習氏を待つ「独裁のワナ」 狭まる世界の予見性

習氏を待つ「独裁のワナ」 狭まる世界の予見性
中国共産党、6中全会で第3の「歴史決議」採択
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM062DG0W1A101C2000000/

『「歴史は勝者がつくる」というが、11日に中国で新たな歴史が紡がれた。中国共産党は毛沢東、鄧小平の時代に続く第3の歴史決議を採択し、習近平(シー・ジンピン)党総書記(国家主席)は新時代をも担い続ける唯一無二の指導者になろうとしている。

100年分の歴史決議の概要でほぼ半分を占めた習氏に関する記述は輝かしい賛美であふれていた。これが中国にとって未来も変わらぬ真実の歴史となるかはわからないが、習氏の権力闘争のリアルな軌跡を表しているのは間違いない。

2012年の政権発足時、習氏の政権基盤は決して強くなかった。前任の江沢民(ジアン・ズォーミン)、胡錦濤(フー・ジンタオ)両氏のように「鄧の指名」という大義名分もなく、集団指導体制を支える党中央政治局常務委員会を始め、あらゆる方面に江氏の影響力が及んでいた。

それでも習氏が今日の力を勝ち得た背景には、歴史決議にも記された反腐敗運動や人民解放軍改革を通じた利権集団との闘争がある。

政敵の扱いは苛烈だった。周永康元中央政治局常務委員や薄熙来元重慶市党書記・中央政治局委員、軍の制服組ツートップなど何人もの幹部が刑に服した。

鄧小平の親族で江氏に近い保険会社董事長、呉小暉氏は懲役18年と857億元(約1兆5000億円)の財産没収となった。江氏一派の資金洗浄役とされた投資家の肖建華氏は香港で連行されて行方不明、同じく頼小民氏は判決から3週間後に死刑となった。

今回の歴史決議は「社会主義現代化国家の全面建設」や「共同富裕」など習氏が掲げる政策を未来への道筋と定め、習氏の長期政権を可能とする権威と論理を確立した。

では、習氏の闘争は終わりを迎え、党は安定期に向かうのか。現実には、習氏自らが傾倒する党の本質がそれを阻む可能性が高い。

「我々は革命者だ。社会革命を継続しなければならない」。習氏は17年党大会後の勉強会で党の精神を改めて定義づけた。一時盛り上がっていた「革命党」から「執政党」への脱却論を打ち消した形だ。

習氏の言い回しは毛が唱えた継続革命論と似通う。人は絶えず旧体制や資本主義への逆行を謀るため革命は継続されねばならない――。毛はこんな主張を借りて反右派闘争や文化大革命を仕掛けては自身の権威を高めた。

一方、鄧による1981年の歴史決議は闘争論を否定し、個人崇拝を禁じた。鄧が敷いた集団指導体制は今、習氏のもとで次第に形骸化し、共産党は執政党から遠ざかりつつある。そして今回の歴史決議は改めて権力一極集中へのパラダイムシフトを決定づけた。

習氏が毛の継続革命を継承するならば習氏の闘争に終わりはない。その先に待つのは「独裁のワナ」だ。粛清をすればするほど潜在的な敵は増え、恐怖政治を先鋭化せざるを得なくなる。

6中全会に向けて党系メディアが習氏の礼賛記事を量産していた10月中旬、「解放軍報」の片隅に奇妙な記事が載った。内容は中国人なら誰でも知る明時代の史実のみ。意図は不明だが、要約すると「退位した皇帝が帝位を奪還した時、臣下は反対せずに受け入れた」。習氏は軍を掌握したが、その過程で多くの人が闘争に巻き込まれた。深層にひそむ人々の心を見極めるのは容易ではない。

政治体制の脆弱化も避けられない。為政者を喜ばすために情報の美化は加速し、いつしか指導者自身も何が真実かわからなくなる。ブレーンも後継者も育たない。

「2020年末までに貧困人口をゼロにする」。15年に習氏が掲げたこの目標を死守するため、地方政府は躍起になって資金をつぎ込んだ。いま多くの寒村には真新しいアパートや各種インフラが立ち並ぶ。

10月上旬、貴州省畢節市は同市幹部が国家安全省から表彰されたと発表した。脱貧困を取材していた海外メディアを通報したためだ。脱貧困が「人類の奇跡」(人民日報)なら、なぜ外の目を恐れる必要があるのか。

米中対立や台湾有事、中国景気や不動産バブル――。中国は今や世界の命運をいくつも握る。その行方を揺るがす習氏が「オルタナティブファクト(もう一つの真実)」の世界に生きていればどうなるか。世界の予見性は狭まるばかりだ。

年内に習氏はバイデン米大統領とオンライン会談を予定する。習氏の耳に言葉を届けられるのはもはやトップの孤独を共有できる為政者同士しかいないかもしれない。習氏をいかに世界につなぎとめるか。それが新たな世界の課題になろうとしている。

(中国総局長 桃井裕理)』