原発回帰を世論が後押し フランス、産業振興も

原発回帰を世論が後押し フランス、産業振興も
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR100VZ0Q1A111C2000000/

『【パリ=白石透冴】フランスのマクロン大統領は9日、原子力発電所の建設を再開すると発表した。安定した電力供給を続けながら脱炭素を進めるには原発の活用が不可欠と説明した。原発に回帰した背景には、2022年の大統領選を前に原発に肯定的な世論を重要視するとともに、自国の原子力産業を支援する狙いもあるようだ。

「これがフランスの強いメッセージだ」。英国で第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が開かれているなか、マクロン氏は温暖化対策の切り札として原発の建設再開を打ち出した。国内での新規着工は07年以来となる。

原発推進についてマクロン氏は演説で「ここ数週間、ガスや電力価格が高くなっている。急いで対策を取らなければいけない」と主張した。気象条件で発電量が左右される再生可能エネルギーだけでは安定的な電力の供給体制はつくれないとの考えを強調した。原発の活用で電力の安定供給と脱炭素の両方を実現できるとする立場だ。

AFP通信などによると欧州加圧水型原子炉(EPR)を最大で6基建設する計画を数週間以内に明らかにする見通し。マクロン氏は10月に発電規模の小さい原子炉「小型モジュール炉」を30年までに国内で複数導入すると表明している。11年の福島第1原発の事故などを受け、オランド前大統領が25年までに依存度を7割から5割に下げるとの目標を掲げて以来、仏は再び原発推進にかじを切る。

マクロン氏が原発推進に方針転換した背景には大統領選を前に世論を取り込みたいとの思惑が透ける。仏メディアが10月に報じた世論調査によると、原発を国の利点だと考える人は50%だった。19年の調査では34%で、原発が気候変動対策に必要だという仏政府の主張は支持を広げている。再選を狙うマクロン氏に国民の反応は重要だ。

原子力産業を支援する狙いもある。フランスが手掛けたEPR建設はフィンランドで工期が大幅に遅れて巨額の赤字を出したほか、仏北西部フラマンビル原発で07年に始めた建設計画はいまだに終わっていない。新たな原発建設で技術力や知見の向上を目指す考えだ。AFP通信によると、EPR6基をつくった場合、必要な費用は460億ユーロ(約6兆円)と見積もられる。

欧州連合(EU)は50年に温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げている。旗振り役であるフランスは目標達成で各加盟国に手本を示す必要もある。火力発電への依存度をさらに下げるためにも、仏にとっては原発の再建設以外に残った道は無いと判断したもようだ。

大陸欧州では国境を越えて互いに電気を融通し合っており、原発促進による安定的なエネルギー供給は欧州のエネルギー安全保障を守るという意味合いもある。欧州で深刻な問題となっているエネルギー価格急騰のような事態の再来を防ぐ狙いもある。

英国も原発の活用で温暖化ガス削減を進めるとの立場だ。10月、小型モジュール炉などの原発開発や技術の維持のために1億2000万ポンド(約180億円)の新基金をつくると発表した。遅くとも24年までに1基以上の新規の大規模原発の建設を決める方針も明らかにしている。

COP26の開催中というこのタイミングでの発表は、欧州各国にフランスの方針に賛同を呼びかけるという意味合いも込められている。今後、英仏の判断に追随する国が他にも欧州で出る可能性もある。

一方でドイツはこれまで脱原発を掲げており、石炭火力発電への依存度が高いとの指摘がある。9月の総選挙を経て発足する新政権が、原発についてどのような立場を取るのかに注目が集まっている。
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小山堅
日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員
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ひとこと解説

COP26でカーボンニュートラル目標追求など、脱炭素化を推進する世界の取組みが議論されている中、原子力大国の一つ、フランスが新たな動きに出た。

安定した脱炭素電源としての原子力の重要性に改めて着目し、原子力の新設再開を表明したのである。

フランスも2050年カーボンニュートラル目標を発表していたが、その道筋において原子力の重要性を再確認した格好だ。

今回の発表の背景には、欧州における最近の電力需給ひっ迫や化石燃料価格高騰の影響も考えられる。気候変動とエネルギー安全保障の双方に目配りして、再エネ一本足打法でなく、自らの強みでもある原子力を改めて推進する姿勢を示したフランスの今後の取組みが注目される。

2021年11月11日 11:36 』