習近平氏、対米「裏パイプ」人脈を冷遇

習近平氏、対米「裏パイプ」人脈を冷遇 権限一手に
中国総局 羽田野主
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM025W10S1A101C2000000/

『中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が同国の「米国通」を冷遇する動きを見せている。とくに米中の「裏パイプ」といわれた習氏の母校、清華大学経済管理学院顧問委員会のメンバーを遠ざけている。2022年秋に開く共産党最高指導部を決める5年に1度の党大会を前に、対米外交を一手に握る狙いがありそうだ。

習氏は12年に総書記に就任後、清華大経済管理学院顧問委員会のメンバーを丁重に扱ってきた。米中ともに経済界の著名なメンバーが名前を連ねており、米中経済のひとつの結節点とみていたためだ。13年10月には同顧問委員会のメンバーを北京の釣魚台国賓館に招いて会談している。清華大の当時の発表によると、米大手投資ファンドのカーライル・グループの幹部らが参加した。
米中衝突の緩和に寄与

習氏と清華大のつながりに焦点が当たったのが17年11月上旬のトランプ米大統領(当時)の訪中だ。習氏はトランプ氏の訪中直前の同年10月末に北京の人民大会堂に同顧問委のメンバーを招待して会談した。米中の経済界の重鎮らを前に習氏は米中経済の「互恵関係」の重要性を訴えた。

米貿易赤字の是正を強く求めてきたトランプ氏との正面衝突が懸念されたが、ふたを開けてみると米中企業が交わした契約は総額約2500億ドル(約28兆円)に上った。このため同顧問委が米中衝突の緩衝剤の役割を果たしたとの見方が広がった。

ところがここ1年間で、同顧問委のメンバーが中国当局に問題を指摘される例が目立つようになった。典型的なのが中国のネット通販最大手、アリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏だ。

20年11月、アリババ集団傘下の金融会社、アント・グループは香港、上海で計画していた新規株式公開(IPO)の延期に追い込まれた。経営権を実質的に握るジャック・マー氏も金融当局の聴取を受けた。ジャック・マー氏はトランプ氏が大統領就任の直前に会談してみせて、世界を驚かせたこともある。だがアントの上場延期を境に中国メディアへの露出も大きく減った。

今年4月には国務院(政府)直属で政策金融を担う中国国家開発銀行のトップだった陳元氏の側近が汚職で摘発された。陳氏も同顧問委のメンバーで、米紙などによると14年にニューヨーク証券取引所に上場したアリババ集団の株主だった。ジャック・マー氏の後ろ盾との見方も出ていた。

中国の金融業界への影響力を通じて米国とパイプがあったといわれる王岐山(ワン・チーシャン)国家副主席にも逆風が吹いているようだ。中国共産党の汚職や腐敗を取り締まる中央規律検査委員会は10月に大手国有銀行など金融分野の25機関に幹部の不正を取り締まる特別チーム「中央巡視組」を派遣した。王氏の金融界への影響力をそぐ狙いとの見方が出ている。
米中関係の変化が背景に

米国への留学経験がある易綱人民銀行総裁も党内で影が薄くなっている。同氏はいまなお中央委員候補で、党序列200位以内の中央委員に入っていない。中国の重要閣僚は年に1度の中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)に合わせて人民大会堂の通路に立ち、記者の質問に答える機会がある。「習氏に近い閣僚が選ばれている」との観測も出るなかで、易氏は2年連続で姿をみせなかった。

習氏の「対米ブレーン」とも称された同顧問委のメンバーがここにきて冷遇されているのはなぜか。それは米中関係や習指導部の経済政策が大きく変化したためだ。

米中はいま「新冷戦」といわれるほどに関係が悪化した。習指導部は米国との関係改善を急がなくなった。このため顧問委メンバーの助けを借りる機会がなくなったとみられる。むしろ習氏は外交や軍事、経済政策まですべての権力を自身に集中させようとしている。自分の知らない米国とのパイプを持っている「米国通」はむしろリスクととらえるようになった可能性さえある。

顧問委への冷遇ぶりと対照的な動きも起きている。習氏は今夏に中国駐米大使に米国での勤務経験がない秦剛氏を起用した。崔天凱前駐米大使は中国で指折りの米国通といわれたが、様変わりした。

中国外交筋によると、秦氏は儀典などの習氏の身の回りでの仕事が評価され、信頼を得るようになった。習氏の意向を忠実に対米外交に反映させることのできる人物とみられたことが抜てきにつながったようだ。秦氏は11月13日に台湾政策を巡り「武力使用を放棄することは決して承諾せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を保留する」と発言。11月中旬の米中首脳のオンライン協議を前に、バイデン米政権に警告する役割を担った。

もとはといえば清華大学経済管理学院を創設したのは朱鎔基元首相で、いまも名誉主席に就いている。同氏は江沢民(ジアン・ズォーミン)党総書記(当時)のもとで首相を務め、国有企業の改革に大なたを振るった。経済改革を志向するメンバーが顧問委に名前を連ねているのはこの影響も大きい。

習指導部も当初は市場機能を重視した経済改革を唱えていたが、いまは「国進民退(国有企業が前進し、民間企業は退く)」と呼ばれる国有企業重視にシフトした。朱氏は以前、共産党の長老として、習氏の経済政策を厳しく批判したとの噂も流れた。もはや習氏と顧問委のメンバーで考え方が合わなくなっているのかもしれない。

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