〝日本一周〟した中露艦隊の脅威 これからもやってくる

〝日本一周〟した中露艦隊の脅威 これからもやってくる
日本はどう対抗すべきか
小谷哲男 (明海大学外国語学部教授)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/24748

『10月下旬、日本海で合同演習を行った中国海軍とロシア海軍の艦艇合計10隻が、津軽海峡から太平洋に出て、伊豆諸島沖を経由して鹿児島県・大隅海峡から東シナ海に入った。これまで、両国海軍それぞれが日本を周航することはあったが、合同で巡航を行ったのは初めてである。

 近年深まっている中露の軍事協力の実態をふまえれば、このような動きは驚くべきことではなく、これからも繰り返されていくであろう。以下では、西太平洋における中露の軍事協力がどのように広がってきたのかを振り返り、日本が取るべき対応について考察する。

画像はイメージ(Dovapi/gettyimages)

冷戦前後に揺れ動く中露関係

 冷戦時代、当初協力関係にあった中国とソ連は次第に敵対するようになり、国境線沿いで武力衝突を繰り返すようになった。このため、1970年代以降、中国は米国と「暗黙の同盟」を結び、ソ連を牽制する道を選んだ。一方、ソ連はウラジオストクを拠点とする太平洋海艦隊の増強を進めていたため、日米は対馬、津軽、宗谷の3海峡を封鎖できる能力を高め、ソ連の艦隊を日本海に封じ込める戦略を取った。

 このため、欧州で戦端を開けば、ソ連は極東でも日米そして中国とも戦わなければならなかった。ソ連はこの二正面作戦に備えるだけの経済力を維持できず、冷戦は熱戦になることなく終結したのである。

 冷戦の終結により、中国とソ連(後にロシア)の敵対関係は緩和され、天安門事件後に西側諸国から経済制裁を受けた中国はロシア製の武器を購入し、軍事力の近代化を図るようになった。しかし、中露はやがて中国によるロシア製武器の模倣やロシア産原油の価格をめぐって対立するようになり、両者の軍事協力は2005年をピークに停滞するようになった。

中国にロシアの優位性を見せつけることも
 その後、ロシアは中国の軍事力増強への懸念を強めるようになり、08年に中国艦隊が津軽海峡を初めて通航したことはロシア軍には強い衝撃を与えたという。12年に中露は「海上連合(Joint Sea)」という年次海軍演習を開始したが、ロシア側には自らの優位性を中国側に見せつけるという意図もあったと考えられている。』

『しかし、14年にクリミアを併合したことでロシアは国際的に孤立し、中国も米国が構築を目指す対中包囲網に懸念を強めたため、両者の軍事協力は本格化することになった。海上連合演習も両海軍が水上戦、防空戦、対潜戦、上陸戦、捜索救難などの能力を高める場となり、演習を行う場所もクリミア併合後は地中海、南シナ海仲裁判断後は南シナ海が選ばれ、両国が国際社会と対立を深める中で互いの立場を支持する姿勢を見せるようになった。制裁と原油安で苦しむロシアは中国に最新鋭のSu-35戦闘機やS-400地対空ミサイルを提供することを躊躇しなくなり、両軍幹部の交流も深まるようになった。

時を追うごとに拡大していく軍事協力
 そのような中、中露が日本周辺で共同作戦を行うことも増えてきた。最初にそのような事例が確認されたのは、16年6月にロシアと中国の艦艇が同時に尖閣諸島の接続水域に入った時である。

 この時の両者の意図は依然として不明であるが、中露とも日本と領土問題を抱える中、尖閣諸島沖で連携を示すことで日本側を牽制した可能性がある。その後、17年8月にはロシア機が日本海から東シナ海に入り東回りで日本を周回飛行した翌日に、中国機が同様のルートで紀伊半島沖まで飛行し、両国が連携している可能性を示した。

 また、18年2月にも、両国の軍用機が日本海でやはり連携しているかのような飛行を行った。そして、19年7月と20年12月には、両国の戦略爆撃機が日本海から東シナ海で「共同飛行」を実施したことを公式に発表した。

予測できた中露海軍の日本一周
 今回、中露海軍が日本を1周したのは、以上のような両国の軍事協力の拡大をみれば、十分予測できたことであるし、今後も続いていくとみるべきである。

 13年にウラジオストク沖で海上連合を行った後、ロシア艦艇16隻に続いて中国艦艇5隻が宗谷海峡を抜けてオホーツク海に入った。この時は中露が同時に海峡を通航しなかったし、艦艇の数もロシアの方が圧倒的に多かった。しかし、今回の事例では同時に津軽海峡と大隅海峡を通航しており、艦艇の数もそれぞれ5隻と対等で、両国とも「合同巡行」と公式に位置づけている。爆撃機による「共同飛行」が複数回実施されたことを考えれば、海軍による「合同巡行」も一度で終わるとは考えにくい。

頭の片隅にはAUKUSも
 もっとも、中露の「合同巡航」には、近年米海軍が台湾海峡の通航頻度を増やしていることや、英国やフランス、カナダなどの域外諸国も同海峡を通航するようになったこと、また英空母打撃群の極東展開に合わせて大規模な海軍演習が西太平洋で頻繁に行われたことに対抗するという意味もあったであろう。

 英艦船は西太平洋に来る前にクリミア沖の領海で航行の自由作戦を行っており、ロシアも西側諸国の海軍が連携を深めることに憂慮していると考えられる。英米豪が新たな安全保障の枠組みであるAUKUS(オーカス)の下、原子力潜水艦など軍事技術で協力を深めることへの牽制の意味も込められていたかもしれない。』

『日本は公海を〝活用〟し、監視体制の強化を
 今後も中露海軍が日本の海峡を通航することが増えるとすれば、日本はこれにどのように対応するべきであろうか。端的に答えるなら、国際法上問題のない限り何もするべきではない。

 対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡、大隅海峡は「特定海域」と指定されており、国連海洋法条約で許される12海里(約22㌔メートル)の領海を宣言せず、3海里(約5・5㌔メートル)に留めているため、中央に狭い公海が存在する。

 今回、中露艦隊はそこで公海の自由を実践したに過ぎない。ただし、監視は必要であるし、実際に自衛隊はしっかりと監視をしていた。平時には「監視」し、有事には「封鎖」できる能力を維持していれば問題はない。

 一部には、これら特定海域をすべて領海にするべきとの議論があるが、仮にそうした場合、これらの海峡は「国際海峡」と位置づけられ、狭い公海部分が消滅し、外国艦船は海峡のどこでも潜水艦の潜航や上空飛行が認められることになる。それは、平時の監視を難しくしてしまう。

 そもそも「特定海峡」が設定されたのは、冷戦時代に米ソの核搭載艦船がこれらの海峡を通航しても非核三原則の「(領海に)持ち込ませない」に抵触することを回避するためだったと考えられている。しかし、現代でも国際航行の自由を促進するという観点から公海部分を残しておくことには意味はある。そうであれば、中露艦隊の自由な航行も認めるべきなのである。

日本も航行権を行使し、中露の「二重基準」阻止を
 一方、中露が日本周辺で航行の自由を実践できるのであれば、日本も中露の周辺海域で航行権を行使するべきである。中露が「特定海峡」のような狭い海域を通るのであれば、海上自衛隊がより広い台湾海峡を通航することを躊躇する理由はない。また、ロシアはウラジオストク沖のピョートル大帝湾を内水と位置づけ、外国艦船の航行を制限しているが、国際法上の根拠は認められない。海上自衛隊はピョートル大帝湾でも航行の権利を行使するべきである。

 海洋国家である日本にとって、航行の自由は死活的に重要な利益である。中露のように自らの近海では外国軍艦の航行の権利を妨害しながら、他国の海域では航行の自由を満喫するような二重基準を認めてはならない。日本は米国やその他の海洋国家と連携して中露の二重基準を否定し、自由な海を守っていくべきなのである。』