中国公的年金、積み立て不足の懸念 細る現役世代

中国公的年金、積み立て不足の懸念 細る現役世代
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0316F0T01C21A1000000/

『【北京=川手伊織】中国で公的年金の積み立て不足への懸念が強まっている。2020年時点の支払い余力は、過半の地域で政府の基準を下回った。長年の産児制限で人口の現役世代が減り、財政による穴埋め額は増える。政府は定年延長や保険料の支払期間の延長を検討するが、市民の反発は強い。高齢化に対応し、年金制度を持続可能な形に転換する改革は難航している。

都市部で働くサラリーマンや公務員に向けた強制加入の「都市従業員基本年金」(従業員基本年金)の収支や積み立て状況を調べた。中国の公的年金にはほかに、都市部の非就業者や農民が任意で加わる「都市・農村住民基本年金」(住民基本年金)もある。この2つが、20年末時点で計10億人をカバーする。

主流は従業員基本年金だ。20年の支出総額は住民基本年金の15倍だった。

従業員基本年金の保険料負担は、原則として事業主が賃金総額の16%、従業員は8%。事業主が納めた分は、いまの高齢者への年金支給を支える基礎年金の給付にあてられる。従業員の保険料は制度上、積立方式の個人勘定に回るが、実際は退職者への支給を補う部分も多いという。賦課方式の日本の厚生年金に近いともいえる。

従業員基本年金の収入は20年、前年比16%減った。新型コロナウイルスで打撃を受けた中小企業の支援策として保険料負担を減免したためだ。高齢化で支出は4%増えた。積立残高は4兆8300億元(約86兆円)で、同1割超減った。残高が前年を下回るのは比較可能な10年以降で初めてだ。

年金の持続可能性を示す支払い余力も低下。積立残高を月平均の支出額で割った月数をみると、20年は11.3カ月で5年前の16.4カ月と比べて、5カ月分短くなった。

政府系シンクタンクの中国社会科学院などは、9カ月を「基準ライン」、3カ月を「警戒ライン」と位置づける。全国ベースでは基準を上回るが、地域別に見ると16の省・直轄市・自治区で基準に届かなかった。19年から5地域増えた。上海市や浙江省など経済が発展している地域も基準を下回った。

東北地方の黒竜江省、遼寧省、内陸部の青海省は警戒ラインも下回る。黒竜江省は16年以降、積み立てが枯渇。人口流出による急な高齢化で社会保障制度の存続を危ぶむ声も多い。

すでに保険料収入では年金支給を賄えず、赤字幅が拡大している。従業員基本年金のうちサラリーマンや自営業者を対象にした部分をみると、14年から年金支給が保険料収入を上回る。財政からの補塡額が増え、20年は1兆1700億元に達した。保険料収入の4割に相当する。現役世代が細り、高齢化の負担が増しているためだ。

20年時点で15~59歳の人口は10年より5%減ったが、60歳以上は5割近く増えた。中国人力資源・社会保障省の予測では、21~25年の退職者が4000万人を超える一方、生産年齢人口は3500万人減る。

とくに22年からは中国版「団塊世代」の退職が本格化する。多くの餓死者を出した大躍進政策後の1962年から出生数が増えたためだ。定年の60歳に達する男性の数は2022年からの5年間で、21年までの5年間に比べ7割増える。

中国政府は年金収支の安定に向けて制度改革の検討を始めた。年金の受け取りに必要な保険料の納付期間を現行の15年から引き上げる方針だ。保険料収入の増加を狙っており、社会科学院の鄭秉文氏は「(いまより)10~15年延ばすべきだ」と語る。

抜本的な改革も避けられない。政府は25年までの5カ年計画の主要課題に法定退職年齢の引き上げを盛り込んだ。21年夏、地方政府が各界の意見を聞く座談会を開いたが、法整備などの具体策はなお不透明だ。市民の反発が根強いためだとみられる。

定年延長で受け取れる年金の総額が減り、老後の余暇や孫の世話に影響すると心配する中高年が多い。若年層は、就職が一段と難しくなると懸念する。

習近平(シー・ジンピン)指導部は「共同富裕(共に豊かになる)」を掲げ、格差是正を重視する。長年の懸案だった不動産税(日本の固定資産税に相当)の試験導入には着手したが、定年延長を実施するには丁寧な説明が必要になりそうだ。』