「敵基地攻撃」はミサイル防衛の一部 重層的な備え必要

「敵基地攻撃」はミサイル防衛の一部 重層的な備え必要
編集委員 高坂哲郎
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM220X60S1A021C2000000/

『中国や北朝鮮などの保有する各種ミサイルの脅威が、増大している。一挙に大量発射するといった攻撃手法に加え、迎撃が難しい新型も登場した。日本はミサイル攻撃に対し、国民を重層的に守る新たな備えの時期を迎えているようだ。
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いままでの日本のミサイル脅威への対応をまとめると「対処が一面的で、事態が悪化しても一時的に反応するだけで、総じて国民の命を守ることへの執着心が薄い」ということになるだろう。2016年から18年にかけ、北朝鮮が多数の弾道ミサイルの発射訓練をして日米韓を威嚇した。北朝鮮は、1カ所に何発ものミサイルを撃ち込む「飽和攻撃」、打ち上げ高度を高くとることで再突入時の速度を高める「ロフテッド発射」など新たな攻撃手法を次々に誇示した。
航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)

結果として、日本に飛来するミサイルを自衛隊が迎撃する、地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)のような従来型のミサイル防衛は事実上破綻してしまった。ところが当時の日本政府は、従来型の手法で対応できるとの建前を崩さなかった。

最近になり、中国や北朝鮮は、極超音速ミサイルや落下後に再び高度を上げることで迎撃を難しくする変則軌道型ミサイルなどの保有を誇示するようになった。政府はようやく迎撃は困難と認めるようになり、ミサイルを発射前に無力化する、いわゆる「敵基地攻撃」が議論になっている。

ただ目指す手法は変わっても、相変わらずの問題もある。一面的にしか取り組まないという姿勢だ。ミサイル防衛問題に詳しい金田秀昭元海将によると、ミサイル防衛とは本来、

①核兵器で攻撃された場合は同等の手段で報復する構えを示して攻撃を踏みとどまらせる「核抑止」
②攻撃が切迫している場合の「敵基地攻撃」
③飛来するミサイルの「迎撃」
④迎撃し損ねたミサイルから国民を守るための避難活動や避難場所の整備といった「国民保護」

ーーの4つを総動員した構え方を指すという。米国やイスラエルは冷戦時代から並行して4つに取り組んでいる。

日本の取り組みをみると、敵基地攻撃に関しては、与野党ともおおむね慎重ないし態度を曖昧にしたままだ。仮に政治が決断しても、自衛隊が必要な装備を調達し、訓練を重ねて作戦実行に必要な技量を得るには相当な時間を要する。
弾道ミサイルを想定した訓練で、バスから降りて地下に避難する参加者ら(17年7月、富山県高岡市)

国民保護は17年春から18年春の間に一部の自治体でミサイル避難訓練が実施されたが、18年6月の米朝首脳会談の開催決定後に中断した。米朝交渉が何の成果もなく終わり、逆に北朝鮮の核戦力強化が続いているのに訓練再開の気配は見えない。

揺らぐ米国の「核の傘」

米国の「核の傘」も実効性が揺らぎつつある。従来は日本が核攻撃を受ければ、米軍が核で報復するとして対日核攻撃を抑止してきた。しかし中国やロシアに加え、北朝鮮までもが米本土に届きうる核弾道ミサイルの保有に近づいてきた。米国は、敵が米本土への核攻撃に踏み込む事態にエスカレートすることを恐れ、日本が核攻撃されても報復に動いてくれない懸念も出てきた。核抑止における「日米デカップリング(分離)」という事態になる。

ミサイル防衛の4つの要素別に整理すると、

①の核抑止は揺らぎ、
②の敵基地攻撃は実行のメドが立たず、
③の迎撃は現状では困難で、
④の国民保護も忘れられたまま、

ということになっている。今後、いずれも立て直しが求められるだろう。

なかでも敵基地攻撃に関しては、日米同盟の存続を左右する課題ととらえる必要がありそうだ。朝鮮半島有事になれば、米軍は北朝鮮のミサイル発射台となる移動式運搬車や潜水艦をつぶす危険な攻撃作戦に動くことになる。日本がこうした任務をすべて米軍任せにした場合、日米同盟は続くだろうか。

このほど米国が英豪と新たな安保協力枠組み「AUKUS(オーカス)」を組んだ背景には、3カ国が第1次世界大戦からイラク戦争まで、何度も戦時にリスクを共有してきた仲間ということがある。敵基地攻撃能力の保有は、米軍による核抑止を盤石にするうえでも避けて通れそうにない。

国民保護に関しては、主要な自衛隊・在日米軍基地周辺や大都市部の自治体において、避難訓練を徐々にでも再開する必要があるだろう。実は、国民保護を主管する総務省消防庁は18年春に訓練を中断する前の時点で、自治体の施設に加え頑丈な地下空間を有する民間施設も避難場所として指定する準備をしていた。こうした取り組みの再開も欠かせない。
迎撃に関しては、ミサイルをミサイルで撃墜する従来型手法は難しくなったが、新技術で克服する道がある。高出力レーザーや、超電導の力で弾丸を高速で撃ち出す「レールガン」という方法だ。要素技術は川崎重工業や三菱電機、日本製鋼所が既に持っている。

「問題の本質」は危機意識

イスラエルに「泥棒は壁の穴であってネズミではない」ということわざがある。ネズミが部屋に入ってきて食べ物を盗む厄介ごとの「本質」は、ネズミの存在以上に、出入りを許す壁の穴をふさごうとしない住人のあり方だとの教えだ。

中国や北朝鮮などが核兵器やミサイルを放棄することは、それぞれの体制が存続する限り、まず起きないだろう。外交努力は大前提だが、「壁の穴」をふさごうとするのは、攻撃を断念させるための知恵ということになる。ミサイル脅威の「問題の本質」は、日本人の危機意識にこそあると認識する必要がありそうだ。』