中国の共同富裕に揺れる米金融

中国の共同富裕に揺れる米金融 ライオネル・バーバー氏
英フィナンシャル・タイムズ前編集長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD273FS0X21C21A0000000/

『米トップクラスの金融機関を率いる人々にとって、最高ともいえる時期が訪れている。世界的なM&A(合併・買収)の急増で投資銀行業務などが伸び、7~9月期は軒並み大幅増益となった。業界を取り巻く環境は順風で、(地域別では)中国で追い風を受けているようにみえる。

米金融大手ゴールドマン・サックスはこのほど、中国で投資銀行業務を手がける現地合弁の完全子会社化を巡り、中国当局の承認を受けたと発表した。米系では、JPモルガン・チェースに続き2例目となる。

米中は香港や台湾、あるいは貿易を巡って真っ向から対立している。中国が8月に極超音速兵器の実験をしたと報じられるなど、軍事技術でも競い合う。米中の金融部門の利害一致は、両国が特に地政学的に反目し合うのとは対照的だ。

(2001年の)中国の世界貿易機関(WTO)加盟に向けた交渉が大きく前進した1999年以降、中国市場への進出という経済的な好機が、政治的なリスクより大きいという考え方が広がっていた。欧米企業は、中国政府による外資の過半数出資や全額出資への規制、技術移転の強要などにもしぶしぶ従ってきた。中国は巨大な存在で、アジアは成長の源だった。
米政財界の有力者は、西側の資本主義国との関係構築により中国の姿勢がゆっくりと変化し、民主化にもつながるだろうとの見方を示していた。いまとなっては、期待が大きすぎたことが証明された。中国は世界経済を都合良く利用する一方、自国に欠かせない権益は守ってきた。

習近平(シー・ジンピン)国家主席の下、大事にされたのは(習氏がトップの)中国共産党の権威だ。習氏が着手した汚職取り締まりは、企業への締め付けに取って代わられている。アリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏ら、シリコンバレーとの競争の切り札とみられたハイテク企業幹部の言動まで問題視されたとされる。

習氏が裕福なエリート層を引きずり下ろしたことで、中国の富裕層と密接な多くの米機関投資家に戦慄が走った。ニューヨーク拠点のファンドマネジャーは「いまは中国のリスクを織り込み、(資産などの)価値低下を前提に取引している」と語る。

いままでのところ中国政府の中枢がひるむ様子はない。習氏の「共同富裕(ともに豊かになる)」を目指す新たな取り組みは、2022年秋の共産党大会で3期目続投を勝ち取るための掛け声にとどまらない。ハイテクや不動産の企業が罰を受けて当然だと位置づける意味もありそうだ。

米金融業界に残された選択肢はどれも甘くないだろう。米マイクロソフト傘下でビジネス向けSNS(交流サイト)を運営する米リンクトインのように中国から撤退すれば、自らの首を絞める。米IT(情報技術)各社に比べ、金融業界は中国で大きな権益を手にしているようにみえる。

シンガポールなどに資産や人材を移し、投資リスクを減らすのを推奨する意見もある。だが、米金融大手などは、中国に対し悪い印象を与える行為であると強く認識している。

投資家の信頼感や経済成長をリスクにさらすような改革を、習氏がどこまで断行するつもりかというのが重要な問いになってくる。中国が経済的な意味で超大国になりきれるかどうかは、人民元の国際化や中間層の成長などにかかっている。いずれの点でも、米国の資本とノウハウは欠かせない。

15~16年に中国の金融市場が不安定化した際、(人民元の国際化につながる一方で投機マネーの流入に拍車がかかりかねない)資本取引の開放が進みすぎていたと当局は認識しただろう。中国政府は、同じ過ちを繰り返すつもりはない。米カリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授らも、人民元の国際化の歩みは、緩やかに進んでいくと予測する。

米金融業界は全般的に、(リスク懸念はくすぶるものの)中国が超大国への変貌を遂げるという賭けに一段と入れ込もうとしているようにもみえる。大胆な賭けは当面、かなりの度胸を必要とするはずだ。』