宏池会の伝統、政権の行方
政界Zoom
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA275WW0X21C21A0000000/
※ 宏池会は、自民党の中では「リベラル寄り」で、ずっと「お行儀の良い”お公家さん”集団」と揶揄されて来た…。
※ 登場して、喋っている人たちも、言ってる内容も、そういう感じだな…。
※ しかし、「今現在の情勢」は、そういう「伝統的なリベラル」で対処できるような生易しいものじゃないだろう…。
※ 「新しい資本主義」「分配と成長の好循環」とか、「空虚なスローガン」を並べているだけで、問題解決するとも思えない…。
※ まあ、まだ「政策の中身」すらはっきりしない段階だからな…。
『自民党総裁選で岸田文雄氏が勝利し首相に就任した。宏池会(現岸田派)トップの首相は1993年まで務めた宮沢喜一氏以来、28年ぶりだ。首相が就任後すぐに断行した解散・総選挙で自民党は261議席と絶対安定多数を獲得した。宏池会の議員OBらに政権の展望と首相への注文を聞いた。
存在意義は安定と永続性 元運輸相・森田一氏
衆院選は岸田文雄首相にとっていい結果になった。あの人に任せておけば希望に反することはないという安定感が首相にある。
私が秘書官を務めた大平正芳(元首相)の安定感に通じるものがある。岸田氏が首相になる前は時折電話で連絡をとっていた。宏池会を立ち上げた池田勇人元首相、大平のあとを継ぐ首相になるよう望みたい。
新型コロナウイルスの感染拡大で経済が難しい状況にある。首相にとっては試練だと思う。大平は学者グループをブレーンにしていた。首相は「新しい資本主義実現会議」を立ち上げた。学者や言論人の知識を活用して乗り切ってほしい。
首相は国民の声をノートに書き留めていることが話題になった。大平もノートに大量にいろいろなことを書き留めていた。好き嫌いとか人物評も含めてかなり生々しいことが書いてある。
日本政治や自民党にとっての宏池会の存在意義とは「安定性と永続性」だと考える。自民党の派閥の歴史をたどると、トップが変わるとがらっと中身が変わってしまう派閥もあった。
その点宏池会には一本の筋がある。名前も変わらない。平和主義とか国際性とかの理念がずっと続いている。
時代とともに変わってしまったのは個々の政治家の派閥のリーダーへの忠誠心だろうか。池田氏にも大平にも、この人のためなら死んでもいいという周辺がいた。今の政治家はその心意気が乏しくなっている。
最近の政策で気になるのは財政の持続性だ。これは首相は将来への責任として目指していかないといけない。
外交では中国や北朝鮮の情勢を最も考えるべきだ。中国はこれからもどんどん大きくなる。日本の中国との付き合い方は難しくなる。
大平が田中角栄元首相と取り組んだ日中国交正常化は私も中国に随行しエキサイティングな体験だった。当時は日本は中国の先生といわれた。今は違う。
大平の遺産として忘れてほしくないことは庶民の感覚だ。エピソードを紹介すると、大平は風呂に入ったときに湯があふれると機嫌が悪くなった。もったいないだろうと。
夜に家に帰ってくる前に秘書は家中の電気を消した。首相は世界を見渡すことも大事だが、一般の人の目線を持つことも必要だと感じる。
「新自由主義」から脱却を 元厚生労働相・柳沢伯夫氏
28年ぶりに宏池会政権が誕生したのは社会が疲弊した日本を立て直してほしいという国民の期待のあらわれだろう。岸田文雄首相には宏池会の伝統と理念に基づいて日本を引っ張っていってほしい。
最も期待するのはいきすぎた規制緩和とそれに伴う非正規雇用の増加の是正だ。首相も言う「新自由主義的政策」からの脱却が不可欠になる。
労働者の派遣先として製造業も認めた法改正はよくなかった。非正規雇用が増えたことはいろいろな社会問題につながっているのではないか。
自民党が衆院選で勝ったのは首相が掲げる新自由主義からの脱却が信任を得たためだといえる。
首相自身の選挙を経た変化も衆院選での勝利につながった。かねて批判を受けた「カリスマ性がない」「力強さが足りない」という姿は見るかげもなかった。
選挙戦終盤の応援演説では創設者である池田勇人元首相の演説に見劣りしない力強さを感じた。
一方で政策にはもう少し具体性を持たせるべきではないか。例えば首相が掲げる「成長と分配の好循環」の成長について、どの分野での成長を目指しているのかが具体的に見えてこない。
首相の頭の中にはあると思うが、情報産業やプラットフォームビジネスなどに絞り経済の成長を強く打ち出すべきだ。米国の巨大IT企業、GAFAなどが猛烈に利益をあげている。日本は私が現職議員の時代から遅れたままだ。
財政再建は常に頭に置いておかなければいけない課題だ。将来に禍根を残すと意識しにくい仕組みになっていて危機感が足りない。
今すぐどこを増税したら解決するという話ではないが、最終的に頼るのは消費税になる。将来的には増税を検討していくことになるだろう。
所得税や法人税の増税も理解はできるが、他国との競争があり日本だけ高くすることはできない。
首相には宏池会らしい外交を見せてほしい。宏池会の理念は「軽武装・経済重視」だが、これは経済さえやっていれば外交や防衛を考えなくていいということではない。
大平正芳元首相が外相として活躍したのも参考にしながら、これまでのやや右派的な外交から路線をシフトすべきだろう。
首相は外相経験が長いこともあり、ややもすると外交観が外務省寄りになってしまう部分もあるかもしれない。宏池会の外交の基本は「中道」だ。
(聞き手は神保寧央)
権力の行使、抑制的に 独協大学教授・福永文夫氏
宏池会は「保守本流」とされる。米国との講和、独立で日本の基礎を築いた「吉田政治」を源流とする政治潮流が保守本流だと言われる。
政策面では対米協調、平和憲法堅持、開放経済、対中関係改善・アジア重視の外交が特徴だろう。政治行動としては寛容と忍耐、話し合いの政治を重視してきたとOBは語る。
池田勇人、大平正芳元首相らは60年安保で分断された国民を統合した。彼らが形づくった「戦後保守」は国家主義ではなく国民とともに歩む保守だと考える。
岸田文雄首相の政策には宏池会に受け継がれてきた構想のエッセンスが染み込んでいるように思える。
新自由主義に対する「新しい資本主義」の実現、成長と分配の好循環、デジタル田園都市国家構想などが一例だ。だがどのような未来図を描くかはまだ見えてこない。
リベラリズムとは他者に寛容であることだ。池田氏、大平氏らは野党や国民との対話による合意形成が政治の要諦であると知っていた。国民に寄り添う姿勢があり国民とともに歩もうとしていた。権力の行使には極めて抑制的で懐疑的だった。
首相は人の話を聞く能力には自信があるという。議会のライバルである野党だけでなく、その向こうにいる国民にどう語りかけることができるかが問われている。
記者の目 経済や外交、時代との戦い
宏池会は5人の首相を輩出してきた。創設者の池田勇人氏、大平正芳氏は自民党内の権力闘争をへて宰相になった。大平氏は田中角栄氏との盟友関係をてこに総裁選で現職首相の福田赳夫氏を破った。
鈴木善幸、宮沢喜一両氏は戦って勝ち取った首相とは言いがたい。鈴木氏は大平氏の急死を受けた裁定による選出だった。宮沢氏は当時の竹下派の支持を得た。同派の会長代行の小沢一郎氏が総裁候補を「面接」したエピソードは有名だ。
岸田文雄首相が選ばれた総裁選は派閥の合従連衡はあったが、かつての会長が経験した戦いの場面もあったように感じる。
森田氏は派閥の理念に「安定」を挙げた。安定は経済成長と確かな外交・安全保障が前提だ。池田、大平両氏とは異なる時代状況との戦いが待ち受ける。(亀真奈文)』