中国共産党「3度目歴史決議」

中国共産党「3度目歴史決議」 習氏、毛沢東同列狙う
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『中国共産党は11月に開く第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)で結党以来100年の歴史を総括する「歴史決議」を審議すると決めた。毛沢東、鄧小平の時代に続く第3の決議となる。歴史決議とは何を意味し、習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)の権力にどう影響するのか。3つのポイントから読み解く。

・歴史決議とは何か
・予想される内容は
・習氏の狙いは何か

(1)歴史決議とは何か

この決議は中国共産党にとって極めて重い意味を持つ。一義的には過去の歴史を整理し、今後の方針を指し示す目的だが、現実には権力闘争と混乱に終止符を打ち、指導者の核心的地位を確立する役割を果たしてきた。

第1の歴史決議は、毛が対立派の粛清へと仕掛けた「整風運動」の終結点となった。

当時、共産党には有力な古参幹部も多く、毛は絶対的な主導権を掌握していたわけではなかった。整風運動で主要幹部らは過去の誤りを追及され、激しい自己批判と他人の告発を強制された。その総括となった「若干の歴史問題に関する決議」を通じ、毛以外の有力幹部による過去の党方針は「誤った政治路線」と位置付けられ、毛は独裁的地位を確実にした。

鄧小平時代の第2の決議は文化大革命後の混乱を収拾するため、文革における毛の誤りを明確に認めた。一方で功績は「晩年の過ちと区別すべきだ」として毛沢東思想を引き続きマルクス主義と並ぶ党の柱と位置付けた。市場主義経済に乗り出す意義も明記され「毛時代への決別」と「鄧時代の幕開け」を打ち出した。

(2)予想される内容は

新華社によると、名称は「党の100年にわたる奮闘の重大な成果と歴史経験に関する決議」。今回、歴史決議を出すかどうかで党内には激しい闘争があったとみられている。名称をよくみると、同じ「歴史決議」でも毛、鄧は「歴史問題に関する決議」であるのに対し、習氏の決議は「歴史経験に関する決議」となっている。この小さな違いこそ習氏が反対派を押し切るために譲歩した点との指摘もある。

具体的な内容は明らかにされていないが、新たな決議に関する党の趣旨説明には2つの重点がある。「習氏の核心的地位と権威」および「中華民族の偉大な復興と中国の夢の実現」という新たな歴史的任務の確立だ。

過去の決議は前時代の否定に意味があった。習氏は今回、過去を否定したり文化大革命や天安門事件の評価を変えたりするリスクはあえて冒さず、毛、鄧、江沢民(ジアン・ズォーミン)元国家主席、胡錦濤(フー・ジンタオ)前国家主席それぞれの功績を明示したうえで、習政権の成果を誇るとの見方が多い。

習氏は「2つの100年の奮闘目標」として「党創立100年までの小康社会完成」と「新中国成立100年(2049年)までの近代的社会主義強国実現」を提唱してきた。第1の達成を歴史的成果として時代に区切りをつけ、第2の奮闘を新時代の幕開けとする可能性がある。「中国の特色ある社会主義の新たな発展段階」において、マルクス主義、毛思想と並び、習氏の思想の重要性を強調するともみられる。

(3)習氏の狙いは

下記のような目的と効果が想定される。

①毛、鄧に続き「歴史決議を出した指導者」との権威を手に入れる。

②習氏の記述量や質を毛と同等とし、自身を毛に並ぶ「偉大なカリスマ指導者」へと引き上げる。

③「毛・習>鄧>江・胡」という序列を歴史的定義とし、江氏一派に引導を渡す。

これにより習氏は来年秋の共産党大会で異例の3期目就任を確実にする可能性が高い。歴史を手段に権力を固める方式は毛譲りといえそうだ。

一方、毛と鄧の歴史決議には大きな違いもある。毛は決議を機に独裁を実現したが、鄧は文革を踏まえ「いかなる形式の個人崇拝も禁ずる」と明記し、集団指導体制を確立した。毛路線を歩む習氏は鄧が残した歴史の教訓を再び塗り替える可能性がある。

共産党の歴史決議は中国の権力構造を変えただけではない。間違いなく世界にも多大な影響を及ぼしてきた。習氏が紡ぐ新たな「歴史」はどんな世界を生み出すのだろうか。

(中国総局長 桃井裕理)

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高井宏章
日本経済新聞社 編集委員
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ひとこと解説

中国の政治では「言葉」が重要な役割を持ってきました。文書や指導者の発言、メディアや「壁新聞」の文言などが転換点や潮流を読むヒントになってきた。歴史決議で国家の長期戦略が明文化される意味は重い。

一方、毛沢東と鄧小平という二人の世界史的巨人に比べて、習近平氏の実績やカリスマ性は率直に言ってかなり見劣りします。3度目の歴史決議は権力闘争と権威付けの色合いが濃いように見えます。

習氏が「中国の夢」を実現できれば同等の歴史的指導者と評価されるのでしょうが、米中対立や経済成長の鈍化を考えると道のりは厳しい。

「有言実行」に縛られることが、中国にとっても、世界にとっても火種にならないか懸念します。

2021年10月19日 12:36 (2021年10月19日 12:58更新)』