中央アジアの成長にタリバンの影

中央アジアの成長にタリバンの影 岐路の「一帯一路」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR172OJ0X11C21A0000000/

『【モスクワ=石川陽平】中央アジア5カ国が中国の広域経済圏構想「一帯一路」関連の投資を受け、発展している。アジアと欧州をつなぐ要衝の5カ国には高層ビルが立ち並び、物資を運ぶ列車や車が往来する。だが、8月に近隣のアフガニスタンをイスラム主義組織タリバンが制圧し、難民や過激派組織の流入リスクが高まる。旧ソ連から独立後30年の節目を迎え、岐路に立たされた。

ウズベキスタン南部テルメズに16日、タリバンの代表団が到着した。ウズベクはアフガンとの2国間関係の「行程表」を作成することで合意した。タリバンとの関係構築に米欧は慎重だが、ウズベクは経済協力も協議する。「兄弟」と呼ぶアフガンの混乱が長引けば、難民やイスラム過激派の流入で安定が損なわれかねないと危惧する。

ウズベクにカザフスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスを合わせた中央アジア5カ国はこの夏、アフガンの動乱の影響に直接さらされることになった。タリバンが首都カブールを制圧し、イスラム法の厳格な適用を嫌う市民らの一部はアフガンの国外へ退避する。ウズベクのサファエフ上院第1副議長は「中央アジアの全域で投資が減退しかねない状況だ」と訴えた。

頼みの綱は中国だ。「一帯一路の目標と完全に合致する」。ウズベクのミルジヨエフ大統領は7月半ば、中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相に訴えた。提唱したのは中国西部からキルギスを通り、ウズベク南部とアフガンを経由してパキスタンの港に至る新たな鉄道路線の整備だ。

ミルジヨエフ氏は、アフガンを安定させるには、同国も一帯一路に組み込み、成長の果実を共有する仕組みが必要だと考える。そうでなければ、タリバンは現在の収入の柱であるケシ栽培をやめられないからだ。

かつてシルクロードの一部だったアフガンをアジアと欧州の間の物流拡大で支え、「陸の孤島」である中央アジア諸国に海への出口への選択肢を増やす――。タリバンとの関係構築に前向きな中国に期待する。

すでに中国マネーが中央アジア経済を支えている。

緑豊かなタジキスタンの首都ドゥシャンベは建設ラッシュで、今年の夏も重機の騒音が聞こえない日はなかった。新型コロナウイルスの感染拡大で通常の経済活動が制限を受けても、政府の建物のほか、住宅、道路の建設も急ピッチで進む。

議会ビルの建設現場は高い塀で囲われている。外側には赤字で「中国援助」と書かれている。議会、政府庁舎のビルの建設資金は計3億ドル(約340億円)を超し、中国が無償で提供する。工事を請け負うのは中国の建設大手、烟建集団だ。

東西の交易ルートだったシルクロードのほぼ中心にあたるウズベクの古都サマルカンドはいま、中国の協力で現代的な観光都市に変貌を遂げつつある。

「あれが高層の五つ星ホテルで、中国系の企業が運営する予定です」。観光開発が進むサマルカンド郊外の212ヘクタールの建設用地で、責任者のムーミン・カディロフ氏が工事中のひときわ高い建物を指して説明した。

同氏によると、2021年末の完工を目指し、8つの高級ホテルや大規模な国際会議場や屋外劇場などが建設される。3億ドルを超す事業費の主な出し手は、中国の政府系ファンド、シルクロード基金などだ。

中央アジアは19世紀、英国とロシアが支配を巡って争い、「グレートゲーム」と呼ばれた。5カ国は1991年8月以降、相次ぎ独立を宣言した。その後、ロシアを軸に独立国家共同体(CIS)を形成したが、結束は弱く、中国の進出を受け入れた。

13年9月にカザフを訪れた中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は「シルクロード経済ベルトをともにつくるべきだ」と中央アジア諸国などに訴えた。「一帯一路」の創設宣言だ。中国から中央アジア5カ国への純投資額は12~19年、年平均で9億ドルに達した。キルギスの年間予算の半分に近い。

中国が重視するのは欧州に通じる鉄道、天然ガスのパイプラインなど輸送インフラだ。

1990年代、5カ国は計画経済から市場経済への転換に苦しみ、国内総生産(GDP)は急減した。2000年代に入り、低迷期を脱した各国はシルクロード国家復活の夢を、中国の「一帯一路」に重ねた。経済をテコに各国の政府への影響力も強めようとする中国を警戒する見方もある。

アフガン問題が今後、中央アジア諸国を揺さぶれば、中国との関係にも影響する可能性はある。』