COP26、立ちはだかった中印 土壇場で文書修正

COP26、立ちはだかった中印 土壇場で文書修正
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR134J40T11C21A1000000/

『【英北部グラスゴー=竹内康雄】13日夜に閉幕した第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)。最大の焦点だった石炭火力の利用に関する合意文書の表現は「段階的廃止」から「段階的削減」に最終局面で書き換えられた。土壇場で表現を弱めざるを得なかったのは、10月31日に開幕して以降、先進国ペースで交渉が進んできたことへの新興国の強い反発があったからだ。

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もともと新興国に不満はくすぶっていた。そこで議長国の英国は12日までの予定だった会議を延長し、13日朝に合意文書の再改訂案を各国に提示した。「誰かが引っ張れば、合意は簡単に壊れてしまう」。全体会合でシャーマ議長は文書は微妙なバランスの上につくられたと説明し、合意を促した。

「満足はしていないが、妥協の精神を持ちたい」(カリブ海の島しょ国アンティグア・バーブーダ)。「完璧ではないが、受け入れられるものだ」(コスタリカ)。多くの途上国は不満をあらわにしつつ、受け入れると表明した。

ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)は「力強い文書だ」と評価し、欧州連合(EU)のティメルマンス上級副委員長が「緊急性を持って行動するよう背中を押す内容だ」と語ったのとは対照的だった。ここまでは先進国ペースで会議で進んでいたことを示す。

シャーマ議長が示した再改訂案に途上国は2つの点で不満があった。

一つは先進国から途上国への排出削減に向けた資金支援だ。先進国は2009年、20年までに年1000億ドルを支援すると約束したはずだった。その達成は22~23年にずれ込む。途上国は「約束を破った」と非難した。文書は「深い遺憾」を表明し、できるだけ早く達成するとの努力目標を示しただけだった。

もう一つは温暖化に伴う異常気象など「損失と被害」に関する対応だ。途上国は温暖化で受けた被害を相殺するため、先進国に具体的な資金支援計画をつくるよう求めていた。しかし気候変動論議のけん引役であるべき米国とEUが最後まで首を縦に振らず、新たな対話の場を設けるにとどまった。

強い政治力と資金力を持つにもかかわらず、自らに有利なように交渉を進める先進国。ボリビア代表からは「我々は炭素(カーボン)植民地主義にとらわれるのを拒否する」との声が漏れた。

それでも合意案(再改訂案)は採択されるとみられていた。会場の空気が変わったのは13日夕。中国とインドが立ちはだかった。「経済発展と貧困の撲滅を追求する途上国が、石炭を段階的に廃止するなどと約束できるだろうか」。インドのヤダフ環境相が反対論をぶち上げると、会場がざわついた。

土壇場での予期せぬ異議申し立てに会議(全体会合)は急きょ中断された。実質的に途上国の後ろ盾となっている中国もインドに同調。ケリー氏ら米中印EUの代表が別室に移動して協議に入った。数十分後に4人が出てきた後もシャーマ氏が手にノートを持ちながら最終的な文言調整に奔走した。

シャーマ氏が全体会合を再開すると、ヤダフ氏が「段階的廃止」から「段階的削減」に変更するよう逆提案。押し戻された先進国と、温暖化の影響をうけやすい島しょ国などは相次いで「最後の最後での表現変更には失望した」(マーシャル諸島)と発言したが、合意の採択自体は容認した。

最終局面で中印に譲歩したCOP26。先進国に気候変動対策の主導権は握らせないという新興国の意思表明にみえた。石炭廃止に力を注いでいた英国にとって、この変更は小さくない。「深い失望を理解する。全体の合意を守ることも重要だ」。英出身のシャーマ氏はうつむきながら語った。

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森幹晴
弁護士・東京国際法律事務所 代表パートナー
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別の視点

気候変動枠組み条約の脱石炭火力は、単なる気候温暖化防止の視点だけでなく、欧米主導による脱炭素ベースの世界経済へのゲームチェンジの取り組みと捉える必要がある。

産業革命以来、化石燃料で先進国が築いてきた経済モデルを後から猛追する途上国を封じ込め、欧米が主導権を握る世界経済構造を構築する意図がある。

その中心領域がエネルギー業界と自動車産業だ。中国、インドが反対の声を上げたが、石炭火力に頼る日本が封じ込められる側に回るのは標準化競争に後手を踏むことになり、将来の世代と日本経済にとって得策でない。こうしたゲームチェンジの意図を理解し、政府、産業界を挙げて産業構造を変えていく戦略と覚悟が求められるだろう。

2021年11月15日 10:29 (2021年11月15日 10:30更新)

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高村ゆかり
東京大学未来ビジョン研究センター 教授
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ひとこと解説

赤川編集委員のコメントに賛同。

COP26の最後で石炭火力に関する文言が争点となった。合意文書の文言は「段階的廃止」から「段階的削減」に変わり、弱いものとなったとはいえ、エネルギーの選択は国の主権の問題であるとして、これまでの合意文書では「石炭火力」が言及されてこなかったことから考えると、「削減」の文言は石炭火力からのエネルギー転換の大きな潮流を感じる。
英国、イタリア作成の「石炭からクリーン電力への移行」声明は、主要経済国は遅くとも2030年代、世界で遅くとも2040年代の石炭火力廃止を盛りこむが、韓国、インドネシア、ベトナムも含む約50カ国が参加。こうした動きをしっかり見据える必要がある

2021年11月15日 5:18

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松尾博文
日本経済新聞社 編集委員・論説委員

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別の視点

欧州の失望はいかばかりでしょう。

これで石炭火力は延命したと考えるのも早計でしょう。

ただ、インドの立場で考えてみるとどうでしょうか。13億の民の代表としてCOPに臨んだ環境相はあの場であの一言を言わなければ国に不利益をもたらしたと責めを受けるでしょう。

パリ協定を維持・前進させるには、先進国が途上国に「気候正義」を押し付けるのではなく、排出削減に共に取り組み、利益も負担も分け合う環境の醸成が必要ではないでしょうか。

そうでなければ遠からずパリ協定は崩壊する、そんな気がします。

2021年11月15日 8:45 (2021年11月15日 8:50更新)

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赤川省吾
日本経済新聞社 欧州総局編集委員

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今後の展望

石炭火力の継続が容認された、と思って日本は安心すべきではありません。確かに石炭火力についての合意文書の表現は「段階的廃止」から「段階的削減」に弱められました。だからと言って欧米諸国が石炭火力の廃止を撤回するわけではありません。

日本の試練は来年のG7。議長国ドイツは温暖化対策を議題に据えるつもりです。

先日、次期首相ショルツ氏と夜半過ぎまで飲む機会がありました。長時間にわたる議論からは「環境問題を牽引しなくては」という使命感が感じられました。年内にも発足するドイツ新政権には環境政党の緑の党が与党として加わります。

G7で孤立しないためにも日本は石炭火力廃止に向かうべきだと私は考えます。

2021年11月14日 22:57 』