「日本は恐るべきタテ社会」

「日本は恐るべきタテ社会」中根千枝さんが残した言葉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD05CCG0V01C21A1000000/

『「日本のタテ社会は恐るべきものですよ。私の本が出た高度成長期の1967年も、そこから沈みゆく時代に入った現代も、変わっていない」

10月12日に94歳で亡くなった中根千枝さんは、ベストセラーとなった著書「タテ社会の人間関係」(講談社現代新書)の刊行から50年たった2017年のインタビューで、自身の主張した日本の社会構造が、驚くほど強固なものであると語っていた。「厳しいカースト制度のあるインドだって、同じカーストの中は日本よりデモクラティック(民主的)です。韓国のタテ社会も日本とは違うし、中国ではタテ社会が壊れつつある」。鋭い分析の弁は、立て板に水のごとく続いた。「日本だって、平安時代や戦国時代はもっと自由だった。江戸時代に入るころ、人口が増える中でタテ社会になっていったのではないか」

中根さんのいう「タテ社会」は、上下関係の厳しさのみを指すわけではない。日本の官庁や企業などが、いくら西欧と同じ組織を導入しても、物事が決まるプロセスや、人間関係のありようは、前近代の農村の寄り合いと同じだということである。職種より所属先(会社名など)を重視する、論理的に発展する議論ができない、対話より共感を優先して和を保つ。さまざまな日本人像が例示される「タテ社会の人間関係」は、多くの人が気軽に手に取れる「新書」の形式だったことも奏功し、累計発行部数は132刷、118万部強に及ぶロングセラーになった。

中根さんは、1950年代から日本の農村やインドなどをフィールドワークし、欧米でも研究した社会人類学者だ。女性初の東大教授、女性初の日本学士院会員、学術界初の女性の文化勲章など、多くの「女性初」を達成した人でもある。でも、本人はいたってシンプルに、自身の関心に従って研究にまい進してきた人のように見えた。

2017年のインタビューでは90歳になっていたが、腰が曲がったことなど物ともせず、東京都内のマンションで一人暮らし。「今はヒマラヤの小王国の16世紀を研究している。結構、忙しいんですよ」と、楽しそうに資料を見せてくれた。「タテ社会の人間関係」の続編も書きたいと話していて、それは19年に「タテ社会と現代日本」(講談社現代新書)という本で実現した。

(編集委員 瀬崎久見子)』