中国、国防動員の法的手続き不要に

中国、国防動員の法的手続き不要に 台湾有事への備えか
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM019M70R01C21A1000000/

『【北京=羽田野主】中国共産党の習近平(シー・ジンピン)指導部が紛争などの「有事」をにらんだ動きを強めている。国防に関する動員の決定や変更について、法的手続きを不要にするように改めた。台湾などを巡り、万が一の軍事衝突に備える思惑のほか、国内引き締めの狙いもありそうだ。

中国は10月下旬に開いた中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)常務委員会で、国が動員命令を発令すれば18~60歳の男性と18~55歳の女性に国防義務を負わせることができる「国防動員法」など関連4法について事実上、習指導部の意向で法的手続きなく変更できることを決めた。

通常の法律制定や法改正は通常1~2カ月に1度のペースで開かれる全人代常務委で原則2~3回の審議が必要になる。今回の決定により、たとえば習指導部の意向で、動員命令の発令のほか、対象年齢を広げることなどが可能になるとみられる。中国は共産党一党支配で、習指導部の意向で法改正が可能だが、全人代の審議などには時間をかける。

習指導部が意識しているとみられるのが台湾や南シナ海などで対立を深める米国との紛争リスクだ。米国は台湾と連携を深め、欧州や日本と中国包囲網の形成に動いている。米中首脳は衝突回避へ対話を継続する方針を申し合わせているが、偶発的な衝突の可能性がくすぶっており、習指導部も危機感を強めているとみられる。

軍への志願者を増やす対策も強化している。人民解放軍の機関紙、解放軍報によると、10月下旬に軍のトップも務める習近平・中央軍事委員会主席(国家主席)が軍人とその両親、結婚している場合は配偶者とその両親まで医療費を優遇する規定を承認した。近くの医療機関で優先的に診察を受けられる措置もとる。

約200万人いる人民解放軍は志願制を主体にして足りない分を徴兵する体制を敷いているが、主に志願者で新兵枠は満たされてきた。中国では少子化や経済状況の改善に伴う進学率の向上などで、若い人の間で軍人のなり手が不足し始めているといわれる。ある海軍OBは「いったん海上に出れば数カ月間はスマホが使えない生活が続く。恋人もできないと、軍人になりたがらない若者が増えている」と話す。

若者向けの思想統制も強めている。中国のテレビや新聞などを管理する党中央宣伝部は10月下旬に上海市、江蘇省、浙江省、湖南省のテレビ局に娯楽番組の作成を抑制するように指示を出した。アイドルの追っかけや宣伝になる内容を「必ず断固として是正せよ」と伝えた。4地域は娯楽番組の制作が盛んな地域として知られ、全国のテレビ局に網をかぶせる目的がありそうだ。

中国当局は全国のテレビ局に2022年末までドラマやドキュメンタリー、アニメ、公共広告などで習近平思想や党創立100年にかかわる内容を取り入れるよう指導した。党最高指導部の人事を決める22年秋の党大会が終わるまで習氏の権力集中が揺らがないように、愛党・愛国教育を強化し国民の意識を引き締める思惑がうかがえる。』