになる。米国が去れば一つの国になり、全てがうまくいく。プーチンはそう考えている」

プーチン氏はウクライナのゼレンスキー大統領と会談するよう求める要請をかわし、ウクライナの和平プロセスに明らかに関心を失っていることから、論考は同国内でプーチン氏はもっと壮大な構想を描いているとの懸念を引き起こした。

ウクライナのクリムキン元外相は、「プーチン氏は新たな種類の帝国を再び樹立することに使命感を持っている。それが彼の心の奥深くにある。ウクライナがうまくいくことだけでなく、ウクライナが別の道を歩むことも全てロシアの神話にとって大きな打撃になる」と語る。
「ロシア人とは別の価値観」とウクライナ元外相

ロシア西部クルスクで生まれたクリムキン氏は、さらにこう話した。「歴史や言語、気質、国家を含めて、ウクライナのアイデンティティーというものはないというのがロシア側の物語だ。プーチンのウクライナに対する姿勢はおよそ道理に反している。ウクライナ人とロシア人は別々の価値観を持っている」

カーネギー財団モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長は、ロシアは14年までビジネスを通じて深くつながっていた新興財閥のエリートたちと直接的に取引しようとして、近年のウクライナ社会の変化について学ぶことを怠ったと指摘する。

その狭い視野のせいで、ロシア大統領府は親西側感情の高まりを見くびってしまったとトレーニン氏は言う。04年のオレンジ革命や10年後の抗議活動「ユーロマイダン」をウクライナ社会の大きな変化を映し出すものとして受け止めず、外国勢力による策動と切り捨ててしまった。

紛争によってそうした社会の変化は、「ウクライナが別個の国であるということとロシアとの実体的な統合とは完全に相いれない」という域まで達したと同氏は説明する。

ポポフ氏は、ウクライナのロシアとの文化的つながりが安全保障を巡るロシア政府と米国の対立を一層強烈なものにしたと話し、ウクライナでの最近のNATOの軍事演習と西側のウクライナ軍への支援をキューバ・ミサイル危機になぞらえた。

「この問題を捉えた素晴らしいジョークがある。ロシアと米国はウクライナ人が1人もいなくなるまで戦い続けるというものだ」とポポフ氏は話した。「米国ははるかかなたに位置し、それは地政学上の強みだ。そしてミサイルやミサイル迎撃システム、戦車、兵員、基地はウクライナ領内にある。私たちが我慢すべき理由があるだろうか」

By Max Seddon

(2021年11月20日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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